悪友は良い奴
前回のお話に文が抜けてた所を見つけて一文追加しました。物語には影響しない文ですので、大した変化ではありませんが、ご了承ください。
自分のクラスが随分とハイテンションなクラスだと分かった後にしばらくクラスメイト達と雑談していると、朝練を終えた愛花達テニス部が教室に入ってきた。
その際一瞬だけ愛花と目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。ちょっと傷ついた。
それから間もなく担任がやって来たため、俺達は会話を終えて各々の席へ着いた。
「よーしお前らー、今日も元気にやってくぞー」
相変わらずのやる気を感じられない間延びした声で、先生はホームルームを開始する。
「んー? おい佐伯ーお前顔の傷どうした?」
出席を取り始めたところで、先生は俺の顔の怪我に気付く。やっぱりみんな気にするんだな。
「えっと……ちょっと転んだだけです」
「ふーん、気をつけろよー」
それから授業を普通に受けて、そして昼休みの時間がやって来た。
「ふー、やっと昼休みかー」
体を伸ばしながらそう呟く。なんで授業中ってあんなに時間が長く感じるんだろう。
遊んでいるときや自分の好きなことを行っている時間は早く過ぎるのに、授業中はやたらと時間が長い。本当に同じ時間の流れなのかと思ってしまう程だ。
「よっしゃ、じゃあ飯食いに行こうぜー」
ググッと体を伸ばしていると、後ろからコンビニの袋を持った真司がそう声をかけてくる。多分朝の登校の時に昼飯を買っておいたんだろう。
真司とは朝、昼食に付き合うように約束していたため、そのまま頷き鞄から弁当を取り出す。
「おっ、今日は弁当なのか?」
普段、コンビニ飯や学食を利用している俺が、弁当を持ってきていたことに真司は驚く。
「おう、なんか今日は妹が弁当作ってくれてな」
普段は全く料理などしない可奈が珍しく料理に挑戦したらしく、弁当を作ったと言って持たせてくれたのだ。ありがとう可奈、ありがたく食べさせてもらうよ。
「じゃあ屋上で良いよな? 行こうぜ」
「ああ」
「ちょっと待って」
真司の提案に同意して俺は真司に着いていく。すると、朝からまるで目を合わせてくれなかった愛花が俺達の道を塞いだのだ。
「あ……愛花」
俺は思わず後退りしてしまう。頭の中で、一昨日の光景が浮かぶ。フラれたときのなんとも言えない息苦しさが俺を支配する。
「何か用か? 一鈴」
何も答えないで固まっていた俺を見かねたのか、真司がそう愛花に聞く。
「その、ちょっと天成に話があって……時間もらえないかな?」
話? 話って何だ? 一昨日の告白のことか? あれだけキッパリと断ってまだ何かあるってのか?
これ以上、愛花に拒絶されたら俺のメンタルは持たないぞ。
「あっ……えっと」
あまりの恐怖から上手く言葉が見つからない。それに声もなんだか震えている気がする。
知らぬ間にクラスメイトの何人かの視線も集めている。……これ以上はヤバい。
「そっか、でも悪いな。天成は俺と先約があるんだ。また今度にしてくれや」
そこで、真司が俺と愛花の間に割り込むようにそう言った。
「えっ、いや……でも!!」
「じゃあそういうことだから!! またな一鈴!! ほら、行こうぜ天成!!」
真司に引っ張られながら、俺は教室を後にする。教室を出る瞬間、愛花が凄く悲しげな顔をしていたような気がしたが、見間違えだろうと思い、俺はそのまま真司に引っ張られた。
◇◇◇◇
「屋上来るのも久しぶりだな」
真司に連れていかれた場所は、学生達の憧れの場所、校舎の屋上だった。
普通の学校では厳重な鍵が掛かっているため出入りすることが多いが、この学校では昼休みの時間帯のみ、屋上が開放されることになっている。
屋上が開放されている学校はとても珍しいため、それ目的でこの学校に入学することを選ぶ奴までいると聞いた事がある。まぁ実際来てみると、夏は暑いし、冬は寒いしで、あんまり良いところでもないんだけどな。
かく言う俺も、屋上に来たのは入学して間もないことに一回だけで、それからは一回も来たことがなかった。
「俺は結構来るけどな。人も少ねーし、景色もいい。飯を食うには絶好の場所だろ」
そう言いながら、真司は袋から菓子パンを一つ取り出し、かじりつく。
「確かにそうだな」
一回だけ来た時は結構人がいたように記憶しているが、今日は俺たち以外誰もいない。
多分みんな屋上がそれほど良い所では無いと理解したんだろう。2学期ともなれば、物珍しさも大分薄れてるだろうしな。
まぁなんにせよ、広い屋上を貸し切り状態っていうのは悪くない。俺も弁当の包みを解き、昼食を取ろうとする。
「……おお、凄え」
パカっと弁当箱を開くと、そこには色鮮やかな料理達が綺麗に並べられた。
可奈の奴、料理出来たんだな。この弁当を見る限り、かなりの腕なんじゃないか?
