第64話 錬金術師ギルド見学①
「ようこそ、錬金術師ギルドへ。歓迎するわ」
翌日になり、俺は改めて錬金術師ギルドを訪れた。
「あ、ありがとうございます。無理を言ってしまい申し訳ありません」
その横ではセリアが緊張して頭を下げていた。
「そんなに緊張しなくても、取って食ったりしないわよ」
タバサさんは口元に手を当てるとクスリと笑って見せる。
その仕草は美しく、思わず見惚れてしまいそうなのだが、レブラントさんの怯えようを思い出した俺は気を引き締め直した。
「それにしても、錬金術師ギルドを妹に見学させたいなんて、クラウス君はあれだ、シスコンなんだ?」
「……大事な家族なだけです」
自覚はあるが、他人から指摘されると反論したくなる。
彼女に要望したのは、錬金術師ギルドの見学だった。
元々セリアが錬金術に興味があったので、この機会に見学をできたらと思ったのだ。
「もう、兄さん。そんな引きつった顔しないでください。そんなのだと失礼ですよ」
横からセリアが肘で突いてくる。その表情は錬金術師ギルドに興味を持っており、これから建物内部を見て回ることを楽しみにしている様子だった。
「それにしても、本当に見学させていただいて宜しかったんですか? お邪魔してしまったのでは?」
セリアは表情を改めると、俺にかわりタバサさんに話し掛ける。
「平気よ。クラウス君の身内なら大歓迎だし、彼とは今後とも仲良くやっていきたいからね」
タバサさんの言葉をそのまま素直に受け取るわけにはいかない。どう考えても素材狙いに違いないのだから。
「それにしても、あなた随分と魔力が多いわね。エルフ並みじゃない」
タバサさんは目を細めるとセリアの全身を見渡す。セリアもそうなのだが、魔力の扱いに長けた者は相手の魔力を視認することができるらしい。
「今のうちに錬金術を覚えたら将来活躍できると思うけど、インターンにきたりしない?」
セリアの才能を見抜いたのか、タバサさんは勧誘を始めた。
「え、えっと……とても光栄なのですが、一応、魔導師希望なので……」
彼女は宮廷魔導師になるという目標があるので断った。
「それにしたって鱗粉の取引量を増やすためのお願いが、錬金術師ギルドの見学だなんて、クラウス君は勉強熱心よね」
「俺は、妹と違って学がなくそのまま冒険者になってしまいましたから。こういう場所は場違いなので、機会がなければ学べませんからね」
これまでの冒険者活動で、周囲から教えられた様々な知識が役に立つ場面は多かった。
今後、国家冒険者として仕事をしていくわけで、戦い以外の専門知識も必要になる。
それならば、せっかく錬金術師ギルドのギルドマスターが目の前にいるのだからと見学を申し出たのだ。
「今日は本当なら私が案内したいところだったんだけど、会議が入ってしまったの。代わりの人間を手配しているから、もう少し待ってもらっていいかしら?」
「ええ、お忙しいところありがとうございます」
そういうとタバサさんが出て行く。受付に任せておけばよいのに、わざわざ顔を出してくれただけでも配慮が見える。
「それにしてもお前、即答だったな?」
二人きりになり、普段の様子を取り戻した俺は、セリアに先程の話題を振る。
彼女はお茶を飲むのを止めると、両手でカップを持ち考える様子をみせた。
「錬金術師ギルドのマスターが直々に誘ってくれたんだ、光栄な話じゃないのか?」
目標が決まっているとはいえ、他に選択肢を残しておいても良かったのではないか?
俺はセリアにそう確認した。
「私も、結構錬金術に興味はありますよ。学科が違う友人にそれとなく話を聞くこともありますし、生活に根付いた方面で活躍する分野なので、少し知っているだけでも色々役に立ちますし」
「だったら……」
「でも、私は自分の力で認められてその仕事に就きたいんです」
彼女は真剣な表情で蒼い瞳を俺に向けてくる。
「今日の見学だって、兄さんのお蔭で適ったものですし、ギルドマスターとの顔合わせなんて、ギルドに入ってからでも五年は先ですよ、普通」
セリアが一般常識だとばかりにそう告げる。
俺のようにとんとん拍子に偉い人物に声を掛けられるのは珍しいらしい。
どうせ見初められるなら、俺への繋ぎというわけではなく自身の力で勝ち取りたい。
セリアの強い瞳がそう物語っていた。彼女にはこういう負けず嫌いな面もあったなと思い出す。
「それより、せっかく色々見せてもらえるチャンスなんですから、なるべく多く学んで帰って、友人に話してあげたいです」
ギルドに所属していない人間が、内部を見られるのは珍しいらしく、セリアはワクワクとした表情を浮かべていた。
「そういえば、案内の人中々来ないよな?」
応接室に通されてから少し経つ。このままだとセリアが痺れを切らしそうだなと苦笑いを浮かべていると、ちょうどドアがノックされ、人が入ってきた。
「お待たせしました。これより、錬金術師ギルド内を御案内させて頂きます」
洗練された御辞儀に金髪が揺れる。顔を上げた人物と目が合うと、俺と彼女は同時に驚き口を開けた。
「どうして、こちらに?」
「そっちこそ、どうして錬金術師ギルドにいるんだ?」
「兄さん、お知り合いですか?」
セリアが交互に俺たちに視線を送る。
ドアを開けて入ってきた人物、錬金術師ギルドの案内役は――
――ステシア王立アカデミー所属の学生で、国家冒険者試験の際に知り合ったロレインだった。




