不意打ちは心臓に悪い
華城に誘われ、向かったのは学校から二駅ほど離れた場所にある大きなショッピングモールだった。
「平日なのに結構人いるんだな」
「そうだね、まぁここらじゃ一番大きなショッピングモールだし、仕方ないよ」
周りを見渡すと、俺達以外にも多くの人で賑わっていた。
その中で特に多いのは、俺達のように制服を着た学生達だ。
友達同士やカップルといった、所謂リア充達がそれぞれ楽しんでいる。
「で、こういう所ではどうすればいいんだ?」
自慢じゃないが、これまでの人生で女の子と二人で遊びに行ったことは無い。それ故に、これからどうすれば良いのか勝手が全く分からないのだ。
「うーん、とりあえず適当に歩こうか。気になったお店があったらその都度見ていくって感じでどうかな?」
「分かった」
華城の提案に俺は頷いて答える。こういう場所に行き慣れているであろう華城について行けば間違いは無いだろう。
「それじゃあ行こ」
「ああ」
如何にもリア充のようなこの時間に、心を躍らせている自分を感じながら、歩き始める華城の横に並び、俺達はショッピングモールの散策を開始した。
◇◇◇◇
「あ、ここのお店見てもいい?」
「じゃあ寄っていこうか」
「あっ、あそこも気になってたんだよねー」
「おう」
「あっ、あれ! 雑誌で取り上げられてたヤツ!」
「そうか」
「このお店も見ておきたかったんだよね!」
「なるほど……」
次から次へと店を行き来する華城。楽しそうに動き回る彼女に置いていかれないように俺もついて行くが、やたらとテンションの高い華城に着いて行くのが少しキツくなってきた。
「これいいなぁ! あっ、こっちもいい!」
「これいいなぁ」って言ってるのに、さっきから一つも購入していない。というか、行く先々の店で良いと思う服の系統が変わっているんだが……
「佐伯くんはこれどう思う?」
「ああ、良いと思うぞ」
「だよねー! うーん、どうしようかなー?」
と言いながら持っていた服を元に戻す華城。さっきからこれの繰り返しだ。せっかく似合っているのだから買えば良いのに。
「うーん、やっぱり最初のお店で見つけたやつの方が良かったかな? ちょっと最初のお店戻っていい?」
「ん? それは買わなくても良いのか?」
「うん、これよりも最初の服の方が佐伯くんの反応が良かったからそっちにするよ」
そう言って答える華城。不意打ちのそのセリフは極めて心臓に悪い。
「そ……そうか」
「うん」
「それじゃあ一回戻るか」
「うん!」
ということで俺達は最初に見た店に戻り、そこで目的の物を購入。それから華城の提案で、フードコートで少し休憩することにした。
フードコートに並んでいたアイスクリームの店で、2人分のアイスクリームを購入し、華城の待つ席へと向かった。
「ほい、味は王道を選んだけど、バニラかチョコどっちがいい?」
「えっ、ありがとう。あの、お金払うよ、いくらだった?」
「いや、大丈夫だ。これはお礼みたいなもんだし」
「お礼?」
「ああ、今日誘ってくれたお礼。で、どっちにする? あっ、もしかして苦手だったとか?」
「ううん、大好きだよ! それじゃあ、えっと、チョコで」
華城が指差したチョコ味のアイスクリームを渡す。
「じゃあいただきまーす! う〜ん美味しい〜!」
アイスクリームを人舐めして、体を震わせて美味しさを表現する。
「それは良かった」
「うん! ありがとう!」
こんなにも目に見えて喜んで貰えると、嬉しいもんだな。
「でも、誘ってくれたお礼って……私がお願いした側なんだから、ホントは私がしなくちゃいけないのに」
申し訳なさそうにする華城。こういう反応をされると、少し罪悪感に苛まれる。
教室で勇気を出して誘ってくれたであろう華城と、愛花のことを気にして断ろうとしていた自分を思い出す。
自分の勝手な事情で華城に悪い事をしてしまう所だった。真司が止めてくれて本当に良かった。
「ホントは佐伯くん、来たくなかったんじゃない?」
「え……?」
「一鈴さんのこと気にしてたじゃない。それに最初断ろうとしてたし……あれって一鈴さんが怒って出て行っちゃったからだよね?」
完全にバレてる。ってバレて当然か。あの教室にいた奴なら誰だって分かってるかもしれない。
「……やっぱりバレてた?」
「うん、だってあまりにもあからさまだったもん。でも、あんまり一鈴さんに気を遣わなくてもいいと思うよ」
「え……なんでだ? 自分に告ってきた奴が他の女の子と仲良くしてたら嫌じゃないか?」
実際、あの時の愛花怒ってたみたいだし。
「それは相手に多少好意があったりした場合だと思う。でも、一鈴さんは佐伯くんのこと「ありえない」って言って酷い言い方で断ったんでしょ? だからあの時の一鈴さんはそういうんじゃなくて、ただ不快に思って出て行ったって感じだと思う」
教室での出来事を思い出して、分析する華城。ただ言葉はかなり辛辣。
「一応、愛花とは幼馴染で、せめて元の関係に戻りたいって思ってたんだけど……」
俺の願望? というか、どうしたいのかを伝える。
「ちょっと言いづらいけど、幼馴染ってそんなに深い関係でも無いし、振った相手にあんまり近づかれるのも正直嫌だと思う」
「……そっか」
「多分一鈴さん、他に好きな人がいるんじゃないかな? 佐伯くんのことを酷く振ったのも、はっきりと脈が無いことを伝えるためだったんだと私は思う。……そうするのも優しさだと思うから」
確かに脈が無いのに、やんわり断わられて脈ありと思わされるより、バッサリと断られた方が、相手のためになるのかもしれない。
そう考えると、あの言葉は愛花の優しさだったのか。
「そうだな、華城の言う通りかもしれない。あんまり未練がましいのもみっともないし、キッパリと諦めることも大切だよな」
叶わぬ恋を追いかけたって、得られるものは何もない。今まで初恋を追いかけてきたけど、そろそろ終わりにしなくちゃいけないかな。
「佐伯くん……」
「ありがとう華城、お前がはっきり言ってくれて俺、ちょっとだけ前を向けそうだ」
「ぅ……不意打ちはズルい」
なんだか清々しい気持ちの俺に対して、華城は何やら顔を俯けて黙ってしまった。
それから俺達は、いつの間にか溶け始めていたアイスクリームを急いで食べるのであった。




