第238話 狩猟会
目の前では大勢の人間が集まり、準備を始めている。
天幕が設営されており、そこにはエレオノーラさんの他にも派手な柄の着物を身につけた獣人が何人もいる。
先程、挨拶をしたのだが、全員長老会議のメンバーで、スイレーンを発芽させたことを知っており目をギラつかせて握手を求めてきた。
場所はサイリーンの街を出てすぐにある広場で、これからとある催しが行われることになっている。
俺はなぜこのようなことになってしまったのか考えていた。
先日、キャロルの様子を見に彼女の生家を訪ねたところ、キャロルは謹慎をしており一緒に育ったという兄のベックさんが応対してくれた。
そこにキャロルとシアンが乱入してきて、あれよあれよと言うまにキャロルの兄権を賭けた狩り勝負を行うことになったのだ。
そこまで言ってみてなんだがこの時点で意味がわからない。
「クラウスさん。そろそろ始まりますよ」
シアンが覗き込むように声を掛けてくる。
俺はそんな彼女をジト目で見ると質問した。
「どうして、こんな大騒ぎになってるんだよ?」
周囲を見ると、祭りと比べて遜色のない人々が集まっている。
「獣人にとって狩りは生活を豊かにするためのものであり神聖なものなんです。狩り勝負自体は推奨されていますが、狩った獲物はその場で皆で食べるということになっているんですよ」
「なるほど、それで人を集めたということか?」
勝負で狩った獲物を食べるということならば人は必要だろう。だが……。
「どうして、他にも参加者がいるんだ?」
そっちの方はスルーすることができない。これは俺とベックさん個人の勝負だったはず。
「キャロルちゃんは人気者ですからね、兄権がかかっていると噂を聞きつけ、参加者が殺到したんです」
『キャロル様の兄になって「お兄様」と呼ばせたい!』
『馬鹿いうな、『あに様』と呼ばれるのは俺だ!』
『シアンちゃん結婚してー!』
確かに、キャロルの兄権を得ようと目を血走らせている獣人の姿がそこら中にある。
「というか、シアンにも声が掛かっているようだが?」
そういえば初めて会う時も獣人を引き連れていた。彼女は彼女で人気があるのだろう。
「私も、サイリーン育ちで幼いころから色んなところに顔をだしてましたからね」
ニコリと笑ってみせるシアン。俺に顔を寄せるよ耳元で囁く。
「ちなみにクラウスさんが望むなら、私も呼んで差し上げますよ……お・兄・ちゃ・ん」
「か、からかわないでくれ」
キャロルに続いてシアンまでとなると獣人に強い恨みを買いそうだ。事実何人か睨んできた。
「ところで、なんでキャロルもやる気になってるんだ?」
俺は装備の点検をして準備運動をしているキャロルに視線を向けた。
「キャロルちゃんは競うのが好きなので」
シアンは笑顔で答える。彼女に関してはもう何も言うまい。
「クラウス殿。正々堂々勝負しよう!」
そう言って握手を求めてくるベックさん。今日は狩りだからか短剣と弓を使うようだ。
指輪と腕輪が輝いている。前の時はしていなかったと思うのだが?
「あっ、ベック兄ぃずるい」
俺が彼の装備を気にしていると、キャロルがそのことを指摘した。
他の人たちもチラホラと彼に視線を送っている。
「敏捷度が上昇する魔導具持ってるし、弓もドワーフの高級品!」
「うっ、うるさいなっ! 自分の金で買ったんだからいいだろうがっ!」
本気で勝ちに来ているらしい。そこまでしてキャロルに兄と認められたいのだろうか?
思っていたよりも大人気ない態度に驚く。
「はーい、皆さん注目してくださーい」
時間になり、シアンが皆の前に立った。
今回の発案者ということもあり、この勝負を仕切るとのこと。
「今回の狩猟会では一番多く獲物を狩って来た人が優勝になりまーす!」
全員が頷く。それ目的で参加しているからだ。
「時刻は日が傾くまで! それでは、張り切って行ってくださーい!」
シアンの号令とともに狩猟会はスタートした。




