第141話 冒険者の冬の過ごし方
「そ、そういえばさ。最近、街で冒険者をあまり見かけなくなったよね」
ルシアは若干どもりながらも話題を変える。
「確か、冒険者って冬はあまり依頼がないらしいからそのせいじゃない?」
メリッサがそれに乗っかった。
「冬場は寒くなるので生物の活動が控えめになります。なので討伐依頼などは激減しているはずですね」
ロレインは外を見ながらそういった。
「この時期、普通の冒険者はダンジョンに潜って素材を集めたりするらしいですが、クラウス様は色々と特殊なお方ですからね」
シャーロットはクラウスが現在置かれている状況を加味すると、一般の冒険者との違いを指摘する。
「でも、クラウス君って冒険好きだし、子どものころは物語読んで目を輝かせてたんでしょ? ここぞという機会にダンジョンに潜ってもおかしくなさそう」
「そうですね、いくつか書物をお貸ししておりますが、傾向的にはダンジョンを攻略する英雄譚などを好まれているかと」
この場でもっともクラウスと接する機会が多いシャーロット。ボイル伯爵家は蔵書が多いので何冊か貸し出している。
「本当に男子ってダンジョン好きよね。アカデミーの男どもも『俺はいずれダンジョンを攻略してみせる』って馬鹿みたいに騒いでるし」
「メリッサ、それは微笑ましいというのですよ。可愛いじゃないですか、夢を語るというのは」
メリッサの酷評をロレインはフォローする。ダンジョン攻略とは男子なら一度は夢に見る偉業なのだ。
実際、アカデミーに通っているのは貴族が多いので、そのような非現実的な話を語っているのは子どもっぽく映る。
「それに、夢を追っているのは何も男性だけではありません。様々な罠やガーディアンを倒した奥に存在している財宝。中には古代文明の魔導具が沢山。実際に、ダンジョンを攻略して国を興した者は歴史上何名も存在しておりますから」
ダンジョンを攻略するというのは、世界的にも一目を置かれる凄い事件なのだ。
「クラウス君なら案外、簡単に攻略しちゃいそうだよね?」
その場の全員、それを否定することができずにいる。流石にダンジョンまではとも考えるのだが、現段階で神竜までテイムしているのだ。何をやっても不思議ではない。
「そういえばクラウスは今何をしてるの?」
話題の人物が一体今ごろ何をしているのかが気になり、メリッサが質問をした。
「兄なら、私が出掛ける前はネージュと一緒に寝てましたよ?」
もしかしてと期待した面々だが、予想外にクラウスは屋敷でのんびりしているのだと告げられる。
「それは意外ですね。クラウス様はもっとしっかりした方だと思いましたので」
セリアがクラウスが日中から寝ていることを告げると、ロレインが驚いた表情をする。
仕事で彼と接しているからか、怠惰に時間を浪費する印象がない。
「冬場は生物の活性化が止まりますから、クラウス様もそのようにしているのでは?」
シャーロットは紅茶の香りを楽しみながら、クラウスが寝ている姿を想像している。
「それにしては変なんです。夜中にコソコソと何かやっているみたいで……」
セリアがそう言うと、三人は何かを想像し気まずい空気が流れた。
「ん、コホン。クラウスにも色々あるのよ」
「そうですわね、殿方ともなると色々あります」
「男性なら仕方ないことです」
顔を赤らめる三人に、セリアは首を傾げる。
「ん? 何々、クラウス君が夜中に何をしているかわかったの?」
そんな三人に対して、ルシアは目を輝かせると追求を開始した。
「いえ、まったく見当もつきませんよ?」
「嘘だよ! ロレインならいつもみたいにズバリ当てるじゃん」
顔を赤らめるロレインにルシアは顔を近付け、嘘だと断定する。
「少ない情報じゃ何もわからないわよ」
「じゃあなんでメリッサ、顔が赤いのさ!」
声を荒げるメリッサに言い返し、顔が熱を持っていることを指摘する。
「私たちの勘違いという可能性もありますので、推測で答えるわけにはいきません」
「いいじゃん。ここだけの話にするからさぁ!」
シャーロットに懇願するルシアだが、皆の口は硬く、クラウスが何をしていたか吐くつもりはないようだ。
「結局、兄は何をしているのでしょうか?」
ルシアと同じく三人が何を想像したのかわからないセリアは首を傾げる。
三人が動揺したことで興味を持ったセリアがクラウスの寝室に突入した場合、悲惨なことが起こるのではないか?
「絶対に、ドアを開けちゃ駄目だからね!」
焦りを浮かべたメリッサは、強くセリアに言い聞かせた。
「は……はい、まあ……勝手に部屋に入るようなことはしませんけど」
戸惑いを浮かべながらもそう返事をするセリアだが疑問は解決せず、しばらくの間、兄が何をしているのかについて気になり続けるのだった。