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【書籍化&コミカライズ】女神から『孵化』のスキルを授かった俺が、なぜか幻獣や神獣を従える最強テイマーになるまで  作者: まるせい
五章

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第240話 キャロルの保護者に相応しいのは……

『優勝はキャロルちゃんです!』


 シアンがキャロルの手を取り勝ち名乗りを上げる前で俺たちは項垂れていた。

 流石に、現役国家冒険者で獣人のキャロルに速度で勝てる者はおらず、ベックさんも悔しそうにしていた。


「甘い! ウチに勝てる者はいない!」


 キャロルはというと、俺たちを指差し満足した笑顔を浮かべていた。


「甘いのはキャロルです!」


 キャロルの頭が後ろから叩かれた。


「御祖母様?」


 叩いたのはキャロルの祖母で長老会の一員、サーニャさん。


 雰囲気が故郷に住んでいたころに近所に住んでいたお婆さんに似ているので、苦手意識を持ちそうになる。


「帰ってくるなり他の部族の子と揉めたかと思えば、今度は狩猟会なんぞに参加して。せっかくお淑やかに育てたというのに何ということですか……」


 サーニャさんは右手で顔を覆うと嘆いてみせた。


「それは御祖母様が望んだウチでしょ! ずっとウチはこうなりたかったの!」


「貴女には次期長老になる自覚が足りません!」


 二人は周りを無視して喧嘩を始めてしまった。


「いいのか?」


 近付いてきたシアンに俺は話し掛ける。


「いいんです。サーニャ様もキャロルちゃんが本心で応えてくれて楽しそうですから」


 シアンは暖かい目で二人を見守っているのだが……。


「ちょっと待った!」


 外野から物言いがついた。


「キャロルが狩ってきた獲物、血抜きをしていないではないか!」


 虎人族の長老のハジンさんが指摘する。


「そっ……それはっ!」


「血抜きもしないなんて、獲物に対して失礼と思わないのか?」


 動物は森の恵み。狩って食べるからには最大限美味しくというのがルールにある。


『確かに、血抜きしないなんて狩りの基本ができてないよな?』


『獲物を冒涜するなんて失格じゃあ?』


 周囲の人間からも同様の声が上がる。


『しかもあれ、ラックラビットだぞ?』


『あの幻のモンスター? 勿体ねえ』


 どうやら野ウサギではなく希少なモンスターだったようだ。


「ち、違っ……」


 キャロルが何か言おうとするが、周囲に冷たい目で見られて萎縮してしまう。

 奔放に見えて実は打たれ弱いことを俺は知っている。震えている彼女に、俺は近付くと……。


「キャロルは俺の能力を使うつもりで狩りをしていたんですよ」


 皆にそう答えた。


「ルミナス男爵?」


 突然割って入った俺にエレオノーラさんが驚く。


 サーニャさんは俺をジロリと睨みつける。顔立ちがどこかキャロルと似ているので、血の繋がりがあるのだなと思った。


 長老会のメンバーということは、彼女もこの国の最高決定者ということになる。ここで不興を買わない方が良いのだろう。


「俺とキャロルは国家冒険者時代もよく一緒に狩りをしてるんです。血抜きは俺の担当です」


「だが、生命活動を停止した生き物から血を抜くのは容易ではない。だからこそ、皆仕留めてすぐに血抜きをしているのだ」


 ベックさんが声を掛けて来た。彼も険しい表情を浮かべている。


「人族にはわからないかもしれないが、動物は森の恵み。決して雑に扱って良いものではない」


 ハジンさんの怒気に飲まれ、誰も言葉を言えなくなる。


「ええそうですね。なのでちゃんと美味しく料理して食べてあげましょう」


 俺はそんな彼の言葉を受け入れつつ、作業を進めることにした。


「キャロル、狩ってきた獲物の血抜きを始めてもいいか?」


「えっ? うん」


 振り返りキャロルの許可を取ると俺は血抜きをすることにする。


「血抜きをすると言うのなら止めはしないが、これから川に持っていくのか?」


 ハジンさんは若い衆に手伝わせようと手振りで人を集めた。


「大丈夫ですよ。この場で片付けますから」


 俺はそういうと、地面に横たわっている獲物に向かってスキルを使った。


「浄化の炎」


「うわっ!」


「突然獲物が燃え出したぞっ!」


「誰か、桶で水を汲んできてくれっ!」


 蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。


「ちょっと待って、この炎熱くないわよ!」


 エレオノーラさんが気付き皆に伝える。


 皆の視線が俺に集中する。


