【完結】幼馴染に告白されたと勘違いした婚約者は、婚約破棄を申し込んできました
今日は貴族社会の集まるお茶会。
公爵令嬢の私、ローズ=フラワーも参加したのだが……。
「すまんローズ。婚約は破棄してほしい」
頭を下げて必死に説得してくるのは、ポッカ男爵家ご子息のドドンガだ。
正直に言うと、親同士が決めた今回の婚約に前向きにはなれない。
公爵令嬢の立場である以上、父が嫁ぎ先を決めるのがこの国では当たり前なのだ。
ドドンガと初めて会った時から、何度も『頭大丈夫だろうか』と心配になるような場面があった。
今だってそうだ。彼の両親だってお茶会に参加しているので、何処かにいるはず。それにも関わらず、ドドンガが単独で私に言ってきてる時点でおかしい。
すでにドドンガの発言は周りにも聞こえてしまっている。
私の両親はこのお茶会に参加していないため、私が責任を持って対応しなければならない。
「いきなり何故ですか? 私に何か問題があったのならば直すよう努力致しますが」
「いや、ローズは何も悪くないんだ。これは俺たちの問題なんだ」
『俺たち』とは一体どう言うことなのだろうか。
もしもポッカ男爵家絡みならば一人では来るはずがないし、そもそも真面目すぎるポッカ男爵ならば婚約破棄など考えるはずもないだろう。
「大事なことですので、話してくれますか?」
「実は、一番奥にいる俺の幼馴染であるマラリアに、『一緒にいれたら幸せだね』って、さっき言われたんだ。俺は告白された。小さい頃から好きだった相手に言われたら居ても立ってもいられなくて……」
マラリア=ゴールドさんがドドンガと幼馴染なことは当然知っている。だって、私とマラリアさんは親友と言って良いほど仲が良いのだから。
私とドドンガが婚約していることも勿論知っている。
どう考えてもマラリアさんがそのような略奪するような発言をするとは思えなかった。
「疑って申し訳ございませんが、本当にマラリアさんがそう言ったのですね? そしてあなたはご両親の意向も気にせず婚約を破棄したいと?」
ドドンガは静かに頷いた。
「すまない、俺の気持ちは本気なんだ。だからしっかりと婚約も破棄してから、マラリアに気持ちを伝えたいんだ」
今度は真っ直ぐな視線を向けられた。
少しだけ考えたが、私が勝手に決断することはできない。
しかし、ドドンガが今まで見せてこなかった本気の視線に押されてしまった。
「身勝手にも程があります……。けど、本気なら仕方がありません。ですが、この件は私の父や、其方のご両親にも、偽りなく直ちに報告します」
「わかった」
少し行動が早い気もするが、左薬指にはめていた婚約指輪もこの場でお返しした。
こういったことは、一度決まったら覆したくはない。
父には申し訳なく思うが。
ドドンガが去った後、私は大きくため息を吐いた。
婚約が解消されることははっきり言ってどうでも良かった。
だが、マラリアさんがそのようなことを言う人だとは未だに信じられなかったのだ。
少しの間、私は上の空だった。その間に、この婚約破棄の話がお茶会の間で次々と伝わっていくのだった。
【ドドンガ視点】
まさか幼馴染のマラリアが俺のことをあんなふうに思ってくれていたなんて知らなかったな。
いつも俺にはツンツンしてそんな素振りなかったのに。
世の中にはツンデレって言葉もあるし、俺にだけツンツンしてたのは特別扱いされてたってことなんだろうな。
くそう……もっと早くから知ってたら親父から縁談の話をされた時、無理やりでも断ってたんだけどな。
ローズと結婚したら俺は超金持ちだったはずだが、マラリアだってゴールド伯爵家の令嬢。
超とは言えないだろうが、充分金持ちになれるし、おまけに俺の初恋相手。
マラリアに頼めばローズとの婚約破棄に対する慰謝料だって問題なく払えるはずだ。
ローズには婚約破棄の了承も得たし、準備は整った。
俺はこれでもちゃんとケジメはつけてるんだ。
さぁて、早速マリーにプロポーズしに行こう!
