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【書籍化&コミカライズ】女神から『孵化』のスキルを授かった俺が、なぜか幻獣や神獣を従える最強テイマーになるまで  作者: まるせい
二章

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第69話 錬金術師ギルド見学⑤

 カフェを出た俺たちは、次の建物を訪れていた。


 そこは先程までの農場とは違い、全体が高い壁で覆われており、天井には網が張られている。まるでテイマーギルドの施設のような造りだ。


 入り口には大型の門があるのだが、馬車が通れるくらいで、ロレインは身分証を見せて警備の人間と話をしている。


 俺たちは軽いボディチェック(セリアは女性警備員から)を受け、ようやく中にはいることができた。


「ここはどういった施設なんだ?」


 最初の施設がハーブなど錬金術に必要な植物を育てるための施設だったことから考えて、錬金術がらみの何かがあると考えるのは当然なのだが、ボディチェックを受けたことからさらに重要な施設であることがうかがえる。


「先程が植物系のレアアイテムを生産する農場だとすると、こちらは牧場のような扱いになりますね」


 ロレインは振り返ると俺の質問に答えた。


「それにしては……どの建物も強固な造りになっていませんか?」


 セリアの指摘通り、先程の農場では一部を除き、中で何を育てているのか見ることができたのだが、今回は通路を除くとすべて大きな建物が並んでいる。


 外壁の高さといい、警戒度が高すぎるきがする。


「その疑問にお答えしますわ。まずはこちらの建物に入りましょう」


 ロレインがセキュリティカードをかざし、今度は三重の扉を潜り抜ける。


 それぞれの開閉にも時間が掛かるので、随分と時間が掛かってしまった。


 中は先程、植物に魔力を浴びせていたのと変わらぬ様子の薄暗い部屋だった。


 魔導具が起動する音の他には何もなく、透明な板の向こうには草が植えられた敷地があり、上の階からはギルド員がその場所を観察しているのが見えた。


「セリア、今度は大丈夫か?」


「ええ、兄さん。この手の施設は魔導具が稼働しているので多少は当てられてしまいますが、このくらいなら平気です」


 セリアは笑って見せると問題ないことを告げる。


 もっとも、見学に水を差したくなくて無理をしている可能性もあるので、彼女の体調が悪いかどうかはしっかり見ておくことにしよう。


「それで、ここは一体何をしている場所なのですか?」


 セリアは首を傾げるとロレインに聞いた。今のところ、草の上にところどころ石がポツポツあるだけで、平原を再現しているだけにしか見えない。


「しっ……あちらをご覧ください」


 ロレインが口元に手を当てある方向を指差す。すると、そこには……。


「Dランクモンスター【スパイダー】」


 八本の足と八つの目を持つ、俺の腰の高さ程のモンスターがいた。


「ひっ!」


 セリアは悲鳴を上げると俺に抱き着いてきた。


「兄さん……」


「大丈夫だから」


 セリアが不安そうな表情を浮かべながら俺の服を握ってくる。


 Dランクモンスターともなると、普通に街で生活していれば一生遭遇しない驚異的な存在だからだ。


「平気ですわ、こちらの魔法陣で防壁を張っておりますので」


 近づいてきたスパイダーと目が合い、自然と喉を鳴らす。


 強力な毒を持つモンスターと至近距離で見つめ合うプレッシャーを感じているのだが、ロレインは平気な顔をしていた。


「もしかして、テイムしているのか?」


 その余裕から導き出された答えを俺は問いかけた。


「いいえ、危害をくわえられないことを知っているからです」

 付与術師に依頼してあるらしく、強力な結界を信用しているようだ。


「あの……どうして、モンスターがここに?」


 セリアはおそるおそる質問をする。


「錬金術ギルドでは様々な薬も研究しております」


 ロレインはセリアの質問に答え始めた。


「スパイダーの爪から出る毒液は浴びると全身に回り痺れや呼吸困難を引き起こします」


 それこそがセリアが嫌悪している理由だったりする。


 死に至る程の毒ではないが、スパイダーが毒を持っているのは一般常識なので見かけたら全力で逃げることが推奨されていた。


「ですが、この毒を調合することで強力な解毒剤を作ることができるのですよ」


「毒から薬が作れるなんて……」


 人に害する毒からその毒を治す薬が作れるということに驚いた。


「錬金術においては毒と薬は同じもの。人体に影響を与える内容の差でしかありません」


 俺の言葉を聞いたロレインはそう説明をする。それは今まで生きていた中で初めて聞く面白い発想だった。


「それとスパイダーを飼育しているのに何か関係があるんですか?」


 セリアは薄気味悪そうにスパイダーを横目で見ると、俺の背中にべったり張り付く。


