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誰かに話すと楽になる

「えっと……ホントに同じクラスだっけ?」


 ナンパから助けた女の子は、なんと同じクラスのクラスメイトだった。


「ホントだよ!! 1年B組出席番号12番の華城舞!!」


 1年B組という事はやはり俺と同じクラス。どうやらホントに同じクラスらしい。


 華城 舞……桜色の長い髪と大きな瞳が特徴的で、それだけ見ると清楚っぽいが、着崩された制服やチラリと見えるピアスが彼女がギャルである事を物語っている。


「その、すまん!! 俺まだクラスメイト全員覚えて無くて!!」


「もう2学期だけど?」


「2学期だけど、まだなんだ!!」


 正直にそう答えると、華城は「はぁ……」とため息をついて、


「佐伯くんっていつも一鈴さんのことばっかだもんね。他のクラスメイトの事が見えないくらいに」


「そ、そうか……?」


「そうだよ、私以外のクラスメイトも全員思ってるんじゃないかな? 『あれ? 佐伯くんの目には一鈴さんしか映ってないんじゃね?』って」


「いや、そんなことはないと思うけど」


「いやいや、そんなことあるって」


 手を左右に振ってナイナイと言う華城。


「それよりも、病院とか行かなくても大丈夫? 私付き添うよ?」


「ああ、それは大丈夫。体中痛いけど骨とかは大丈夫そうだし、病院行くほどではないかな」


 体をパンパンと叩き、異常が無いことを確認する。やはり打撲くらいでそれ以上の怪我はなさそうだ。


「華城の方こそ大丈夫か? 怪我とかしてないか?」


「うん、私は大丈夫だよ。掴まれた腕に跡がついちゃったぐらい」


 そう言って掴まれていた右腕を見せてくる。見ると確かに少し赤くなっていた。


「そっか、それは良かった。じゃあこれで」


 華城に心配が無いことを確認し、俺は背を向ける。さて、コンビニに行こう。いい加減腹減って死にそうだ。


「えっ! 待ってよ!!」


 すると、華城が慌てて俺を呼び止める。まだ何かあるのかな?


「助けてもらったんだし、何かお礼させてよ。このまま何もせずにさよならはちょっと気が引けるし」


「別にそんなの気にしなくて良いぞ。俺が自分で勝手にやったことだしな、それにクラスメイトを助けるのは当然のことだろ?」


 まぁ偶然だったんだけどね。クラスメイトだと知ったのは助けた後だったから。


「そういうわけにはいかないよ。佐伯くんはボロボロになってまで私を助けてくれたんだもん。それで私は何もしないなんて出来ないよ」


 頑なにお礼させろという華城。うーん、華城からしてみればそっちの方が気が楽か。無償の善意は確かに気持ち悪いかもしれない。


「じゃあ、何か飯奢ってくれ。何でも良いけど出来ればガッツリ食えるものが良いな」


 ちょうど良かったから、今一番求めている物をねだることにした。


 ◇◇◇◇


「お待たせー買ってきたよー」


 公園のベンチで待っていた俺に、そう言って華城は買ってきた牛丼を渡してくれる。


「おーサンキュー」


 俺はそれを受け取って、さっそく中身を取り出す。買ってきたもらったのはノーマルの牛丼の王様盛りと豚汁、最高の組み合わせだ。


「それじゃあいただきまーす」


「はいどうぞ」


 辛抱溜まらず、一気に口いっぱいに牛丼をかき込む。


「うめぇー!!」


 一日ぶりの食事に思わず涙が出そうになる。牛丼ってこんなに旨いものだったのか。


「ふふっ、凄く美味しそうに食べるね。はい、これお水」


 隣に座る華城は手に持っていたペットボトルを開けて手渡してくれる。俺はそれを受け取って、半分くらいを飲み干した。


「ふーっ、生き返るー!!」


 体中に水分が行き渡る。一日中泣き続けた後だからな、体内の水分が枯渇していたみたいだ。


「ありがとな華城」


「どういたしまして、でもホントにこんなので良かったの?」


「こんなのってことはないさ、今の俺が一番求めてた物だよ」


 旨い飯と飲み物でボロボロだった体がみるみると回復していくようだった。


「そう? それなら良かった。それとずっと気になってたんだけど……」


「何だ?」


「その、なんでそんなに髪とか制服とかグチャグチャなの? 最初からそうだったよね?」


 たこ殴りにされる前から俺の髪や制服が乱れていたことに疑問を持っていたようだ。


「あと、目の周りパンパンになってるし、目の下も赤いし、いつもそんな感じじゃないよね?」


 普段の容姿と異なることも不思議に思ったようだ。まぁ当然か。


「ああ、俺昨日からずっと泣き続けてたんだよね風呂にも入らず部屋でさ。だから目は泣きすぎでパンパンになってるし、服装も昨日のまま、髪もボサボサってわけ」


 華城に正直に言う必要も無かったが、何となく言ってもいいかなと思ったから言ってしまった。


「……」


 華城の方を見ると、黙ったまま俯いていた。もしかして引かれたか? 昨日から泣き続けたとか、風呂入ってないとか、女子にキモがられる内容を暴露したわけだからな、引かれても仕方ない。