「これは『浄化の炎』という不浄を焼き尽くす能力です。これを使えば動物の体内に残った血や毒や汚れなども完全になくすことができます」


 赤い湯気と緑の湯気が立ち昇り始める。これが動物の血や毒なのだ。


 しばらくして、完全に浄化が終わると、毛皮は艶やかになり、中の肉は新鮮な状態になっていた。


「凄い! この毛皮は高値で売れるぞ!」


「仕留めた傷しかない分、毛皮としての価値は高まっている」


「しかし、本当にこれで血抜きができているのか?」


 誰かがそう呟いた。無理もない、今の所外見に変化はなくただ燃えない炎に晒しただけの状態だ。


 キャロルは短剣を抜くと、ラックラビットを解体していく。ピンク色の健康的な肉が見えるが血は一滴も出てこなかった。


「クラウスの浄化の炎を浴びた肉はとても美味しい。生でも食べられる」


 キャロルがそう言うと、皆互いに顔を見合わせる。肉を生で食えば身体を壊す。常識だからだ。


「誰か、食べてみない?」


 キャロルが解体した肉を差し出すが、誰一人名乗り出る者はいない。


 そんな中、


「わ、私が食べてみます!」


 シアンが挙手をして前に出てきた。


「ん、シア。どうぞ」


 キャロルはシアンの手に肉を乗せる。


 それを見たシアンは覚悟を決めると一気に肉を頬張った。


「うっ……」


「吐くんじゃ、シアン!」


「やっぱり、生で食べても美味しいわけがなかったんだ」


 地面に崩れ落ちるシアンを見て、サーニャさんとベックさんが慌てるのだが……。


「お、美味しい。今まで食べてきた中のどの肉よりも美味しいですよっ!」


「だから言ったでしょ?」


 シアンの感想に、キャロルが自慢げな表情を浮かべる。


「本当に美味しいの? 私にも食べさせて!」


「ワシも食べるぞ!」


 エレオノーラさんと、ハジンさんが殺到し肉を食べた。


「本当だわっ! 完全な生じゃない! さっきの炎でほんのり温められているのね? 蕩けるような口当たりがたまらないわ」


「噛めば柔らかく、口の中に肉の脂が溶け出す。生臭さを一切感じないのは血抜きが完璧だからというだけではない、動物の嫌な匂いも爽やかな香りに変えてしまっているからじゃ」


 二人の評価に、いよいよそれを聞いていた人たちが殺到してくる。


「本当だ、一切生臭くない!」


「これ、焼いた肉より好きかも?」


「ええい、もっと寄越せ!」


 獣人は肉が好きだと聞いていたが、皆目の色を変えて肉を奪い合っている。


『まったく、他人が狩って来た獲物に手を出すとは、狩人の名がなくわ……ハグハグ』


 一番卑しいのは、こっそりと美味しい部分を一人確保して食べているダキーニではないかと突っ込みたいが、それを言うとへそを曲げるのでやめておく。


「キャロルは普段からこんなものばかり食べているのか……」


 生肉を試食したベックさんはわなわなと身体を震わせる。俺がキャロルを餌付けしていると誤解して怒りを覚えたのだろうか?


 彼は俺に近付くと手を肩に置いた。


「クラウス殿、俺の弟にならないか?」


「はっ?」


 あまりにも予想外な言葉が出てきたので呆気にとられる。


「君が部族に加われば、我々狼人族はいつだって美味しい生肉を食べることができるようになる」


 どうやら、欲望に忠実なのはキャロルだけではなく、寧ろベックさんを見て育ったからキャロルはああなったのではないか?


「待ていっ!」


「ルミナス男爵はうちの食客になってもらうのだ!」


 ハジンさんが周囲を睨みつける。先程、キャロルが獲物を駄目にした時以上に目を血走らせている。


「ルミナス男爵はステシアの貴族よ! 戦争になるわっ!」


 俺を引き抜くとステシアと関係が悪化するとエレオノーラさんは告げる。

「しかし、これだけの美味を味わってしまったら今後は……」


 皆が何やらぶつぶつと話をしている。全員俺を獲物を狙う目で見てくるのがとても怖い。


「やっぱり、クラウスは頼りになるね」


 いつの間にか隣にきて嬉しそうに呟くキャロル。


「やっぱり、優勝はクラウスさんでいいんじゃないでしょうかね?」


 シアンがそう提案するのだが、


「俺はこんな厄介な妹お断りだ!」


 俺はキャロルの頬を押し返す。



 キャロルはサーニャさんに連れて行かれ、皆が楽しそうに食事会の準備をしている。


 獣人たちのそのような姿を眩しそうに見ていると……。


「クラウスさん」


 シアンが真剣な表情を浮かべ服を引っ張ってきた。


「ん、どうした?」


 何やら思い詰めた表情を浮かべると彼女は言う。


「後日、お時間をいただけないでしょうか?」

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