第192話 女神ミューズと神竜ネージュ
「ふぅ、やっと落ち着いてきましたね……」
女神ミューズは溜息を吐くとポツリと漏らした。
「まさか、あんなにやることが溜まっていたなんて……」
久々に下界の人間と制限なく話せることが楽しかったからか、クラウスが聞き上手だったせいもある。自分の仕事がおそろかになっていた。
「クラウスがあの魔導具をどう使うのかも気になるところです」
ダンジョンが攻略され、古代魔導文明の魔導具が世に出るたび、世界に大きな変化をもたらした。
「あれは使い方次第で世界のバランスを一気に崩すことができてしまう……」
勿論、普通の人間には扱いきれる物ではないのでミューズもそこまで心配していないのだが……。
「誤って力を与えてしまったクラウス。私の予想がつかない成長をしているんですよね……」
これまで見てきた中でクラウスには常識が通じないと感じている。
女神ミューズにすらそう思われていることをクラウスはまったく知らなかった。
クラウスに野心がないことは女神ミューズもよく知っている。今時あそこまで欲がない人物も珍しい。
「それでも、ここは一度お願いしてみた方がいいかも……」
女神ミューズは集中し、ネージュの意識と接続するのだが……。
ーーバチンッーー
「えっ? 弾かれた?」
繋がった瞬間、強引に切断された。
『キュピピピピピピピピピピピーーーーーーー!!!』
「わっ! 頭の中で叫ぶのやめてくださいっ!」
突然頭の中に響くネージュの声に頭を抱えるミューズ。
『キュピピィッ!』
「わ、わかりましたっ! あなたが寝ている間に身体を借りて悪かったですよっ!」
女神ミューズが自分の身体に入ってきたことに気付いていたネージュが抗議してきたのだ。
神竜とはいえまだ幼い。力尽くで乗っ取ることもできなくはないのだが、そこまでするのは気が引けたのでやめておく。
「あの……ネージュさん? クラウスと話をさせていただけませんか?」
『キュキャッ!』
嫌だと言っている。
『キュピキュピキュピッ!』
クラウスと触れ合う時間は自分のものだから譲らないと主張している。
「そ、そんなぁ……」
それっきり、ネージュからの通信は切れてしまった。
せっかく、久々にクラウスと話せると思ったのに叶わず、ミューズは落胆した。
「そのうち、また頼んでみますか」
クラウスと話すためにはネージュを説得する必要がある。御機嫌取りの方法については後で考えることにした。
「それより、新しく神力を与える人物を選定しましょうかね」
女神ミューズは真剣な表情を浮かべると、世界のバランスを保つ新たな英雄を探し始めるのだった。




