第236話 キャロルの生家を訪問する
その日の買い物を終えてホテルに戻る。
「あれ?」
「どうしたのですか?」
「キャロルからメッセージが来ている」
いつの間に魔導具にキャロルからのメッセージが届いていた。
『ワレ監禁されたし、救助求む!』
「キャロルさんは何と?」
「なんか、監禁されてるって」
メッセージをそのまま読み上げる。
「大変じゃないですか⁉︎」
物騒な内容に、セリアはギョッとすると大きな声を出した。
「いやまあ、そうなんだが……」
「何を落ち着いているんです、兄さん! 一刻を争うかもしれないんですよ⁉︎」
セリアは取り乱しているのだが、俺にはキャロルがそう簡単に捕まるようには見えない。
大体、本人がメッセージを送ってきている時点で怪しい。
そのことについて指摘すると、
「もしかすると誘拐犯が送ってきてる可能性もあります」
キャロルのことになると極端に視野が狭くなったセリアには通じない。
「そのうち脱走してくると思うんだがな……」
取り越し苦労な気がしてイマイチやる気が出ないでいるのだが……。
「もし戻って来なかったら帰りの護衛が足りなくなるわね?」
メリッサにそう言われてしまうと、彼女を推薦した俺の立場がない。
「はぁ、わかったよ。ちょっと様子を見てくるとするか」
俺はキャロルの居場所について調べておくことにした。
翌日、俺はサイリーンにある屋敷を訪ねた。
ノックスさんに聞いたところ、キャロルはここに居るとのことだったからだ。
彼に書いてもらった紹介状を門番に渡すと、快く中に通してもらえた。
(それにしても、うちの屋敷と遜色がないな)
建物の様式こそ違えど、敷地面積に関しては同じくらいだと見当をつける。
ここがキャロルの生家だというのなら、彼女は良いところの育ちだということになる。
一体、なぜキャロルがあのような自由奔放な振る舞いをするようになったのか、彼女の生い立ちが気になり始める。
しばらく待っていると、一人の青年が入ってきた。鋭いケモミミが生えているので狼人族のようだ。
紺の着物を着ておりとても似合っている。サイラスでは裕福な人間はどうやら普段から着物を着て過ごしているらしい。
「紹介状があった人族というのは貴方か?」
「クラウスと申します」
俺は貴族名ではない名乗り方をする。今回はキャロルの友人として訪ねてきたつもりなので、少しでも権力をひけらかさない方が良いと思ったからだ。
彼は鋭い目つきをすると値踏みするような目で俺を見てきた。
「俺はベック。キャロルの兄だ」
彼はキャロルとの関係性をそう告げてきたのだが、疑問が浮かぶ。
「キャロルとは種族が違うように思えるのですが?」
流石に、狼人族と猫人族を間違えたということはないと思う。
「クラウス殿はここがどのような場所か聞いて来てはおらぬのか?」
「ノックスさんからは『ここにキャロルがいる』としか」
何か特別な場所なのか?
俺が戸惑っていると彼は説明をしてくれた。
「この館は各部族の長老と長老候補がサイリーンで暮らすための場所なのだ」
彼は言葉を続ける。
「国の未来について話すなら、各部族の長老同士の距離が近い方が良いからな」
通りで広いと思った。集団生活を行うことを目的に建てられているのなら当然だろう。
「俺やキャロルを含む長老候補は幼少のころから一緒に育った」
「キャロルが長老候補なんですか⁉︎」
始めて知る情報に驚く。
「うむ、彼女は俺のことを「ベック兄ぃ」と呼んで慕ってくれていてな」
思い出したのか、彼は腕を組むと嬉しそうに頭を縦に振った。
「なるほど、そういうことなら理解できました」
一緒に育った相手と兄妹の契りを結ぶ。ごく自然な話だ。
「案外納得するのが早いな。人族には簡単に受け入れられる話だと思っていなかったのだが……?」
俺があっさりと信じた点が気になったようだ。
「血の繋がりは大切ですが、家族というのはそれだけではありません。ともに育ち互い思いやる気持ちがあればそれは家族だと思います」
俺はセリアのことを思い浮かべる。彼女は父さんの妹の子どもだが、セリアが幼いころに不慮の事故があり、その日以来引き取られ一緒に暮らしてきた。
俺はセリアを大切な家族だと思っているので、ベックさんの気持ちがよくわかるのだ。
「なるほど、キャロルが気にいるわけだな」
ベックさんは意外な顔をすると満足そうに頷いた。
「ところで、そのキャロルはどこにいるのでしょうか?」
元々、キャロルからメッセージが送られてきたからこうして参上したのだが、一向に姿を見ることができずにいる。
俺が確認すると、彼は罰が悪そうな表情を作る。
「あの愚妹は謹慎させているところだ」
「事情を聞いてもよろしいですか?」
俺は彼に尋ねた。
「あの愚妹は他の長老候補と喧嘩して相手をのしてしまったのだ」
「それは……」
いかにもキャロルならやりかねないエピソードだった。
曲がりなりにも国家冒険者としてならしてきたキャロルなのだ。身体能力が高いとはいえ、そこらの獣人では相手にならないだろう。
そんな話をしていると、廊下が騒がしくなりドタバタと足音がした。
「クラウスが来てるって⁉︎」
襖が開きキャロルが入ってきた。




