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第147話 オリビア王女とのお茶会後半

 オリビア王女からプラチナシロップが入っていた瓶を受け取った翌日。俺はパープルを連れて王都北西の森を訪れていた。


「王都にきて最初はこの森に入ったんだよな」


 国家冒険者の一次試験でのダイアウルフの討伐。その後、フェニックスの卵を入手したのもここだった。


「随分と昔のように感じるけど、まだ一年経ってないんだよな」


 白い吐息を吐きながら森の中を歩く。暖かい格好をしているのでそれ程辛くはないのだが生物の気配はあまり見当たらない。


『…………♪』


 そんな中、パープルは寒さを感じないのか元気に飛び回っていた。

 俺は懐からオリビア王女から借りた瓶を取り出し、パープルを呼ぶ。


「パープル、この蜜が摂れる花がどこにあるか探してくれないか?」


 パープルは口吻を瓶の底まで伸ばすと蜜の味を確かめた。


『…………♪♪♪』


 やはり、蜜にかんしては興味があるのか普段よりも嬉しそうな感情が伝わってくる。


 やがて、パープルはパタパタと翅を動かすとゆっくりと飛び始めた。





「まだ……見つからないのかな?」


 半日が経ち、そろそろ日が暮れそうな時間になってきた。気温も下がってきており、薄暗くなってきた。


 パープルは進化する前も嗅覚が鋭く、好物のハーブを次々と発見したので、もしかするとと思ったのだが、これだけ動き回ってもプラチナヘリオの花を発見することができずにいることから、流石に無理だったのだろうか?


「もしかしてまだ咲いていないのか、もしくは咲いていても誰かに摘まれているのか?」


 まだ冒険者はダンジョンで稼いでいる時期なので森に入っているとは考え辛いのだが、可能性はどちらにもあり得る。


「流石に、歩き辛いから疲れてくる」


 足場が悪く、普段よりも疲労が溜まりやすい。さらにパープルを追いかけるのに精一杯だったりするのだ。


 もう少し経っても駄目なら一旦仕切り直そうかと考えていると……。


『…………&#%!』


 パープルから反応が返ってきた。


「見つけたのか⁉︎」


 パープルの後を追いかけていくと、そこには乳白色の綺麗な花が咲いていた。


「これが、プラチナヘリオか……」


 地面に凛として佇む花の美しさに思わず魅入ってしまう。


 蜜は極上のシロップになるのだが、他にも花弁や茎も様々な材料に使え重宝されているという。


 咲いている花を三つ残して摘む。全部を摘み取らないのは、全部摘み取らなければまた生えてくる可能性が高いからだ。


「それにしても、こんな森の奥まで入らなきゃいけないなんてな……」


 目的の物を入手してホッと息を吐く。パープルに付き従って来たが、普通ならこんな奥地まで踏み入ることはあり得ない。


「とりあえず、帰宅するとするか」


『…………$』


 パープルに吊り上げてもらい、空を移動する。プラチナヘリオを探す時とは違い、帰りは楽なものだ。


 俺はオリビア王女がどのような顔をするのか思い浮かべながら屋敷へと戻るのだった。






 翌日、オリビア王女の執務室で宮廷作法の勉強をしていた。


 午後になり、同じようにオリビア王女が休憩を提案してきて、プリンセスガーデンに向かった。


「うん、今日の紅茶も美味しいわね」


 満足そうに紅茶を飲む彼女に、俺は切り出した。


「オリビア様」


「ん、何かしら?」


 彼女がこちらを向くと、俺は瓶を取り出した。


「クラウス……それは?」


「お借りしていた瓶をお返しします」


「だって、それ……?」


 彼女は受け取ると瓶を開封し匂いを嗅いだ。


「プラチナシロップ? どうして?」


 目を見開き俺を見てくるオリビア王女。


「先日、たまたま森を散策した際、プラチナヘリオを発見しまして、ちょうど瓶があったので使わせていただきました。オリビア様の口に合えば良いのですが……」


 俺のために時間を割いてくれている彼女に何かしら御礼をしたいと思っていた。


 宝石類は王族ともなれば俺が贈ろうとする程度の物は沢山持っている。


 こうした嗜好品であれば足を使えば探すことができると判断したのだ。


「この寒い時期に、森に入ったのですか?」


 オリビア王女は綺麗な瞳を俺に向けると質問してきた。俺が嘘を言っていないのか見抜くつもりで……。


 俺がどう答えようか悩んでいると、それ自体が答えになってしまった。


「そう……わざわざこれを摂るために森に行ってくれたのですね」


 彼女は瓶をギュッと抱きしめるとそう呟いた。


「あの……オリビア様?」


 何か不機嫌にさせてしまったのだろうか?


 俺が彼女の様子をうかがっていると……。


「クラウス」


「はい!」


「覚えておくといいわ。貴族は礼儀には礼儀で返すの。この御礼は必ずさせていただきますからね」


「えっと……今回の件は俺からの御礼のつもりなのですが?」


 意図が伝わっていなかったのかと思い確認するのだが……。


「私が嬉しかったから、貴方に御礼をしたいのです。いいから覚悟しなさい」


 彼女は頬を朱にすると反論は聞かないとばかりに睨みつけてきた。


「とりあえず、貴方が何について喜ぶのか紅茶を飲みながら話しましょう」


 俺が摂ってきたプラチナシロップを混ぜながらそう言うオリビア王女。


「特に欲しい物とかないんですけど……」


 キングス四世といいオリビア王女といい、どうして俺に贈り物をしたがるのか、そう考えながら紅茶を飲むのだが……。


「うん、やっぱりこれが一番美味しいです」


 俺はこの紅茶と彼女の笑顔だけで十分なんだけどとひとりごちるのだった。

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