第243話 綻びる封印
「ロック、こっちの建物が崩れそうだから、そこに石を補強して」
『…………(岩)』
指示すると地面から硬い岩がせせりあがり建物の傾きを補正する。
「次は集落の外を囲むように壁を作るんだ」
『…………(壁)』
集落をぐるりと囲むように壁を生やす。このような壁でもある程度水の浸入を防ぐことができるので、作業が捗るのだ。
「補修作業が楽になって助かります」
「他にも手が必要な人は遠慮なく言ってください」
周囲では兎人族の住人が自分たちの家を直しているのだが、人数が少ないこともあってかなかなか進んでいなかった。
「すみません、手伝っていただいて」
シアンが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ですが、クラウスさんの能力があれば、水を押し除けて復旧も捗ると思ったので……」
シアンには一度この能力を見せていたので今回の復旧作業を手伝って欲しいと頼まれた。
「いいって、この状況で何もしないのは逆に落ち着かないからな」
俺自身も気になっていたので力になれたのなら嬉しかったりする。
「それにしても、本当に少人数しかいないんだな……」
他の部族が何人いるかわからないが、兎人族は見渡す限り二十人もいない。猫人族の集落から全員引き上げたと言うことなのでこれで全員なのだろう。
「私たちの種族はなかなか子どもができないので、人が少ないんですよ」
シアンは俯きそう言った。
「それにしても、復旧作業ならもう少し人を回してもらってもいいような?」
獣人同士の助け合いがサイラスの特徴ではなかったのだろうかと首を捻る。
「災害に対する対策は国の問題ですが、集落内にかんしては部族の人間で片付けることになります」
彼女はこう続ける。
「実は、兎人族は長老会議の中でも立場が弱く、国への貢献度も低いのでこういったとき手厚い援助を得られないのです」
ステシアでも辺境で赤字を垂れ流している貴族は同じような扱いを受けていたのを思い出す。他国ともなると、流石にどうしようもないので俺は黙るしかなかった。
「と、とにかく、できる限り俺が手伝うからさ、頑張って元の生活に戻れるようにしよう」
『…………(頑張)』
そういって俺とロックでフォローすると、復旧作業に戻るのだった。
★
そのモンスターが封印されたのは今から五百年前になる。
元々、突然変異種として生まれサイラスの森で静かに生きてきたのだが、ある日精霊を視る力に目覚め多くの微精霊を取り込み霊獣となった。
霊獣となったモンスターは知恵をつけ、半永久的な生命活動を続けることができるようになり、そこで暮らす者たちの平穏を見守っていたのだが……。
サイラスの森には微精霊だけではなく多くの瘴気が漂っていた。
その地に住む生き物のために瘴気を取り込み浄化していたのだが、溢れ出る瘴気が多く、次第に狂い意識を失っていく。
とうとう自我を失った霊獣は進む先で竜巻や洪水に大火災などを発生させてしまい、そこに住む多くの者が死んでいった。
そんな中、女神に見出されたエルフの英雄が霊獣の前に立ちはだかる。
彼は浄化の力を用いて狂った霊獣の力を削ぎ、この地に封印した。
その戦いを見ていた者たちは、怒り狂うそれの姿を見て精霊やドラゴンと判断した。
英雄により封印された場所には、周囲には湧き出す瘴気対策としてスイレーンが植えられた。
それから永い歳月を超え、封印に綻びが発生する。
綻びより瘴気を吸収したその霊獣はふたたび狂い、急速に力を取り戻そうとしていた……。
五百年前、この地に大災害を巻き起こした存在をーー
『エレメントヒュドラ』
と呼ばれていた。




