クラスメイトとの交流
放課後になり、俺は真司、華城を含むクラスメイト達と高校生御用達のカラオケ店へと遊びに来ていた。
授業中や放課後みんなで教室を出ようとしているときも愛花がこっちの方をチラチラと見ていたが、結局昼休み以降、話しかけに来ることはなく、そのまま愛花は部活に行ってしまった。
昼休みに言っていた話というのが何だったのか、少し気になる気持ちもあったが、やっぱりまだ怖いという感情の方が勝ってしまっているため、自分から話しかけに行くことが出来なかった。
「よーし、じゃあまずは乾杯からいこうかー! 全員ドリンク持ってー!!」
クラス委員長にしてグループのリーダーである篠宮 朱乃が場を仕切る。
篠宮が自分のグラスを持って掲げると、みんなもそれに合わせてグラスを掲げる。
「それじゃあ、今日も一日お疲れー!! かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」
「よーし歌うぞー!」
「一番手は俺に行かせてくれ!」
「私も歌いたーい!」
乾杯を口火に皆騒ぎ始める。そのテンション感に若干ついて行けない俺は、手に持つドリンクを口に運んだ。
「やあ、佐伯くん。楽しんでるかい?」
すると、先程乾杯の音頭を取った篠宮が俺の隣に座る。
「ああ、まぁ若干ついて行けてないけどな」
「あははっ、ウチのクラスは特別元気だからね。最初は気後れするかもしれないけど、すぐに慣れると思うよ」
「俺がこれに慣れてるイメージが全く湧かないんだが……」
こんないかにも陽キャ集団に溶け込むんでいるのは想像がつかないな。
「そんな事は無いさ。私は意外とイメージしやすいけどね、君が「うぇーい! 歌うぜー!」って叫んでる姿」
「そんな馬鹿な」
一体何をもってイメージしやすいと思ったのか。
「冗談だよ、冗談。確かに君がみんなみたいに騒いでる姿は私も想像つかないな」
「なんだ、冗談か」
すまないと言いながらケラケラ笑う篠宮。なんだか見た目の印象と随分違うな。長いストレートの黒髪、しっかりと着こなされた制服、そしてクラス委員長という役職から、もっと大和撫子みたいな感じかと思っていた。
「けど、それは私が君のことをあまり知らないからだと思うんだ。知らない相手のことは想像しようにも出来ないのは当たり前だよね」
「まぁそうだな」
実際、俺も今日までクラスメイトのことをあまり知らなかったから、このハイテンションを想像することは出来ていなかった。
「今までは、君はクラスに関心がないと思っていたから、無理に知ろうともしなかったし、君の迷惑になってはいけないと私も自制してきたんだが……どうやら君はクラスに関心がない訳ではないみたいだね」
「そうだな、今は結構クラスの事を知りたいと思っている……かもしれん」
真司や華城が言うには、今までの俺は愛花に夢中になり過ぎていたあまり、クラスメイトの事が一切視野に入っていなかったらしい。実際、華城の事を知ったのはつい先日のことであるため否定は出来ない。
「そうか、それなら良かった。ならば私も遠慮する必要はないと言うことだね。……君のことを是非私に教えて欲しい」
そう言って、篠宮はグイッと顔を近づけてくる。
柔らかな笑みを浮かべながら、まるでこちらを品定めするかのような視線を送ってくる。
篠宮が持つ、黒曜石のように純黒の瞳が目線を外すことを許さなかった。
少しの間、沈黙の時間が流れる。実際はカラオケボックスにいる訳だから騒がしい音で溢れているのだが、俺と篠宮の間には一切の音が入ってこないような、そんな錯覚すら覚えた。
「ちょっと朱乃、近いから。離れて」
「おっと」
すると、先程まで歌っていたはずの華城が俺と篠宮の間に割り込むように座る。
「歌ってたんじゃないのか?」
華城を見るとマイクも持っていないし、いつの間にか違う奴が歌っていた。
「もうとっくに歌い終わったよ!! 私が歌ってる時にイチャイチャしてた2人は気付かなかったかもしれないけどね!!」
