第102話 シャーロットの屋敷訪問
「クラウス様の屋敷を訪ねるのは二度目になりますね」
ボイル家の馬車を降りると、彼女は目を細め、パーティーの夜を思い出していた。
伯爵家の令嬢ともなると、どこに行くにしても送迎が付くらしく執事服に身を包んだ老人の御者がいた。
「そういえば、以前は空から来たんだったな?」
俺の屋敷のお披露目パーティー以来、ほぼ使っていなかった馬車置き場に馬車を停めると、御者を残して屋敷へと向かう。
「あの時は突然レッドドラゴンが降りてきたから驚いたんだよな」
「御祖父様もスカーレットも人を驚かせるのが好きなんですよ」
当時を思い出していると、シャーロットは口元に手を当てクスリと笑った。
「もしかして、頻繁にスカーレットに乗ってるのか?」
この世界で最強と謳われるドラゴンを乗り物代わりにしているとしたら最高の贅沢だ。
「基本的には緊急時にしか乗らないことになっております」
緊急時といえば、先日の件が思い出される。
キャロルのクリスタル化を解くためにタバサさんとロレイン、それに錬金術の魔導具を運んでもらったのだ。
「そういえば、あの時は本当に助かったよ」
俺が思い出し、ボイル家としてのシャーロットに御礼を言うと、
「スカーレットは当家では御祖父様と私しか乗せてくれません。本当は私が魔導具を運びたかったのですが、御祖父様が駄目とおっしゃったんですよ?」
彼女は不満そうな顔をしていた。彼女でもそのような顔をすることが意外で思わず見つめてしまう。
「どうされたのですか?」
不思議そうな顔をして俺を見るシャーロット。
「いや。シャーロットでも不満をいうことがあるんだなと思って」
知り合って間がないが、彼女はいつも完璧な淑女の姿を俺に見せていた。知らず知らずのうちにイメージを固めてしまっていたらしい。
「そういえば確かに。普段であれば心の中に留めているのですが……なぜ私はクラウス様に不満を漏らしてしまったのでしょう?」
本人からして理由がわからないらしく首を傾げている。
「まあでも、あまり不満を溜め込むのはよくないからな。俺に話して楽になるならいくらでも付き合うからさ」
俺がそう言うと彼女は意外そうな表情を浮かべ、口元に手を当て微笑む。
「おそらく、クラウス様と一緒にいると安らぐからなのでしょうね」
まるで家で寛いでいるかのような自然な表情に、俺は返答に困った。
そうこうしている間に、屋敷の正面が見えてきた。
庭ではフェニとパープルが寛いでいる。
フェニは木に止まり昼寝をしており、パープルは花の周りを飛び回って蜜を吸っている。
「従魔が伸び伸びとしているのは気持ちが癒やされますね」
そんな二匹をシャーロットは優しい目で見た。
『ピピッ?』
『…………‼︎』
俺たちの姿に気付いた二匹がこちらに向かって飛んでくる。
「あらあら」
珍しい来客だからか二匹はシャーロットに群がった。
「お前たち、あまり迷惑かけるなよ?」
『チチチチチチチ』
『…………♪♪♪』
俺は二匹にあまりじゃれつかないように注意する。
「大丈夫ですよ、むしろフェニちゃんやパープルちゃんに触れられて私の方が得をしているくらいですから」
くすぐったそうにしながら二匹と戯れるシャーロット。フェニとパープルが人懐っこいことを差し引いても凄い打ち解け様だ。
彼女ならあるいはコクが俺から遠ざかる原因を発見してくれるのではないかと期待する。
ひとしきり彼女たちが触れ合うのを待つと、俺は二匹に話し掛けた。
「お前たち、コクを見ていないか?」
基本的に、コクも屋敷内を自由に動き回れるようにしている。
『ピーイ?』
『…………?』
二匹は首を振ると見かけていないと返事をした。
「仕方ない、シャーロット探してくるからここでーー」
ーーガサガサガサガサーー
待っていてもらう間に探してこようと言おうとしていると、花壇が揺れた。




