唯一の力と愛した女
僕が特殊な死神として扱われるようになったのは、5つか6つの時からだった。
僕が何の気なしに虫の霊に祈った時、輪廻の輪の周りに不思議な気が流れたらしい。
それは、僕達死神の一族に数千年か数万年に1人生まれるという、伝説の力だった。「祈祷神様だ〜っ!!」「ありがたや」人々の歓声がうるさく感じる。
その日から僕の人生は一変した。
それから15年後、僕は彼女と出会ったのだ…
僕が病院の中庭を横切った時の事だ
「あーっ!!ちょっとあんた!!ここにいる人達を連れて行かないでよっ!!」
仁王立ちでこちらを睨みつける1人の女性がいた。
「なんのことかな?」
彼女はつかつかとこちらへ向かってきて、
「とぼけないでよねっ。あなた、こちらの世界の人間じゃないでしょう?」
ポニーテールを揺らしながら、じっと見上げられ、思わずたじろぐ。
「僕達は、人の寿命を決める事を許されてはいない。
ご安心なさい。」
彼女は拍子抜けしたようにしてから、「悪霊や、悪魔じゃないの?」と恐る恐る覗き込んできた。
その仕草の可愛らしさについつい頬が緩んでしまう。
「そういったもの達から、人々を守るのも、僕達の役目。」ぶっきらぼうにそう吐き捨てると。
彼女はにっこりと微笑んで
「疑って悪かったわね。お詫びに食事でもどう?そんな存在がいたなんて、話も聞いてみたいし、ねっ?」
その後すぐにどこに行こうか考えているようだった。
「かってに話が進んでいるようだが…詫びなどいい。」
立ち去ろうとして、もう1つの疑問に気がついた。
「僕の姿が見えるのか!?」
当然だとでもいうように、彼女は「私、霊感強いの。見えるだけだけどね〜」と言った。
ふと、彼女が心配になり「僕みたいな奴ばかりでは無い、見分けがつかないなら無闇に話しかけるな。」と警告すると、「心配してくれるの?少し冷たいのかと思ったけど、あなた、優しいのね。ところで、名前は?私、美琴!」完全に彼女のペースに持って行かれてしまったようだ。
(名前…か、あの時から祈祷神様としか呼ばれておらずわすれていたが。 )
「僕の名は、朔。」
「朔君か、いい名前だね。ねぇ、また会える?」琴のように優しく穏やかな声色に、思わず聴き入ってしまいながら、
「すぐにまた会えるさ、僕はこの辺り担当だから。」
と言い残し飛び立った。
彼女が小さく手を降っているのが見える。
次の日…
「おーい!」ふと下を見ると彼女が手を降っていた。つい振り返してしまいそうになると、彼女はいたずらっぽく笑った。
その次の日
浄霊中、ふと気配を感じると「見つけたっ!」と霊体である僕に後ろから抱きつこうとして、すり抜け、バランスを崩した。急いで実体化し転びそうになった彼女の体を支えた。
「君、いくつなの…」少々呆れつつぼやくと、「20歳だよ?」とそれがどうしたと言うように首を傾げた。
そのまた次の日も、
「美琴…」姿を見つけ、条件反射で名を呼ぶと。
「あっ!」振り返り、微笑みかけてきた。「そういえば、ねぇ、いつ食事に行こっか?」隣に並びながら
「ん?あぁ、そうだな…」「ふふっ」
そうして、浄霊の度に心のどこかで美琴を探すようになって、いつの間にか会うのが当たり前になっていった。
いつからか心惹かれていたことに気が付かないほどに…
あの時はまだ知らなかったのだ、この想いが招く結末を。
考えもしなかったのだ、確かに流れていく時を。
「好きだ」とそう伝えた時
彼女も同じ気持ちでいてくれたことが、ただ、嬉しかった。