Side山川真司&篠宮朱乃 親友として、クラス委員長として
天成と舞の二人が公園で話している間、俺と朱乃はその様子を少し離れた所で見守っていた。
そして、舞が涙を流し蹲る姿を見た。
「終わったみたいだね」
「……そうだな」
俺と共に二人を見ていた朱乃はそう言って、地面に置いていたカバンを持ち直した。
「これ以上は二人に悪い。ここらで引き上げるのが賢明だね」
「ああ、そうだな」
そう答えたが、俺は天成と舞の二人から目を離すことが出来なかった。
「ねぇ真司。少し、一緒に歩かないかい?」
そんな俺に気付いたのか、朱乃はそんなことを言ってきた。
朱乃の言うとおり、これ以上部外者の俺が二人を見守ることはただのおせっかいにしかならない。俺は、朱乃の提案に乗り、朱乃の隣に並び歩き出した。
「真司は随分とあの二人に入れ込んでいるんだね」
歩き出して少しすると、朱乃がそんなことを聞いてきた。
「はあ? なんでそう思うんだよ」
「だって、真司ってあの二人がくっついて欲しいって思っているんじゃないの? 教室でもそうなるように誘導してたし、佐伯くんが一鈴さんと仲直りしたって聞いて少し怒ってるように感じたからね、私にはそう思えて仕方ないんだけど」
こういう時の朱乃はとても鋭い。その上、常日頃からクラス中、全クラスメイトのことを注意深く観察しているこいつは、クラスメイトの考えや行動を把握する力に優れている。
そんな朱乃には俺の考えは筒抜けだったようだ。
「そうだよ、俺は天成と舞にくっついて欲しかった」
「一応聞いておくけど、理由はあるのかな?」
「当たり前だろ。理由もなくそんなことするかよ」
そう、理由はある。俺は、天成の親友としてあいつには幸せになって欲しかったんだ。
「天成が一鈴にフラれたって聞いたとき、正直少しキレかけたんだ。天成がずっと一鈴のことを好きでいたことは知っていたし、一鈴も天成に気があると思っていた。だから、天成と一鈴がくっつくのも時間の問題だと思っていたんだ」
「だが、天成はフラれて傷つけられた。もちろん、天成の告白を受けるのも振るのも一鈴の自由だし、本当なら俺がどうこう言う問題じゃないことも分かってる。でも、一鈴は俺が見ても分かるくらい天成に気があるような態度だったにもかかわらず、天成を振った。それはあんまりだろって思ったんだ」
恋愛は本人の自由、どんな選択をするかは本人次第だ。だが、思わせぶりな態度を取ったあげく、親友を傷つけたとあっては黙っていられなかった。
「口を挟ませてもらうが、私は佐伯くんと一鈴さんが二人でいるところをあまり見たことがない。真司の言う思わせぶりな態度を一鈴さんはとっていなかったように思うのだが……」
朱乃の疑問はもっともだ。天成と一鈴は高校ではあまり接点はなかっただろう。だから、高校で二人と出会った朱乃がそう思うのも当然だ。
だが、俺は中学から天成と一鈴と同じ学校に通っていた。中学では、高校とは全く違う光景が広がっていたんだ。
「中学時代は一鈴の方が、天成に接触している感じだったんだ。中学同じ奴はみんな知ってたぜ、一鈴は天成のことが好きなんだって」
だから、中学では一鈴に告白する奴なんてほとんどいなかった。
「なるほどね、中学時代は違ったと。それで? なぜそれが舞を応援することに繋がるんだい?」
「天成はフラれたショックで精神的に不安定になっていた。だから、俺や舞、それにお前や他のクラスメイトと交流することで視野を広めて欲しかったんだ。それに、俺は舞が天成に気があることを知っていた。舞が良い奴って事もな。一鈴につけられた傷を舞なら癒やしてくれると思ったから俺は舞を応援したんだ」
