第39話 VSエルダーリッチ
「ブレイズさんと二人は、皆を連れて下がってください」
俺はエルダーリッチを牽制しながらブレイズさん、メリッサ、ルシアの三人に指示を出した。
謎の爆発音を聞いて駆け付けたところ、エルダーリッチが宙に浮かんで魔法を唱えており、今まさに止めを刺そうとしていたからだ。
『ホウ、マダニエガオッタカ』
エルダーリッチの真っ赤な目が不気味に輝く。異様な雰囲気を漂わせ、これまで感じたことがないような圧力に心臓を鷲摑みされたかのような錯覚を覚える。
「ひっ!」
「くっ!」
「やぁ!」
後ろではメリッサ、ブレイズさん、ルシアの悲鳴が聞こえる。
エルダーリッチが何かしたのは明白で、俺も息苦しさを覚えたがが、俺はやつを睨みつけるとどうにか堪えた。
『オマエモ【イアツ】ガツカエルヨウダナ?』
先程から感じる圧力は、どうやら【威圧】のスキルによるものらしい。俺自身、フェニと契約しているお蔭で耐性があるからか、他の皆よりも効果が薄いようだ。
『ダガソレダケノコト。ナカマモイナイ、コノジョウキョウデナニガデキル?』
手には魔法が完成しており、放てば即座にこの場の人間を全滅させることができることから、完全に油断しているのがわかった。
即魔法を放とうとせず会話に応じるエルダーリッチに俺は思わず笑みを浮かべる。
『ニンゲン……ナニガオカシイ?』
エルダーリッチは不愉快そうな声を出すと赤い瞳を輝かせ、俺を睨みつけてきた。
「仲間なら……いる!」
『ナンダト?』
次の瞬間、エルダーリッチの上空にパープルが現れた。
パープルが羽ばたくたび、虹色の鱗粉がキラキラと舞い降りる。
『コレハ!? ワタシノマホウガ……キエル!!』
鱗粉に触れた箇所から黒い煙が上がり始める。
レインボーバタフライの鱗粉には魔力を溜めこむ性質があるらしい。武器や防具に混ぜ込むことで精霊やゴースト系に対する威力を向上させたり、魔法に対する抵抗力が格段にアップするのはそういう理屈だと先程教えてもらった。
「クラウス様、皆をお願いしますわ!」
エルダーリッチを挟み込むように奥の方にロレインの姿がある。
先程まで彼女は気配を殺しながらパープルとともに、エルダーリッチの背後に回り込んでいた。
俺たちが注意を引き付けて、彼女の指示でパープルがエルダーリッチの上をおさえる。
レインボーバタフライの鱗粉の詳細な効果も、錬金術を履修している彼女から教わったものだ。
『オノレ、コノヨウナバショニ、ワガテンテキガイルトハ! グウゼンニシテハアリエヌ、ヨンデイタノカ?』
「それに答える必要はない!」
偶然に決まっている。エルダーリッチがいると知っていれば、大がかりな討伐隊が編成されていただろ。
パープルを連れてきたことも、ロレインが鱗粉の効果や、目の前のモンスターがエルダーリッチだと断定できたのも、めぐり合わせが良かったに過ぎない。
鱗粉に触れるたび、エルダーリッチの身体が薄くなっていく。
『……!! ……!! ……!!』
パープルも必死に鱗粉をまき散らしているのだが、伝わってくる気配からそろそろ限界が近そうだ。
「パープル、戻って来い!」
太陽剣を構え、エルダーリッチを牽制しながら俺はパープルを呼び戻す。
「ありがとう、助かったよ」
『…………♪』
肩に降りてきたパープルを撫でて労うと、嬉しそうに触角を動かした。
「ここからは、俺が戦う」
エルダーリッチに対してレインボーバタフライの鱗粉攻撃は余程相性がよかったのか、そうとう消耗している様子だ。
ローブには穴が開き、エルダーリッチはフラフラと宙に浮かんでいる。
先程まで感じていた圧力は半減しており、今のエルダーリッチの強さは、あってもB+ランクといったところだろう。
『オノレ、ワタシガタショウヨワッテイルカラトイッテ、ニンゲンナドニマケルワケガナカロウ! ソノゴウマンウチクダイテクレル!』
エルダーリッチは瞳を輝かせると、手に魔法を収束させ始めた。
「クラウス様、気を付けてください! その魔法もかなりの威力がありますわ」
ロレインの忠告が聞こえた。
消耗しているとはいえ、エルダーリッチの魔法はそうとう危険そうな威力を持っているようだ。
『クラエッ!』
魔法が撃ち出される。後ろには避難しきれていない人間がいるので避けることもできなかった。俺は咄嗟に【浄化の炎】で威力を半減させる手段を思いつく。
「【浄化の……『…………☆!』炎】」
途中、パープルが干渉したせいか、虹色の炎が目の前に立ち昇った。
エルダーリッチが放った魔法は虹色の炎に取り込まれ、炎の勢いがより一層強くなる。
どうやら、この土壇場で俺とパープルのスキルが融合し、新たなスキルを生み出してしまったらしい。
『ナナナナナナァ!? マホウヲキュウシュウシタダト!?』
エルダーリッチは今度こそ余裕を失い、驚愕の声を上げた。
魔法を吸収し、火の勢いを強めるこのスキル。【吸魔の炎】とでも呼ぶべきだろうか?
魔法を使う者にとっては絶望的なスキルでしかない。
魔法を吸収する炎の壁を展開できるとなると、いよいよエルダーリッチには勝ち目がない。やつもそれを悟ったのか……。
『クッ、ココハイチドヒクシカナイ。オロカナニンゲンドモメ、コノママデハスマサンゾ!』
宙を飛び、その場から離脱しようとするエルダーリッチ、空を飛ぶことができない俺では追いかけることができない、そう踏んで逃げ切れると思ったのだろう。だが……。
「パープル、運んでもらえるか?」
『…………!』
パープルが俺の両脇に糸を巻き付けると羽根をはばたかせた。
いつも、ゴブリンやコボルトやオークをこうして拘束しては地面に落としているのだが、こうしてもらえれば、俺も空を飛ぶことができる。
『ナン……ダ……ト!?』
追いかけてくる俺を見て、エルダーリッチに初めて恐怖の感情が浮かんでいた。
「悪いが、俺の仲間は最高なんだ」
エルダーリッチに接近すると、俺は太陽剣を振る。
『キサマノヨウナモノガソンザイスルナド、キイテオラヌ……オノレ……カ……ダ……』
これまで、多くのモンスターを屠ってきたこの剣は、例外なしとばかりにエルダーリッチの身体も斬り裂いた。
エルダーリッチの身体が黒い霧となって上空に散っていく。
『…………♪』
パタパタと羽ばたくパープルの羽根音がどこか御機嫌に聞こえた。




