失恋
俺の名前は佐伯 天成。どこにでもいる普通の高校1年生だ。一般的な家庭に生まれ、容姿や成績、運動神経もクラス内で中の下か中の中くらいの本当に普通の学生。
だが、そんな俺にも一つだけ普通とは言いがたい事がある。周りが羨ましく思う特別な事、それはとても可愛い幼馴染みがいるということだ。
その子の名前は一鈴 愛花。ショートボブの柔らかな栗色の髪と天使のような笑顔が特徴的な女の子で、学内でも一二を争う人気を誇っていた。容姿端麗で、学業も全国模試で上位を取り、さらには強豪と言われるテニス部で1年生ながら次期エースと呼ばれ雑誌にも取り扱われるほどの完璧美少女。
彼女とは家が隣同士、親同士が学生時代からの知り合いということもあり、俺達も生まれたときから良く一緒に遊んでいた。
昔の彼女は引っ込み思案でいつもビクビクしていた。だから俺はいつも彼女の手を引いて一緒に遊んだり、出掛けたりしていた。その時は彼女に対してまだ特別な感情は持っていなかったと思う。
けれど幼稚園、小学校、中学校と歳を重ねるごとに彼女への想いが大きくなっていくのを感じていた。
だったら告白すれば良いじゃないかと思ったかも知れないが、時が経つにつれて難しくなっていったんだ。
日に日に可愛く人気者になっていく彼女と、クラスでも目立たない存在となっていた俺。劣等感を感じたことが告白に踏み出せない一番の原因だったと思う。
高校生になっても彼女への想いは消えること無く、むしろ大きくなっていった。そんな中、何時までも告白に踏み出せなかった俺に追い打ちをかけるような出来事が起こったのだ。
高校生になって愛花が同級生や先輩達から告白されるようになった。
中学までは人気はあったけど、俺と愛花が幼馴染みということを知っている奴らばっかりだったから俺に気を遣ってくれていたのか、愛花に告白する奴はいなかった。
でも高校生になって愛花の可愛さにさらに磨きがかかったのと、周りも付き合い出す奴らが増えたことがきっかけだったのか、愛花に告白する奴が多発したのだ。
俺は戦慄した。とてつもない焦燥感に駆られた。ヤバいと思った。このままじゃ、愛花が誰かと付き合い出すのも時間の問題なのではないかと焦った。
俺も早く想いを伝えないと……そう思って行動を開始してからの事はあまり覚えていない。
だだ一つ、彼女に告白したときの彼女の返事だけが脳裏に深く刻まれている。
「ありえないでしょ……」
そう言われてフラれてから自分がどうやって家に帰ったかは分からない。
ふらふらとおぼつかない足で二階の部屋まで戻って、それからひたすらに泣いた。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……!!」
大声で叫んだ。一階にいる家族にも聞こえたのか、慌てて部屋をノックする音が響いていたが、そんなことを気にする余裕はその時の俺には無かった。
ただ泣き続けた、ただ喚き続けた。嗚咽した。何度も何度も……気を失うまで。
「うっ……」
そうして気付いた時には、窓から眩しいくらいの日光が差し込んでいた。
朝なのか? 確か俺が帰ってきたときは夕方だったはず……ということは泣き疲れてそのまま眠ってしまったのか?
「今は何時だ?」
ポケットから入れっぱなしにしていたスマホを取り出す。すると、愛花と俺の母さん、それに妹からそれぞれレインが届いていた。
『ねぇ、天成? なんで帰っちゃったの?』
『天成、愛花が心配してたわよ。どうしたの? 何かあった?』
『お兄うるさい』
三者三様のメッセージがレインで届いている。
母さんにはどうやら心配させてしまったようだ。まあ、あれだけ叫んでたら心配するわな。部屋には入らないでくれたのは気を遣ってくれたんだ。
可奈はただの文句だな。可愛げの無い奴だ。騒いでた俺が全面的に悪いんだけど。
愛花のメッセージは……なんでってお前が言うのかとちょっとイラッとしてしまった。フラれてその場に居続ける方がおかしいだろ、俺のメンタルは豆腐よりも柔らかいんだぞ。
「はぁ……きっつ」
今まで知らなかったな、フラれるのがこんなに辛いなんて。人生で初めての告白だったんだから当たり前のことだが、これほどまでに苦しい思いを俺は味わったことがない。
10年以上抱いていた初恋が終わったのだ。それもあんなにあっけなく。
「マジで体に力入らん、何のやる気も起きんな」
俺はもう一度スマホの画面を見る。すると画面には、8時10分との時刻が写っていた。
時計を見てビックリする。昨日が火曜日だったから今日は水曜日だ。当然学校がある。フラれた昨日の今日で愛花と会うのはちょっと辛いけど、それは週末に告白しなかった俺が悪いのでそれで学校を休むわけにも行かない。
家から学校までは30分かかるため、急いで家を出ないと間に合わない。本来なら、慌ててカバンを持ち部屋を出るべき。顔は泣いたまま眠ってしまっていたから目元が真っ赤になっていたけどそんなことは気にするなという勢いのまま部屋を出るべきなんだが……
「何かもう……いいや」
俺はベッドにスマホを投げ捨てる。そしてそのまま、目をつぶった。
全てを失ったような虚無感を感じながら、俺はもう一度涙を流すのだった。
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