やや怒り気味にそう言うと、何故か華城は少し離れた所に座っていた真司の方を睨み付けた。
「真司も真司で笑ってばっかりで朱乃のこと止めようともしないし!!」
そう言えば、さっきから真司は歌ってもいないし、特に何する様子も無く座っていたな。
「いやなに、天成と朱乃のこと睨み付けながら歌い続けるお前の姿が笑えすぎてな。これを止めるのはもったいなさすぎるだろ」
「うぐっ……」
真司にそう言われ、華城は思わず黙り込む。……そうだったんか。俺達が気付かなかっただけで、華城は歌っている途中も、怒っていたらしい。
「まぁそれにせっかく天成が俺達以外のクラスメイトと交流してんだし、それを邪魔するのもどうかと思うじゃん?」
そう真司が言うと、篠宮がそれに乗っかる。
「そうそう、佐伯くんはこれまでクラスメイトとの交流が極端に少なかったからね。今日を機にたくさんのクラスメイトと話すことも大切だと思うんだ。それでまずは私から佐伯くんと雑談していたという訳さ」
篠宮の言うことに共感したのか、華城の怒りモードは早々に静まった。
「そっか、そういうことなら私も納得。ごめんね朱乃、私早とちりしちゃった」
「構わないさ、それに佐伯くんには個人的にとても興味があったから、舞が考えていたこともあながち間違いじゃないしね」
「なっ……」
華城をからかうようにそう言うと、篠宮はマイクを持って歌い始めた。どうやら篠宮が入れた曲の番がやって来ていたようだ。
「ぐぬぬ……」
「篠宮って結構冗談とか言うよな。人をからかうのを楽しんでる」
「朱乃は意外とそういうとこあるぞ、見た目は完全清楚な大和撫子、けど中身は場をかき乱す小悪魔って所か」
さっきまで離れた所で見ているだけだった真司がグラスを持ちながらこっちに座り直す。
「そうなんだよね、私も今まで何度からかわれたか……」
「今もからかわれてたしな」
「ぐぬぬ……だって佐伯くんが楽しそうに話してるから」
「舞は特別からかわれてるからねー」
「そうそう、俺達はちょくちょくしか、からかわれないしな」
華城の前に歌っていた2人も会話に参加してくる。確か、音無 沙也加と渡辺 颯太だ。
「そうなのか?」
2人の言ったことに俺は聞き返す。
「うん、舞って反応が一々可愛いし、多分朱乃もからかってて楽しいんじゃないかな?」
ほう、確かに華城のさっきの反応はからかう側からしたら楽しいかもしれない。
「てか、それより佐伯と遊ぶのって俺初めてなんだけど、なんで今日は来てくれたんだ?」
渡辺がそう聞いてくるが、どう答えようか。
「自分がクラスで浮いてるんじゃないかって不安になったんだってよ、それで普段は断ってた誘いに乗ることにしたんだと」
俺がどう答えようか思案していると、真司がそう答える。
「えー、全然そんなことないよー。佐伯くん、遊びには来てくれないけど、学校じゃ掃除とか担任から頼まれた仕事とか率先的にやってくれるし、クラスで見てても優しさがにじみ出てるから、みんな佐伯くんに興味こそあれど、嫌ってるなんてこと絶対ないよ」
「うん、俺もそう思う」
音無がそう言うと、それに合わせて渡辺も頷く。
「あ、ありがとう」
面と向かってそう言われるとちょっと恥ずかしいが……
「これからもよろしくな佐伯!! せっかく同じクラスになったんだし、仲良くしていこーぜ」
渡辺が右手の拳を差し出す。俺もそれに合わせて自分の右手の拳を出した。
「ああ、よろしく」
「私もー」
「じゃあ俺も」
「あっ、私も私も」
それを見て、音無、真司、そして華城も同じようにする。
「よーし!! これからもこのグループでいっぱい遊ぶぞー!!」
渡辺がそう叫ぶと、それに合わせてみんな答える。
「「「「おー!!!!」」」」
「おいこらー!! 私をのけ者にするなー!!」
みんなで盛り上がりを見せていると、マイクを握っていた篠宮が叫んだ。
そう言えば、今篠宮が歌ってたんだった。