「いただきますっと」
両手を合わせ、可奈に感謝しながらおかずの唐揚げを一つ口に運んだ。
すると、なんとビックリ、サクサクの衣に閉じ込められていた肉汁がブワッと広がっていくではないか。……美味い!!
可奈、お前は将来いいお嫁さんになるよ。この兄が保証する。
「お前めっちゃ幸せそうに食うな」
隣で俺を見ていた真司がそう言う。
「いや、妹が作ってくれた唐揚げが想像の1000倍美味くてな。お前も食ってみろよ」
俺はもう一つの唐揚げを真司に差し出した。そして、それを一口で食べた真司はかなりの驚きの表情になった。
「確かに美味いな。うん……美味い」
あまりの美味さに語彙力が低下してしまったようだ。気持ちは分かるぞ、真司。
「そう言えば、なんで今日昼食にわざわざ誘ってきたんだ?」
「ん……?」
「朝お前は『昼付き合えよ』って言ったけど、そんな風に誘わなくても、いつも一緒に食ってんじゃん。なのに、わざわざ昼に誘って、珍しく屋上まで来たのは何か理由があるんじゃないのか?」
真司は馬鹿だが、無意味な行動はしない。ただたまたま屋上の気分だったからって訳でもないだろう。
多分、今日のこの行動の意図は……
「もしかして、俺に気を遣ってくれたのか?」
そう聞くと、真司は大きく頭を掻いた。
「ったく、そうだよ。傷心中の誰かさんに気を遣ってやったんだ」
そう言って、真司は俺を指さす。
「お前、一鈴に告ってフラれたんだろ」
あまりにも直球の物言いに、俺は一瞬たじろいでしまうが、すぐにそれに答える。どうせ、バレバレだしな。
「ああ、よく分かったな」
「分かるわ馬鹿野郎。一鈴と少しでも一緒にいたいからって、毎日クソ真面目に学校通ってた奴が急に連絡もなしにサボって、それに階段から転けるなんてドジまで踏んで、んで極め付けはさっきの一鈴へのあの態度。あれを見りゃ、誰でも分かるだろうよ」
誰でもは言い過ぎな気がするが、確かに言われてみれば分かりやすい態度を取ってしまったなと思う。一昨日までは幼馴染とあって親しく接していたのに、急によそよそしくなったら誰でも不思議に思うだろう。そう考えると、俺の態度は失敗だったな。
あんなにビビってたんじゃ、フラれたんだって自ら暴露しているようなものだったのかもしれない。
「フラれた経緯とか、聞いたりしないのか?」
普通学生ならば人の色恋沙汰は大好物で、根掘り葉掘り聞いてくるもんだが、真司にはその様子は無い。
「ばーか、そんなもん聞いたりしねーよ。お前だって俺にフラれた経緯なんて話したいと思ってねーだろ。ダチの嫌がる事をなんでやらせんだよ。今日お前を誘ったのは、あれだ……こうしてダチと飯食って、ダベってたら少しは気が紛れるだろ?」
真司は少し照れているのか、顔を明後日の方へ向けながらそう言う。
「そうか……ありがとな真司」
俺はそれに、素直な感謝を伝えた。
「おう……さっさと飯食おうぜ」
俺と真司は、雑談を交わしながら食事を続ける。
誰もいない屋上に二人の笑い声だけが響き渡っていた。




