第2話
西村は僕にビビりその場を立ち去った。
僕の身体はどうしてしまったんだ?
「風宮くん、私いまの見ちゃた」
後ろを振り返ると阿澄さんが制服姿のままニタッと僕に微笑んだ。
「今みたことは誰にも言わないで」
「条件がある」
「条件って?」
「私にさっきの力をもう一度見せて」
「いや、僕だって初めてさっきのよく分からない現象が起きたから」
「どうやって起こしたの?」
「分からないよ、意図的にやったわけじゃないから」
「じゃあ、違う条件で」
「何?」
「私と付き合って」
「え!?」
阿澄さんはいつもの無表情で僕にさらっと告白したので驚きの声を上げた。
「ダメ?」
「……僕、好きな人がいて」
「へぇ、そう。だけど、これを見ても私と付き合うことを断れるかな?」
阿澄さんは僕にスマホの画面を見せてきた。そこには、僕が泉田をよく分からない力で倒した一部始終が映っていた。
「これをどうするつもり?」
「断るならネットにこれを上げる」
「それは困る」
僕は頭が混乱した。どうしよう?阿澄さんのことは嫌いじゃないけど正直好きでもない。でも、断ったら世界中にこの動画が拡散されてどんでもないことになる。平凡でいたいのにこの動画で目立つというか化け物扱いされるだろう。
「……分かった、付き合うよ」
もう、選択肢はこれしか残っていない。
「賢明な選択だね」
阿澄さんはまたニタッと微笑む。
阿澄さんは人を弄ぶときに不気味な笑みを見せることは分かった。
「阿澄さんは僕のことが好きなの?」
「いや、好きじゃないよ。かといって、嫌いでもない」
「じゃあ、何で付き合いたいわけ?」
僕は怪訝な顔つきで阿澄さんを見て言った。
「風宮くんのことが"知りたい"から。それに、付き合うことで側にいれるからね」
「つまり、阿澄さんはさっき僕の身に起きた謎の現象について"知りたい"から僕と付き合いたいわけ?」
「今日は勘がいいね」
「いつも鈍いみたいじゃないか」
「鈍いのは事実はじゃん」
「……」
「言い返さないの?」
阿澄さんは俯く僕の顔を覗き込む。
「事実だから……」
「でも、風宮くんの力を上手く制御できれば君をバカにする愚民達を服従できるよ」
阿澄さん僕の右手を掴み淡々と喋る。
「阿澄さんはこの力を悪用しようとしてるの?」
「悪用?"正しい使い道"だよ」
「まぁ、阿澄さんの力を借りたい。また、さっきみたいな現象の目撃者がいればこの力を抑え込む方法が分かるかもしれないから」
「風宮くんは優しすぎるんだよ。それが原因かもしれないよ」
「どゆこと?」
「じゃあね、風宮くん」
阿澄さんは僕に背を向けて空き地を去っていた。
「さよなら……」
* * *
次の日、鏡で顔を見ると鼻が青黒く打撲の様な跡になっていた。口周りは引っ掻き傷で目立ちはしていなかった。昨日、家を出てまた帰ってきたときに傷痕が酷くなっていたので母さんは心配して警察に連絡しようとしたから僕は全ての出来事は済んだと言った。母さんは僕を信じると言って警察に連絡しようとした手を止めた。
学校に行くために僕は最寄駅にとぼとぼ歩いてICカードを機械に照らして改札口を抜けて階段を下り電車に乗り、学校の最寄駅まで行く。
約20分、電車に揺られて学校の最寄駅に到着した。
電車を降りて、階段を上がり改札口を通り抜ける。駅から歓楽街を避けて遠回りして徒歩15分で学校に着く。学校の規律でなるべく歓楽街を通り抜けてはいけないとなっている。
しかし、今日は歓楽街を突っ切って学校に行きたい気分に駆られた。真っ直ぐ歩いてると人気の少ない通りにラブホテルがあり、そこから僕が片想いしている芹沢梓がうちの学校で僕の担任の教師・橋田武雄と一緒にそのラブホテルから出てきた。
読了ありがとうございます!
次話(一話分)は明後日の8月29日(月)に更新します。