第12話
僕と坂口は泉田が救急車に運ばれる瞬間に立ち入った。
パトカーから警察官2人がこちらへやって来る。
「桂川警察署の刑事課の巡査部長の柊木誠です。河田学園の生徒だよね」
右目に傷があるリーゼントでいかにも昭和なみてくれの初老の刑事が警察手帳を見せて訪ねてきた。
「あ、はい」
「何があったんだい?」
「……」
僕はさっきあった経緯を説明したら署まで同行して色々なことを訊かれてあの橋山が行方不明になっている事件について訊かれたらボロが出そうで何も答えられずに地面の石っころを眺めていた。
「先程、たまたま私たちの近くで揉め事があってそれで今さっき運ばれて行った人のお尻にナイフが刺さっていて」
「それで救急車を呼んだわけですね」
坂口が俺をフォローしてくれたのかつらつらと怪しまれないようにはきはきと喋っているところを初老の刑事の隣にいたすらっとした身長の高い、丸いメガネを掛けた爽やかな男の人が坂口に微笑みかけながら訊く。
「あ、はい」
「申し遅れました。私も桂川警察署の刑事課の巡査長の灰田敏文といいます」
灰田という刑事も手帳を見せてきた。
「じゃあ、さっきの人が何で尻にナイフが刺さったかは知らないってことだね?」
柊木という刑事はジッと僕を見てくる。
「……はい」
「そうか、灰田、彼らは関係ないみたいだ」
柊木刑事は横にいる灰田刑事に視線を送り、言う。
「そうみたいですね。自分、ここの店長に話を訊いてきます」
灰田刑事は目線を僕から柊木刑事に移し、ゲーセンの中へ入って行く。
「名前だけ聞いといていいかな?」
柊木刑事はペンとメモ帳を取り出す。
「風宮悟です」
「私は坂口美也です」
柊木刑事はメモ帳に僕らの名前を書き記した。
「時間取らしてしまって申し訳ないね、もう行って大丈夫だよ」
「分かりました、失礼します」
僕は軽くお辞儀してその場を坂口と去る。
「別に悪いことしてないのに何か緊張したね」
「そうだね。坂口さん、フォローしてくれてありがとうね」
「いや、大丈夫だよ。あそこのゲーセンであった事実話してたら引き止められてきっと署まで行かされてたよ」
「そうだね、うまく切り抜けたね」
僕は額の汗をハンカチで拭いて言った。
学校の最寄り駅に着いた時、坂口は構内の100均ショップに寄って帰るから先に行っていいよと言われた
。
「分かった。今日はお疲れ、じゃあまた明日」
「うん、また明日。あ、風宮が何を隠してるのかは知らないけど、言いたくなっらいつでも私を頼ってね
」
坂口は昔から本当に優しい。だから、僕に起きてる事実を言えなかった。
「うん、ありがとう」
「じゃあね」
坂口は手を振って去って行く。
僕はとぼとぼと気怠い気分で改札口を通り、坂口の方を振り返ったがいなかった。
* * *
僕は家の最寄り駅に着いて阿澄さんにメールを送った。
"相談したいことがある"と先日、喧嘩した阿澄さんに連絡してしまった。皮肉にも坂口さんではなく僕を知る阿澄さんが頼りだ。
電話が鳴り、僕は応答した。
(風宮くん、相談したいことって何?)
(突然、電話してごめん、阿澄さん)
(いいから要件を)
(うん)
僕は今日あったこと全部を話した。泉田に絡まれた件、ゲーセンの地下に薬物があるのではないかと?、後は泉田のせいで警察も来たこと。
(そんな面白いことがあったんだ)
電話越しからも分かる阿澄さんの不気味な笑みを想像できる。
(面白くないよ、本当に散々な日だったよ)
(で、相談したこいとは?)
(警察は橋山の件をまだ捜査してるよね?)
(でしょうね、怪しまれてないか不安になってるわけ?)
(うん)
(まぁ、最近は物騒な世の中だから生徒が教師を殺害することや、その逆もありうるよね。けど、あなたみたい貧弱な少年が人を殺めるように向こうだって考えないわよ)
(だといいけど……)
(それよりも、面白い話があるの)
(僕は面白い話をしたつもりじゃないんだけど。それで、面白い話って?)
(東川が旅行に行くのかってぐらい大きな荷物を持って弟らしき子と歩いてるのを見たの)
(それの何処が面白いの?)
(どう考えてもあの感じは家出だよ。しばらく、あいつは学校来ないからいじめられる心配もないよ)
読了ありがとうございました。
次話は"活動報告 3月27日(月)"でお知らせした通り、4月20日(木)以降に投稿します。
これからも宜しくお願いします!