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【書籍化&コミカライズ】女神から『孵化』のスキルを授かった俺が、なぜか幻獣や神獣を従える最強テイマーになるまで  作者: まるせい
三章

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第118話 テイマーギルド幹部ネグレイ

 生徒たちがそれぞれグループごとに集まり今後の相談をしている。


 地図を見ながらどこに行くのか? どのような分担で仕事をするのか?


 などについて話し合っているようだ。


 グループは四名が三組みの男女混合で構成されており、仲が良さそうだ。


 しばらくの間、そんな彼らの様子を見ていた俺だがシャーロットに視線を向けると質問をした。


「シャーロットは自分のグループに合流しなくていいのか?」


 思えばここにくるまでの間、彼女が俺以外の誰かと話している姿を見た記憶がない。


「えっとですね……」


 シャーロットは頬を掻くと言い辛そうにしていた。


「私、皆さんから避けられていまして。グループを組んでくださる相手がいないのです」


「何だって?」


 聞き間違いだろうか? 俺はマジマジと彼女を見た。


「そんな目で見ないでください。仕方ないじゃないですかっ! 話し掛けようとしても目を逸らされるんですからっ!」


 これまでの彼女らしからぬ態度に驚く。シャーロットは頬を膨らませると俺を睨みつけてきたのだ。


「もしかして、俺をこのキャンプに誘ったのって……?」


「私の相手をしてもらうためです!」


 てっきり、テイマーとして参加するには有意義な行事だからねじ込んでくれたのだと考えていたのだが、思っていたよりも情けない理由だった。


「私だって、苦手なことの一つや二つあるんです」


 自分の弱みを知られたからか、シャーロットは途端に子どもっぽい仕草で腕を組むと愚痴を言い始める。


「って、これはクラウス様にいうようなことではありませんでしたね。申し訳ありません」


「いや、今の話し方で全然構わないぞ」


 思えばここにくるまで、彼女が常に取り繕っていたのは周囲に弱みを見せられないからだろう。


 俺にくらいは素の状態で接してくれた方が嬉しい。


「普段は本当にこんなこと言わないのですが、クラウス様を前にするとなぜか知らない自分を発見してしまいます」


 取り繕ったわけではないらしく、彼女は首を傾げた。


「でも、二人きりの時はこちらの方が話しやすい気がしますので、よろしくお願いしますね」


 折り合いがついたのか、彼女は笑顔でそう言った。


「シャーロット様。御機嫌麗しゅう存じ上げます」


 そんなふうにシャーロットと打ち解けていると、ネグレイさんが話し掛けてきた。


 彼は先程と同じ絡みつくような視線を彼女の身体に向けている。


「ネグレイ様お久しぶりです。こうしてお会いするのは三年ぶりでしょうか?」


 彼女は背筋を正し手を前で組むとこれでもかという完璧な笑みを浮かべる。

 ネグレイさんはそんな彼女の所作に見惚れると表情を崩した。


「ええ、以前お会いしたのはシャーロット様の初めての従魔契約祝賀パーティーでしたな。そちらのスクワールでしたか? いきなり希少なBランクモンスターを手懐けたと聞き私も感服しましたぞ」


「その節は大変お世話になりました」


 昔ながらの知り合いらしい。シャーロットはボイル伯爵家の人間で、ネグレイさんはテイマーギルドの幹部なので面識があってもおかしくはなかった。


「それで、御多忙なネグレイ様がわざわざどういった御用件でしょうか?」


 彼女は笑みを崩すことなく質問すると、ネグレイさんの用件を聞く。


「おお、それでしたな。実は今回のキャンプの参加名簿を見た際、シャーロット様の名前があったことに気付いたのですが、どの生徒ともグループ申請をしてなかったもので、もしよろしければ私が直々に島を案内して差し上げようかと」


 善意でネグレイさんがシャーロットと行動をともにするつもりらしい。


「御心配お掛けしてしまい申し訳ありません。ですが、大丈夫ですよ?」


「と、言いますと?」


 シャーロットは細く綺麗な指を動かし彼の視線を俺へと誘導する。


「この島には幼少のころより何度もきて慣れておりますので」


「そうは言っても多種多様なモンスターが存在する島を一人で歩き回らせるのは安全性に問題がですね……」


 シャーロットはやんわりと断るのだがネグレイさんは食い下がる。すると彼女は俺のひじに右手を絡ませると……。


「こちらの方と一緒にまわる約束をしておりますので」


 まったく寝耳に水の話をし始めた。


「おいっ……」


 シャーロットにどういうことか聞こうとするのだが、彼女の銀の瞳が言葉以上に訴えかけてきていた。


「どういうことだ……? クラウス?」


 ネグレイさんは俺を睨みつけるとそう言った。


「貴様は国家冒険者として護衛依頼の最中ではなかったのか? 」


「ええ、ですから。シャーロット様の護衛をダグラスさんから依頼されているんです」


 書類上では名前を明記していないのだが、辻褄を合わせる必要があったのでそう言って誤魔化した。


 それにしても、俺に対して興味もなさそうな彼が俺の予定を知っていることがやや引っかかった。


「国家冒険者でテイマーギルドのエースの彼に案内していただく予定ですが、安全面はこれで問題ありませんよね?」


 ここぞとばかりにシャーロットが捲し立てる。確かに国家冒険者試験に合格しているのでそこらのモンスター相手なら立ち回れる。

 ネグレイさんもそれがわかったのか……。


「ぬぐぅ……ありま……せん」


 どうにか言葉を捻り出すと俺を睨みつけ去っていった。


「はぁ……」


 気が抜けたのかシャーロットは脱力する。


「実はこうなるのではないかと思っていたんですよ」


 ネグレイさんがいなくなると彼女は身体を振るわせ事情を話た。


「三年前から、あの方が私を見る目の色が変わっておりまして……」


 先程のような不躾な視線を向けられているのだという。確かに、あのような目で見てくる相手と二人きりになるというのは怖いだろう。


「クラウス様を利用してしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 彼女は俺に向かって誠心誠意頭を下げた。

 最初から話してくれればと思わなくもないが、実際にネグレイさんが行動を起こさない可能性も考えられた。


 心優しい彼女のことだから、他人の悪い点を吹聴して回ることに気が引けたのだろう。


「そういう事情なら全然いいよ。俺なんかでよければどんどん風避けに使ってくれても」


 話し相手だろうが、防壁だろうが務めよう。そんなふうに思っていると……。


「一つだけ訂正をさせていただけるなら」


 彼女は指で俺の胸を突くと言った。


「クラウス様は『なんか』ではありません。私が信頼している頼りになる男性です」

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