「マラリア、ちょっと良いか? 大事な話がある」
「え? またアンタ……まぁ良いけど、大事な内容じゃなかったら承知しないわよ?」
出たっ! マラリアのドエス発言。
しかも凄く嫌そうな顔をして俺を睨んでいる。
でも、これも愛情の裏返し。
俺にだけの特別な喋り方だし、表情の裏側ではきっと喜んでいるんだろう。
マラリアのこういう所が好きなんだ。
俺は直ぐに人気のいない屋敷の裏側へ連れて行った。
「たった今、ローズとは婚約破棄した。マラリア、俺と結婚してほしい」
「はぁ!? 何言ってんの!?」
あれ? いやいや良いんだよ怒った顔しなくたって……。
真面目な話をしている時くらいはツンツンしなくて良いだろう、デレて欲しいんだけどなぁ。
仕方がない、もう一度言うか。
「俺は小さい頃からマラリアのことがずっと好きだったんだよ。だから、さっき君が言ってくれた言葉で目が覚めたんだ。結婚してください」
急だったので、指輪も持っていなかったから、この際仕方がない。
さっきまでローズがはめていた婚約指輪で代用して、それを渡した。
「指輪!? しかもそれ……アンタ本気で言ってるの!?」
「もちろんだよ。だって、マラリアが『一緒にいれたら幸せだろうな』って言ってくれたし」
マラリアは片手で顔を押さえて上を向いた。
そうか、涙を必死に押さえてるんだな。よし。デレ獲得だ!
「『一緒にいれたら幸せだろうな』って言ったのはドドンガ、アンタのことよ!」
「え!?」
「そうでしょう!? あんなに美しくて可憐なローズ様とアンタは四六時中一緒にいることになるのよ。もしも可能だったら私がローズ様と添い遂げたいくらいなの! ドドンガは幸せモンだなって意味で言ったのに……それなのにアンタは……」
話の途中から耳に入っていたのにそのまま反対の耳から抜けてしまった気がする……。
「じゃ、じゃあ、マラリアは俺のことは……」
「好きなわけないでしょ!? むしろこれを渡されて更に嫌いになった。この指輪……ローズ様に渡した指輪でしょ?」
「な……なんで分かるんだ? でも、所有物が返還されたんだから俺の物だし、それにこんな高価なモノなら別に──」
「分かるのも当たり前よ! さっき私にプロポーズする気になったんでしょ!? お茶会の合間に指輪を買いに行ったとでも言うの?」
俺は何も言えなくなってしまった。
絶対に喜んでくれると思ったのに何でなのかわからない。
混乱しているところなのに、マラリアは俺に対して幼馴染相手とは思えないような口調で酷いことを言ってきた。
「結論だけ言いますね。ローズ様に泥を塗ったドドンガ様、貴方と結婚はご遠慮させていただきます。二度とドドンガ様を幼馴染とは思わないように致します。失礼致します」
そのまま後ろを向いてマラリアは走る勢いで去っていった。
あれ、本気で振られちゃったのか?
いや、あの敬語ならば時間をかければまだ見込みはあるかもしれないな、うん!
えーと……ローズには慰謝料払うことになりそうだし、どうしよう。
♢
「そうだ!」
三十分くらい呆然と考えてしまった。
おかげで良いアイディアがでたぞ。
ついつい誰もいないのに一人で大声で呟いてしまったが、何とかなりそうだ。
ローズには婚約破棄の破棄を申し込めばいいじゃないか。ただそれだけのことだよ。
マラリアにフラれたし、考えたらやっぱりローズが一番なんだ。
それに、よく考えたらあんなガンガン突っかかってくるようなうるさいヤツよりも、常に敬語で下手に出てくれるローズの方が長い目で見れば扱いやすいだろうし。
なんで気がつかなかったんだろうな。
俺は急いでローズの元へと走った。
あ、マラリアから婚約指輪返してもらうの忘れた。
【ローズ視点】
「ローズ。やっぱ俺は君じゃなきゃダメだ。婚約破棄は破棄だ」
結婚破棄をしてきた男が一時間も経たずに再び私の目の前に現れ、身勝手なことを言ってくるのだ。
「もうすでに父には婚約破棄を言い渡されたことも報告済みなんですけど」
「それでも構わないんだ。俺は迷走してしまっただけなんだ。でもマラリアに言われて気が付いた。俺はローズのことが大事なんだ」
折角のお茶会が、とんだ茶番劇になってしまっているではないか。
見ている周りの視線も痛いし、ドドンガに対する視線は恐い。
「まずはあなたのお父様とお話をするべきかと思いますが」
ドドンガの背後から現れ、ドドンガの肩を強く叩くのは彼の父、ポッカ男爵だ。
「お前と言う奴は……なんてことをしてくれたんだ……」
「父上! 痛いですよ! 急に背後から叩くなんて」
「私の心の方が痛い、それ以上にローズお嬢様の方が心を痛めておるわ! ドドンガよ、何故勝手に婚約破棄をしたのだ? これほど完璧で綺麗なローズお嬢様の何が不満だというのだ!」
「だから今こうやって婚約破棄を破棄してもらうよう頼んでいるんじゃないですか」