「キモいって引いた?」


 そう聞くと、華城は俯いていた顔を上げ、必死に否定する。


「ううん、そんなことないよ!! ただちょっと考えちゃって、ずっと泣き続けるなんて何か悲しいことでもあったのかなって」


 真剣な面持ちになり、華城はこっちを向く。


「良かったら私、話聞くよ? 多分誰かに打ち明けた方が気持ちも楽になると思うんだ」


 そう言われ、少し迷う。華城に聞かせるにしても内容的に結構恥ずかしい。


 家族にも聞かせられないような、情けない話だ。それをクラスメイトの華城に話すなんてとても出来ない。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、他人に聞かせるような話じゃないから」


 そう言って断ると、華城は一瞬目を見開く。なにかまずいことでも言ってしまったか?


「うん、でも他人だからこそ話せることもあるんじゃないかな? 親しい人には話せなくても、ただのクラスメイトの関係の私になら話せるかも知れないよ?」


 確かに深い関わりの無い人の方が話しやすいというのはあるかも知れないな。内容的にも家族や友達よりも華城にの方が気持ち的には楽だと感じる。


「もしかして、私が言いふらすかもって思ってる? 確かに今日クラスメイトって認識しただけの私を信じること何て出来ないよね。でも、それでも信じて欲しい。私は絶対に佐伯くんを裏切らないから」


 ジッと俺の目を華城の大きな瞳が見つめる。その瞳からはなぜだか嘘偽りが無いように感じられた。そして……


「分かった、話すよ。……でも、笑わないでくれよ」


「うん、絶対に笑わないよ」


 俺は華城に全てを話す事にした。


 ◇◇◇◇


「……て感じで今に至る」


 俺は華城に洗いざらい話した。恥を忍んで自分の初恋が玉砕したこと、その後女々しく泣き続けたこと、そして泣き終えてコンビニに行こうとした途中で華城が絡まれている場面に遭遇したこと。これまでの経緯を全て話した。


「そっか……それは、辛かったね」


 話を聞き終えた華城は、そう呟くように告げると、一度目を瞑った。


「私もさ、実は初恋の人がいたんだ」


「へぇ……そうなんだ。どんな人なの?」


 そう聞くと、華城は少し頬を赤らめながら答える。


「その人はね、一言で言えば猪突猛進? な人なんだ。ただ真っ直ぐに大切な人のことを想って、それでいて曲がったことが嫌いな人なの」


 ほう、それはまた不器用そうな奴だな。


「私はそんな彼の、真っ直ぐな生き方に憧れた。最初は目で追う程度だったんだけど、ある事がきっかけで彼が好きなんだと気付いてしまったの。それからは地獄の日々だった」


 華城は少し遠い目をしながら話を続ける。


「だってそうでしょ? 彼はただ真っ直ぐに大切な人の事を想ってる。そんな彼の目には私なんか全く映らなくて、でも気持ちはどんどん大きくなっていって、本当にどうしようも無かった」


 大切な人、とはその彼には好きな人がいたということだろう。確かにそれは辛い。


「だから私はこの恋を終わらせることにしたの。だってそうしないと、胸が張り裂けてしまいそうだったから」


 自分と照らして考えると分かりやすいだろう。もし愛花に好きな人がいて、そいつだけを見つめる愛花を俺は好きで居続けられるだろうか? 答えはノーだろう。


 好きじゃ無くなるとか嫌いになるとかじゃない。ただ心が持つ気がしない。


 だったらきっぱりと終わらせてしまった方が楽になれる。


「じゃあ、そいつには告白したって事か?」


 そう聞くと、華城は首を横に振る。


「ううん、してないよ。フラれるのは分かってたから」


「それで納得できたのかよ?」


「うん、出来たよ……ていうか、無理矢理したって言った方が正確かな?でも、ちょっと辛かったってのもあるよ」


「……そうか、お前も色々あったんだな」


 華城の表情は懐かしむような、それでいて悲しむようなものだったが、不思議と心は前を向いているように感じた。


「だから私達は初恋玉砕仲間って事だね」


「ははっ、何だそれ嬉しくねーな」


「ふふふっ」

「ハハハッ」


 俺達は思わず笑い合ってしまう。そしてしばらく笑い続けた後に俺はふーっと息を吐いた。


「なんだか気持ちが楽になったな、お前に話して良かったよ。話聞いてくれてありがとな」


 素直に感謝を伝えると、華城はニコッと笑った。


「私の方こそだよ。今日は助けてくれてありがとう、佐伯くんが来てくれなかったら私どうなってたか分からなかったし」


 華城は深く頭を下げる。そして、俺もまた華城に頭を下げてある事をお願いする。


「良かったらまたこうして話をさせてもらっても良いか? ……良ければ友達になって欲しい」


 そうお願いすると華城は驚いた後に、こう答える。


「私も佐伯くんと友達になりたい! だから、その、よろしくね!」


 お互いに手を差し出して握手する。そして、もう辺りが暗くなっていることに気付き、華城を家まで送るためにベンチから立ち上がった。


 その時にはもう、悲しみも苦しみも一切感じることは無くなっていた。

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