舞が天成に気があると知ったのは同じく中学時代。中2の時俺は舞と同じクラスになった。最初は気付かなかったが、同じクラスで過ごしていく中で、舞が天成を目で追うことが多いことに気付いた。
それから、舞と話をする機会が増えていき、舞が天成のことを好いていることを知ったんだ。
「へぇー、なるほどなるほど……じゃあ、一鈴さんにくっついている瑞浪さんと沢渡さんに何か吹き込んだのも真司ってことかな?」
どうやら朱乃には全てバレているようだった。
「ああ、あの二人は一鈴に劣等感みたいなものを感じていたみたいだから、その辺を刺激してやったら簡単に言うことを聞いてくれたよ。あの二人には一鈴の様子を報告してもらっていたんだ。まあ、あの二人にとってはそんなことより一鈴が悩んだり、部活でミスをしているのを見るのが楽しいって感じかも知れないが」
俺がやったのはほんの少し感情を煽ってやったことだけ。それでも効果は絶大だったようだ。まあ、天成と一鈴が仲直りした今となっては何の意味も無いことだがな。
「ふふっ、そんなことをしてたんだね。クラス委員長としては見過ごせない事だけど……今となってはたいしたことでもないから見逃してあげよう。私に感謝しなきゃね」
「それはどうも」
「ふふっ、心がこもっていないな。まあいいや。なら真司にとって今の状況は好ましくないということなのかな?」
これまでの話を聞いて朱乃がそう聞いてきた。そして、俺はそれに同意した。
「まあな。俺は舞とくっついて欲しかったんだから当然だろ」
俺の答えを聞いた朱乃は、一度大きく笑った。そして、ひとしきり笑い終わるとこちらを向いて、俺の目をじっと見つめてきた。
「な、なんだよ」
「いやなに、真司もまだまだ子どもだなと思ってね。私はね、こう思うんだよ。確定した未来なんて存在しない。これからの人生何があるかなんて誰にも分からないだろうって」
急にそんなことを言い出す朱乃。
「何だよ急に。未来がどうこうって、今の話と関係ないだろ」
「ふふっ、まあ聞きなよ。ここからが重要なんだから。恋愛に関しても同じだと私は思う。今現在、誰がどんな想いを抱いていようと、どんな関係性を構築していようと、確定していることなんて何もない。未来を作るのは今ではなく、これからどうするかだからね」
そこまで聞いて、朱乃が何を言いたいのか、それが分かった。
「真司が何をしても、どう思っても、それは君の自由だ。だが、舞も佐伯くんも一鈴さんもそれぞれの想い、それぞれの行動があって、これからどうとでも変わっていくんだ。本人にその意志があればね。だから、彼ら彼女ら自身に任せてみるのも良いんじゃないのかい?」
朱乃が言いたいこと。俺が天成や舞にこうして欲しい、ああして欲しいと思っても、それを選択するのは本人達であり、これからどうなるのかは誰にも分からない。だからこそ、見守ることが大切なのではないのかということだ。
「佐伯くんと一鈴さんが付き合うのも、舞が諦めずに佐伯くんにアピールを続けるのも、佐伯くんが私の魅力に気付いて私の手を取るのも、自由。誰にも咎められることではない」
「おい待て、今なんか変なのが混ざってたぞ」
朱乃はニヤッと笑うと、俺の少し前を歩き始めた。その姿はまるで心をかき乱す小悪魔のようだった。
「私達はまだ高校生だ、これからの学校生活を存分に楽しもうよ。親友として、クラス委員長として。それが、私達のすべき事じゃないかな?」
朱乃と話して、俺もまた新しい考えが芽生えていた。確定した未来なんてない、まさにその通りだ。
これから何があるのか、俺達がどうなっていくのか、それは誰にも分からない。
だからこそ、天成や舞の親友として俺は俺の人生を全力で生きよう。
前を歩く朱乃を追いかけながら、俺はそう思った。




