エピローグ
「まさか……ブラックドラゴンを差し向けても撃退されるとは」
ブロイは驚愕の表情を浮かべると、今回の襲撃の結果を聞かされていた。
「その上、各国の代表は大々的に邪神教に対処すると発表がありました」
今回の襲撃により国はメンツにかけて叩き潰すこと話し合った。
「おのれ、忌々しい小僧め。あれを使うことは難しくなってしまったではないか」
【隷属の杖】によりブラックドラゴンを従えていたブロイだが、ブラックドラゴンの首に刺さった魔剣グラムががその支配を阻害している。
「あのような異物を撃ち込むとは……、完全に支配から逃れられたわけではないが、命令に反発するようになってしまった」
「剣を抜こうにも近付こうとすると牽制してきますから……」
魔剣グラムがブロイが放つ魔力を吸っている。そのお蔭で完全な支配から逃れられていると理解しているブラックドラゴンも、グラムを抜かせることだけは阻止していた。
「いかがいたしますか?」
司祭はブロイに確認をする。
「私は代わりとなるモンスターを探しにいく。まだ、世界を破滅させるのに相応しい力を持つモンスターは存在している」
ブロイにとってはブラックドラゴンとて使い捨てのコマでしかない。
「この杖と私の命が尽きぬ限り、教団が終わることはない」
ブロイはそう言うと、暗闇に溶けていくのだった。
★
ブラックドラゴンを撃退してから一週間が経過した。
俺たちがブラックドラゴンを郊外まで引きつけたからか、街への被害は最小限に抑えることができた。
魔剣グラムを持ち帰ることができず、グレイン皇子に謝罪をしたのだが、彼は「英雄の命が助かったならそれでいい」と笑って許してくれた。
何でも、過去に祖先がドラゴンを屠った剣だけに、ブラックドラゴンに対する特攻があったのではないかと後から聞かされた。
事実、あの魔剣を突き刺してからブラックドラゴンの動きに変化があったのでその可能性は高い。
あの魔剣でなければ俺たちは生きていなかっただろう。
様々な事件に巻き込まれはしたものの、国際会議は無事に終了しており、各国の代表は帰国している。
ルイズ皇女は、早く魔石を試したいと満面の笑顔で言っていた。
タバサさんが同行することになったエレオノーラー様とノックスさんはとても嫌そうな顔をしていた。
ギルバード王も早速国に戻って会議で決まった内容と、農業の改善を行うのだと言っていた。
そんなわけで、事後処理でドタバタした後で平穏が戻ってきたのだが……。
「クラウス、次はこちらの書類の作成、それが終わったら報告書の確認、次に現場への人員の手配のための打ち合わせをお願いします」
貴族としての本業も再開することになったので、オリビア王女とともに仕事に精を出していた。
「ちょ、ちょっと……オリビア様。流石にこの量はキツいですって!」
ほんの一週間仕事をしなかっただけなのに、随分と書類が溜まっていた。
「仕方ないじゃないですか。あれだけ目立つ立ち回りをしたのですから。国の内外からクラウスに頼みたいと仕事が圧迫してきているのです」
半ば秘書のような立場になったオリビア王女は、キビキビと俺がやるべき仕事を選んで回してくれている。
「サイラスとグランツとの交易報告書もちゃんと読むのですよ? 貴方にしか対応できない案件なのですからね?」
流石に朝からずっと机の前で作業をしていたので限界がくる。モンスターとの戦闘とは違う疲労があるのだ。
そんな風に机に突っ伏す俺を見たオリビア王女は……。
「まあ、流石にこの量は無理だと思いましたが、よく頑張った方ですね」
どうやら最初から片付けるのが不可能だと知っていたようだ。
「それじゃあ、休憩しに行きましょう」
オリビア王女は上機嫌になると、俺を誘いプリンセスガーデンへと向かう。
「最近はガーベラが咲き始めたんですよ」
道中、庭園の様子が変わったことを楽しそうに語っていた。
いつものように侍女がお茶を淹れてくれる。
「はぁ、落ち着きますね」
一口飲むと、ゴールデンローズの豊かな味わいと、プラチナシロップの甘みがサラリと舌に溶け込んだ。
「それにしても、ここでお茶を飲むのは久しぶりですね」
事後処理やら何やらでドタバタしていたからか、随分と久しぶりに感じる。
「……本当ですよ」
オリビア王女はムッとすると紅茶を口にする。彼女は俺を睨みつけると口を開く。
「約束……楽しみにしてたのに」
その言葉で彼女がむくれた理由に思い至る。
「いえ、決してオリビア様との約束を蔑ろにしたわけではなくてですね……」
ブラックドラゴンと戦う前にした約束は覚えていた。だが、帰国までの間各国の代表に散々誘われてしまい予定をあけることができなかったのだ。
「冗談ですよ」
俺が慌てていると、オリビア王女はクスリと笑う。
そして、目を細め庭園を見る。まるで何かを懐かしんでいるかのような……。
「どうしたのですか?」
物言わずに佇む彼女の様子が気になり、質問をするのだが……。
「いえ、やはり私はこの庭園でお茶をするのが大好きなんだな、と思いまして」
彼女は花のように美しい笑顔でそう返事をする。
「は、はぁ……」
どのような反応が正しいのかわからず紅茶を口にしていると……。
「クラウス」
「はい」
「これからも、私とここでお茶会をしてくださいね?」
彼女はそんなささやかなお願いをしてくるのだった。




