第67話 錬金術師ギルド見学③
ロレインの後ろを歩きながら、俺とセリアは通路の左右にある植物を興味深く観察していく。
どれも畑が整備されており、植物名が解るように立札が立っている。
植物の手入れをしているのはギルド員のようで、白衣あるいは農作業衣に着替えている者たちが真剣な表情を浮かべ議論をしている姿がそこらでみられた。
見られるのは市場に出回っている、少し珍しい程度……EランクやDランクのレアアイテムまでだが、これだけの量ともなると相当な金額になりそうだ。
扉のセキュリティは盗難を警戒してのものなのか強化されており、無断でここから物を持ち出すのはたとえ研究員でも不可能だろう。
「さて、先程は土の魔力を除去することで、ハーブの成長を妨げなくなるというお話をしましたが、こちらは逆の発想の研究になります」
ロレインが立ち止まったのは、施設内に建てられた小さな建物だった。
ロレインのカードでセキュリティを解除して中に入る。
この厳重な場所でさらに厳重な扱いを受けているということは、それだけこれが重大な物を扱った建物ということ。
「なんだか……薄暗くて……怖いです」
暗い中、セリアの表情が歪む。何やら嫌な感じを覚えたのか口元に手を当てていた。
「こちらは、少々特殊な実験を行っておりまして。魔力をゼロにすることで弱い植物を育てることができるのとは逆に、魔力を注ぐことで強い植物を育てられるのではないか? という発想を元に実験を行っています」
分厚い透明な壁で仕切られていてその中には花が生えており、それぞれに赤や青に緑の光が当てられている。
「属性変換の魔導具を使い、火・水・風の属性の魔力を個室に充満させ、魔力飽和状態を作り出しています」
確かに言われてみれば、各部屋から魔力の気配が感じられる。俺ですら察知できるというのだから、相当強烈な魔力に違いない。
「基本的に、極レア植物というのは秘境や魔境などに存在するとされておりますが、いずれも魔力が高い場所です。モンスターなどは魔力が強い場所程強力で、逆に魔力が弱い場所では弱い。つまり、魔力が濃い場所では強い生命力を持つことができるのです」
その理屈は大いに納得ができる。
この世界に生きる生物は魔力と切り離すことができず、魔力を保有している者の方が魔法などの大きな力を振るえるからだ。
「そうすると、クリスタルハーブなんかも再現できたりするのか?」
俺は以前パープルに食べさせたレア植物を思い浮かべた。
「理論上は可能ですが、今ある魔導具と触媒の出力では全然たりません。それこそAランククラスのレア触媒を大量に用意しないことには……」
ロレインは眉根を寄せ難しい顔をする。それだけのレア触媒を大量にとなると資金が足りなくなるし、一本二本なら依頼を出した方が確実か。
「兄さん、私……ちょっと……先に出ています」
彼女と話していると、セリアが口元をおさえながら慌てて外に出て行った。
「お、おい……大丈夫なのか?」
俺は追いかけると地面にへたり込むセリアに声を掛ける。
「ご、ごめんなさい。吐き気がしたので……」
青ざめた顔をしたセリアは目に涙を浮かべそう告げる。
「もしかすると、魔力酔いかもしれませんわね。わたくし自身はなったことがないのですけど、優秀な魔導師が魔力の濃い場所にいると気分が悪くなることがあります。メリッサも、魔法の授業で大魔法が飛び交った後は顔色が悪くなっておりましたわ」
「すみません……せっかく凄い実験の話を聞かせていただいてたのに」
「あまり無理をするな」
俺がセリアの背中を擦ると、彼女はホッとした表情を浮かべ俺を見た。
「こちらこそ、申し訳ありませんでした。他にもお見せしたいレア植物がいくつかあったのですが、そちらはひとまず置いておいて一旦休憩をしましょう」
ロレインはそう言うと、俺たちを連れて建物を出ると食堂へと向かった。