「スパイダーは卵から産まれます。最近になり防護魔法の技術も進歩し、安定した孵化条件も確立されました」


 魔導師ギルドや付与師ギルドなどでも日々研究が行わている。


 モンスターを封じ込めておく技術も生まれていた。


「こうして飼育しておけば、何かのトラブルで大勢の人間が毒を受けても、解毒ポーションをすぐに作製することができます」


 毒というのは、コカトリスの石化程ではないが厄介で、ポイズントード戦の時も苦労させられた。


「確かに、これなら森の奥まで行く手間も省けるし、素材の運搬も楽だな」


 実際、スパイダーは砂地に潜むので探して討伐するのにも骨が折れる。いつでもここに来れば毒液が手に入るなら、他の依頼に時間を割くこともできる。


「現在は他の毒性のモンスターの飼育環境も研究しています」


 俺がそんなことを考えていると、ロレインは講義を続けていた。


「例えばどんなのですか?」


 セリアが聞くと、


「今、我々が挑戦しているのはコカトリスの卵です。こちらはスパイダーなど比べ物にならない程条件が厳しいですが……」


「ああ……そういえば」


 その言葉を聞いて思い出す。俺が国家冒険者試験を受けている最中、コカトリスの卵の収集依頼があった。


 てっきり、料理に使うのかと思ったのだが、あれはもしかすると錬金術ギルドの依頼だったのだろうか?


「コカトリス……もしかして石化解除ポーションの量産のためですか?」


 セリアは自分の質問を投げかけた。


「そうですね、今のところモンスターから受ける一番厄介な被害は石化です」


 コカトリスは足が遅いので、被害にあう数こそ少ないのだが、一度石化してしまうと治療が困難となっている。


「今から五十年前にようやく石化解除ポーションが発明され、不治の病ではなくなりました」


 ロレインは錬金術の歴史を俺たちに語る。


「ですが、毎年何名もの尊い命が散っています」


 石化を解除できるのは完全な状態で保存された石像となるのだが、不慮の事故で欠けてしまったりして治せないことがある。


 そうなるのも、石化解除ポーションの在庫が少ないからだ。


「私たちは救えるはずだった命を取りこぼしたくありません」


 だからこそ、研究をしているのだと彼女は言った。


「立派な考えだな」


 俺はロレインの志の高さに尊敬の念を覚えた。


「コカトリスは中々卵を生みませんからね、一つ入手するだけでもかなりの金額がかかりますし……」


 セリアがそう言うと、


「覚悟の上です。もし孵化させた場合、テイマーギルドにも協力をしていただきたいと考えているのですよ」


 従魔として育てる研究と連携させることで、危害を加えるのではなく素材を収集するのが目的なのだという。


「ああ、できることがあれば俺も協力させてもらう」


 俺の孵化のスキルなら力になれる可能性は高い。卵が手に入った際には協力を惜しむつもりはなかった。


「優秀なテイマーのクラウス様なら、コカトリスを手懐けることもできるかもしれませんね。期待しております」


 ロレインはそう言うとじっと俺を見つめてきた。


「次の飼育場所につきましたわ」


 気が付けばすっかり話に夢中になっていた。そうこうしている間に次の場所に到着する。


 ここのセキュリティは一つしかないらしく、比較的危険度が少ないモンスターがいるようだ。


「こちらは先程のような崇高な理念ではなく、これまでの技術を利用した事業にかかわっている場所です」


 重苦しい雰囲気を変えようとロレインは軽く言った。


「それは、どんな事業なんですか?」


 ロレインの横に並び、建物に入ったセリア。彼女はロレインに質問をぶつけながら中を確認する。


「おい、急に立ち止まるなよ」


 ふと少し進んだところでセリアが急に立ち止まり、制止が間に合わずぶつかってしまった。


「こちらは裁縫師ギルドに卸すことになっている、服を作るための素材を吐き出すモンスターを環境を整えて飼育しておりますわ」


 するとロレインがそう説明をしてくれた。


 この場所からでは何を育っているのかわからない。俺はセリアの肩越しに飼育場所を覗き込むと、大量のモンスターがうごめいていた。


「マジックワームです。魔導師のローブや治癒師のローブなど、その他様々な服に使える生地を生み出すこのモンスターは、脅威も少なく素材を取り放題、なかなか良い収入源となっています」


 柵越しにものすごい数のマジックワームがいて、わらわらと動いている。


 俺はパープルの生まれたころを思い懐かしんでいるのだが……。


「セリアさん?」


 先程から固まったまま身動き一つしないセリアの顔を、ロレインは覗き込んだ。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!」


 次の瞬間、セリアの絶叫が建物中に響き渡るのだった。

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