第176話 絆の力
「まさか、呼び出しを受けることになるなんてな……」
ガルコニア鉱山奥にあったダンジョンを攻略した翌日、俺は王城を訪れていた。
ダンジョン攻略の財宝についてオリビア王女に相談をしたところ、城に来るように指示されたのだ。
現在は国際会議の最中なので、城内に人は少なく、廊下を歩く人もほとんどいない。
この時期に城にいる人間は要人の関係者ばかりなので、要人の周囲にいるからだろう。
俺がオリビア王女の執務室に向かっていると、前から知り合いが歩いてきた。
「ボイル伯爵、御無沙汰しております」
「ん、ルミナス男爵。楽にするが良い」
宮廷作法に習い、身分が下の自分から挨拶をする。
普段、ダグラスさんの屋敷で会っている時はもっと砕けた会話をしているのだが、これも仕事ということで割り切りも必要だ。
「時に、クラウスはここで何をしている? 現在は登城が許可されていなかったと思うのだが?」
ダグラスさんは疑問を口にした。
「それが、オリビア様より呼び出しを受けてしまいまして」
内容についてはまだ話すわけにはいかない。オリビア王女から「絶対に誰にも言わないで来てください」と厳命を受けているからだ。
俺の気まずそうな表情を観察して、何を思ったのかダグラスさんは……。
「あまりオリビア王女を困らせるものではないぞ?」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「ダグラスさんはオリビア様とは親しいのでしょうか?」
伯爵と王家の者ということもあり、知己なのは間違いないが、一瞬瞳が優しくなったので気になった。
「彼女が小さいころ、当家で御預かりしたことがあるのだよ」
「なるほど、そんなことがあったんですね」
それ以上語らないのは語れないからなのか、それとも語るまでもないことなのか。そういうことならば先程の反応も納得だ。
「そういえば、従魔関連で一つお聞きしたいことがあったのですがよろしいでしょうか?」
ふと、先日疑問に思っていたことをについて聞いてみることにした。
「私でわかることなら答えようじゃないか」
「先日、とある場所に行きモンスターと戦闘を行ったのですが、その際にフェニの力が俺に流れ込んできたんです」
俺は実際に会ったことを彼に相談する。
「身体中にこれまで感じたことがないような力が溢れ、まるでフェニの力が上乗せされたかのような強さを発揮することができました」
あまり上手く説明できる気がしないのだが、テイマーに詳しいダグラスさんならこんな言葉でも何か答えてくれるかもしれない。
「確かに、そのような現象を聞いたことがあるな」
ダグラスさんは考え込むとそう答えた。
「それは?」
「ごく稀に、従魔との親密度が高くなったら起きる奇跡というやつだ。従魔の力が流れ込み、まるで従魔の力が上乗せされたかのように本人が力を発揮することがある」
俊敏性や怪力などが宿り信じられない力を発揮することがあるのだとダグラスさんは説明をした。
「その感覚に覚えがあります」
強敵と戦う時にも従魔の力を引き出し束ねてきたことがある。今思えばあれも今回の能力と酷似していた気がする。
「おそらくだが、クラウスとフェニが互いを信頼しあったからこそできたのだろうな」
「そうだとしたら、今回も俺はフェニに助けられたってことですね」
絶対のピンチを切り抜けられたのは諦めそうになった際、フェニが助けてくれたからに他ならない。
「だとすると、戻ったらあいつが喜ぶ何かしてやらないとな……」
一体何をすれば良いのか?
そんなことを考えていると……。
「従魔に報いる方法はシンプルだ。可愛がってやるといい」
ダグラスさんは簡潔に答えを出してくれた。
「それだといつも通りなんですけどね」
俺はフェニのことを可愛がっているしフェニも懐いてくれている。
二人してそんな話をしていると、廊下を歩く音が聞こえ声を掛けられた。
「ルミナス男爵。こちらにいらしゃったのですね?」
俺を呼び出したオリビア王女だ。約束の時間まではまだあるのだが、迎えに来てくれたようだ。
「それでは、相談に乗っていただきありがとうございました」
俺はダグラスさんに御辞儀をする。
「また、何かあれば相談するように」
彼はそう言い俺から一歩離れた。
「ルミナス男爵、こちらへ」
オリビア王女は俺の手を取ると、城の奥へと向かうのだった。