第165話 B+ランクモンスターミノタウロス
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邪神教団のアジトで、ブロイは部下の報告を待っている。
『帝国一行はまもなく襲撃場所に到着する予定です』
部下の報告によると、ユグドラ帝国が誇る精鋭は一糸乱れぬ行軍を行っており、ときおり現れる低ランクモンスターをものともしていないとのこと。
第一皇子のグレインは帝国でも指折りの武人だし、他の者も厳しい戦場を渡ってきているだけあってか戦闘慣れしている。
「だが、その場所は今普通の状態ではないのだぞ」
ブロイはニヤリと笑うと手に持つ杖を輝かせた。
現代に残された最強の魔導具の一つ、SSランクアイテム【隷属の杖】だ。
この杖は支配した生物を意のままに動かすことができる魔導具で、現在は最強のブラックドラゴンを使役するのに使われている。
ブラックドラゴンは現代に生きる最強のモンスターなので、上手く利用すればモンスターを追い立てて意図的にスタンピードのようなことを起こすことも可能だった。
邪神教の人間はこの日のために強力なモンスターを集めており、襲撃計画を立てていた。
ここでユグドラ帝国を半壊させることができれば国際会議を台無しにすることができる。
「この一手でこれまでの状況をひっくり返してやる」
ブロイはそういうと、暗い笑みを浮かべるのだった。
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「それにしても、俺必要なかったよな?」
クロムビーストの討伐を終えた俺とキャロルは、討伐部位を回収するとその場を後にした。
あっという間に戦闘が終わってしまい、身体を動かすことができずに不満が溜まる。
キャロルは実力が高いので、敵さえ発見できれば時間をかけずに討伐を終えられる。
「そんなことはない。クラウスが来てくれてウチも嬉しい」
上機嫌なキャロルはケモミミを動かすと楽しそうにしている。風を浴びて気持ちよさそうにしており、ピクニックでもしているかのような雰囲気だ。
「まあ、俺も久々に外に出られたからそれだけでも気分転換になったけどな」
そんなキャロルに当てられてか、こちらも和み始める。
「早くギルドに討伐部位を提出して帰ろ? そしたらセリアが作るお菓子の出来立てが食べられるよ」
今日は新しいスイーツ作りに挑戦すると言っていた。キャロルの思考は既にここにはなく、セリアの作るお菓子に支配されている。
俺はそんな彼女を呆れた目で見ていると……。
「クラウス、あそこ!」
街道で何やら戦闘が起こっていた。
高貴な身分の人間が乗る馬車の周りを大量のモンスターが囲んでおり、騎士たちが必死に戦っている。
「B+ランクモンスターのミノタウロスがあんなに……」
ただでさえ数が多いのに、あれが加われば馬車ごと薙ぎ倒されるだろう。中の人物が無事では済まないかもしれない。
「助けよう、クラウス」
決断は早かった。キャロルは間髪いれずそう判断をすると俺に声を掛けてくる。
「俺とキャロルがミノタウロスを倒すから、フェニとパープルは馬車の護衛を頼む」
『ピィ!』
『…………!』
俺たちは馬者の前に飛び降りた。
「何者だ⁉︎」
いきなり現れた俺とキャロルに、護衛の人間は確認をしてきた。
「ウチは国家冒険者のキャロル! 助太刀にきた!」
国家冒険者の名は外国にも轟いている。騎士たちは即座に俺とキャロルを受け入れた。
「助かる!」
俺とキャロルは互いに目を見合わせると、並んで走りミノタウロスとの戦闘を開始した。
ミノタウロスとの戦闘はこれが初めてだが、これまでもA+ランクのモンスターとの対戦経験がある。このくらいは問題ないだろう。
ミノタウロスは怪力で斧を振り回すし、鎧で身体を守っているのでなかなかダメージを当てることはでいないのだが、俺とキャロルは敏捷度が高く、的確に鎧の隙間を攻撃することができた。
「何という素早さ、何という的確な攻撃なのだ……」
護衛の人間の驚く声が聞こえてくる。
『…………♪』
『ピピピィ!』
近付こうとするゴブリンやコボルトはフェニとパープルの糸と炎のせいで馬車に近寄ることができない。
護衛対象の安全が確保できているからか、騎士たちも積極的に前に出てモンスターに圧力を掛けて行く。徐々にこちらに形成が傾いていくのがわかった。
チャンスを逃す手はない。
「一気に片付けるぞ」
俺はキャロルに声を掛けると一気にミノタウロスへと肉薄する。
「うん!」
キャロルは俺の後ろを走りながらミノタウロスの死角を狙う、
「はあああああっ!」
俺が剣を振り上げ注意を引き付け、飛び上がったキャロルが上から仕掛ける。
次の瞬間、ミノタウロスは俺たちの渾身の攻撃を受けて絶命した。