第36話 貴族や商人の子息女に注目され始める
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「はぁ、気持ちよかったぁ」
メリッサは馬車の中で枕を抱きしめベッドに倒れ込んだ。
クラウスの浄化の炎を浴びて血色がよくなり、頬が赤く染まっていた。
「本当に、あの方のスキルは凄いですね」
ロレインは、先程クラウスが見せた浄化の炎を思い出すと頬に手を当てる。
あれだけの力を、その場にいた全員に使用してピンピンしていたのも驚きだ。
「それに、護衛任務の時も、咄嗟にあの炎を出して私を庇ってくれたもんね!」
座ったまま顔を前に出したルシアは嬉しそうに二人に語り掛けた。
「私たちと同い年にも拘わらず、あれだけの強さを持っているなんて……。一体、彼は何者なのかしら?」
メリッサはふと、クラウスの正体について言及する。
国中から集まった優秀な人材、その中でも抜きんでた自分たちよりも優れた同世代が存在するなどにわかには信じられない。
「国家冒険者の試験を受けているというからには素性がしっかりした方なのでしょうけど、在野にあれ程才溢れる方がいらっしゃったのでしょうか?」
スキルの有無や才能に関しては、子供のころに国によって適正を見られている。あれほど有用なスキルをこれまで見過ごしてきたとは考えられないはず。
まるで突然現れたように感じるのは、どういうことだろうか?
「細かいことはいいじゃん、ひとまず彼が優秀だってことと、私たちの班の護衛でよかったねってことだけ喜ぼうよ」
ルシアの言葉に、メリッサとロレインは考える。
「確かに……。だけど、あれだけの力を見せたとなれば、彼を欲しがる貴族や商人もいるでしょうね」
たかが身を清めるだけの力と侮ることはできない。鎧を脱がずとも全身を清められ、武器や防具の手入れまで完璧となれば、利用できる場面はいくらでもあるのだ。
「きっと今頃、皆、彼の噂で持ち切りに違いないよ」
アカデミーから選抜された三十名の生徒、いずれも名門貴族や大商人の子息女なので優秀な人物は常にチェックして自分の家に取り込みたいと考えている。
「でも、クラウスだっけ? 国家冒険者試験を受けているってことは、当然推薦人がいるわよね? 派閥が違ったら厄介なことになるわよ?」
メリッサは起き上がり真剣な表情を浮かべると二人を見た。
「そうですね、あれ程の御方をお父様がたが見逃すとは思えません。声を掛けられない事情があると判断した方がよろしいかもしれませんわ」
もしそうならば、勧誘は慎重に行う必要があるとロレインは考えた。
「ひとまず、明日向かいたい場所ができたのですけど……」
それとは別に、ロレインは明日の予定について二人に相談する。
「うん、それで構わないよ。せっかく強い護衛がついてるわけだし」
「そうね、異存はないわよ」
ロレインの提案に、ルシアとメリッサが頷くのだった。
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「……そろそろ、朝か?」
胸元でパープルがもぞもぞと動いたので目が覚める。
口から吐き出した糸を格子のように張り全身を護っているので、パープルを押しつぶしてしまう心配はない。
ここに来てからモンスターを倒しまくったお蔭か、パープルはまた一段と成長したようだ。身体が一回り大きくなっていた。
「ごめんな、窮屈な思いさせてしまって」
『…………☆』
俺が話し掛けるとパープルの意志が伝わってくる。俺を気遣っているのか、まったく気にしていないよと伝えてきた。
レインボーバタフライという存在を曝け出せば、巷で噂のテイマーだと他の連中に気付かれてしまうかもしれない。
そうなると、テイム方法を探られたり厄介なことになりかねないので、俺が従魔を連れていることを知っているのは、試験官さんとアカデミーの一部の教師だけだった。
『……シュルシュル』
糸が巻き取られるのを感じる。俺は服の間から手を突っ込むと、パープルの触角に触れた。
『…………♪』
すり寄ってきて甘えてくるのがわかる。ここまで頑張ってくれたからな、今回の護衛が終わったら御褒美に好きな場所に連れて行ってあげようと思った。
「今日も頑張ろうな」
俺は生徒たちが起きてくるまでの時間、パープルと触れ合って過ごすのだった。
「さてっ! 今日も張り切って調査するわよ!」
朝食を摂り、メリッサたちが身支度を整えるのを待つと、今日の調査を開始する。
メリッサはこちらに向かって声を掛けてきて、ロレインとルシアも俺を見ている。
先日、身体を綺麗にしてあげたことが功を奏したのか、態度が軟化している。
「クラウス、今日はお前が前衛だ。頼んだぞ」
「わかりました。後衛、よろしくおねがいします」
雰囲気が柔らかくなったのはブレイズさんもだった。
リフレッシュできたからか、先日までの攻撃的な様子がなり潜めている。
無駄にピリピリするよりは円満な方が良いので、浄化の炎を使って良かったと思った。
「今日は、礼拝堂に行ってみたいんだけど、いいかしら?」
メリッサが本日の予定について確認してくる。
礼拝堂とは魔城の奥にある広いフロアで、Cランクモンスターのグールが出現する。
同じCランクモンスターのレイスとは違い、素早い動きと毒爪での引っかき攻撃、噛みつきなどが厄介だ。
魔城の奥に存在していることと、モンスターが厄介で護衛の負担が大きいこともあり、先日は数組しか立ち入っていないと聞いている。
「ええ、メリッサさんが向かいたい場所で大丈夫ですよ」
とはいえ、毒に対しては【浄化の炎】で解毒できるのは確認済みなので問題はない。
それより、わざわざ相談してくれたのならその願いを叶えてあげるべきだろう。
「そ、ありがとう。助かるわ」
メリッサは嬉しそうな表情で御礼を言うと、
「それじゃあ、今日の調査は礼拝堂ってことで行くわよ」
振り返るとロレインとルシアに告げるのだった。