「馬鹿息子が……」
お茶会という状況じゃなくなった。完全に修羅場だ。
全員がこっちを向いて静観している。
「ローズ様、さっきも言ったけどごめんなさい……私のせいですわ」
「マラリアさん!?」
マラリアさんが目の前に現れて、ドドンガの表情が一気に青ざめていくように見えた。
「これ、ドドンガ様に返すの忘れてました。ごめんなさいねドドンガ様。私はローズ様を泣かせるような人とは結婚できませんので、何故か『ローズ』と彫刻されている指輪もお返し致します」
「わー、こんなところで返すな!」
マラリアさんは、ポッカ男爵も見ている前で指輪をドドンガに渡した。
勿論、わざとだろう……。
ドドンガがここへ来る前に、マラリアさんが私の元へ物凄い勢いで走ってきたのだ。そして謝罪をしてきた。
事情も全て聞いているし、私が返した指輪が何故かマラリアさんの元に渡ったことも知っている。
その上でマラリアさんは、みんなが見ている中で、悪役を務めてでもドドンガに仕返しをしたいと言ってきたのだ。
マラリアさんはそうでもしないと気が済まないらしい。
「ドドンガ! これはローズお嬢様にお渡しした婚約指輪だろう!」
「でも高いモノだし……あとでしっかり名前を刻み直しておけば良いかと思って」
「お下がりの指輪などいりません!」
マラリアさんの怒声が強烈で、ちょっと恐い。
それよりもこれだけ言われてもまだヘラヘラしている態度をとっているドドンガの方がもっと恐い。
呆れ果てたような表情をしているポッカ男爵は、再び私とマラリアさんに顔を向け頭を下げた。
「マラリアお嬢様にローズお嬢様、此度のバカ息子の過ちと行動、いくら詫びても取り返しもつかない程です。この件の賠償と責任は必ず取りたいと思う次第です」
「いえ……ポッカ男爵がそこまで考えなくとも……ドドンガさんの行動を見ていて失礼ながら、私は婚約破棄されて良かったのかなと思っていますし」
今まで生きてきた中で、初めて皮肉めいた言葉を言ってしまった気がする。
私だってドドンガの行動と態度は許せないのだ。
私だけなら良いとしても、こうやって周りの人に迷惑をかけてしまって、元婚約者としてもみんなに謝罪をしなければと思う。
「ドドンガ、今日限りで責任を取ってポッカ家の爵位は返還することにした。妻も同じことを考えるはずだ。お前は当然勘当だ。ローズ様への婚約破棄に関する慰謝料はお前が責任を持つのだ」
今までヘラヘラしていたドドンガは、ようやく焦り始めたようだ。
「そんな! 俺は今後どうなっちゃうのです!?」
「自分で考えろ。ローズお嬢様の前でこのようなことは言いたくないが、ローズお嬢様との婚約が決まった時点で我が家は安泰確定だった。だがこのような会で結婚破棄をお前が独断かつ勝手に宣言した行為はどう言うことなのかも今一度考えるんだな」
ドドンガはしばらく何も言わなかった。
しかし、ふと、こちらを向いて泣きながら無茶苦茶なことを言うのだ。
「ローズ、もしくはマラリアでも良い! どっちか俺と結婚して欲しい。助けて欲しいんだ」
「「無理」」
マラリアさんと見事に声が被ってしまった。
つい本心が露になってしまい、哀れな目でドドンガを見下してしまう。
マラリアさんもまた、ドドンガのことをゴミを見ているかのような眼差しだった。
周りからは冷ややかな笑いと、何故か拍手まで起こってしまった。
「恥知らずの馬鹿息子が! お前は今後、貧民街への引っ越しも考えておかねばならないだろうな」
「えー無理、無理です! あんな底流社会で生活なんて想像できません」
「お前が人として底辺だからこうなったのだ」
そのあとはポッカ男爵が何度も何度も私とマラリアさんに謝罪してきた。
後日、このお茶会は伝説となり、貴族社会の歴史の教科書に載るほどの出来事になってしまった。
真面目なポッカ男爵家は、お茶会の翌日に爵位返還をしてしまった。
ドドンガは馬車に乗せられ、遠くの貧民街へ連れて行かれたらしい。
慰謝料の請求の支払いに猶予期間を設けるつもりだが、もし間に合わなければ、今度は鉱山送りになってしまうだろうから、そうならないように必死になって働くことだろう。
父は今回の件で反省したようで、婚約者は自分で決めるように言われた。
それからというもの、次から次へと縁談の話が私の元へ来るようになってしまった。
公爵令嬢の私が、結婚相手を選べるという状況にただただ嬉しかった。
好きな人……お茶会の時、あんなに怒ってくれて心配してくれたマラリアさんが本命かもしれない。
でも、それは本人にも周りにも絶対に言えなかった。
読んでいただきありがとうございました。
こちらは連載小説ですが、是非よろしくお願いいたします。
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