寡夫死神の鎮魂記
輪廻転生、生きとし生けるもの達は必ずそこに行き着く…
僕は、死神…
未練を残し人間道に留まる死者の魂の気配を感じる
「彷徨える者達の未練を断ち切り、輪廻の輪へ導きます。貴女の未練をお話いただけませんか?」
女性の霊は悲しそうな笑みを浮かべて、ふわりと消えてしまう。
(転生し、再開を願うという事は、一度別れ〈死〉を受け入れると言う事…か。)
(僕達は、人ならざる者。あの世の者でも、この世の者でも無い。故に本来であれば、人間と深く関わってはならなかったのだ。だから、彼女は…)
消せぬ後悔と迷いを振り切る様に、彼は次の魂の元へと向かった。
ここからは、僕が担当してきた、魂達の別れと再開の話をしようと思う。
雪の降りしきる夜の事だった。どこからか猫の鳴き声が聞こえる。声のする方に行ってみると、家の中で1匹の三毛猫の霊が心配そうに、泣きじゃくる少女に寄り添っていた。
(これはいけないな、少女の悲しみの念が猫の魂をこの世に縛りつけている)「猫よ、こちらへおいで」
みーと鳴いて猫がこちらへかけよってきた。(僕は猫の言葉はわからないのだが…あれを呼び出すしかあるまい。)そして僕は1匹の猫又を召喚した。
(僕達の死神には、頼れる動物の妖がいて、その者達に頼る事でそれぞれの動物との意思疎通をはかっている)
猫又は三毛猫となにやら会話をしている。
「こいつの名前はミーで、雪の日にあの子に拾われ、20年一緒にいたらしいんすけど、こいつの寿命が来てから、雪の度にあの子が泣くそうで離れられないし、離れたくないって言ってます。」
(猫にしては長生きだが、動物霊の飼い主への執着は意外に強い。さて、どうするべきか…)
「また、あの娘の元に戻れる願をかけても嫌か?」
三毛猫、ミーは、耳をピンと立てて、目を輝かせている。
(僕の力は、普通の死神より少し特殊で、転生先を意見する事ができる。必ず叶う訳では無いが、魂の願いを聞き入れ、祈祷するのだ。)
「今から、あの娘の夢の中にそなたの魂を憑依させる。伝えたい事は、思う存分伝えておいで」
泣き疲れていつのまにか寝てしまった少女に、意識を集中させる。
花畑の中に、少女と三毛猫の姿が見える。
「ミーちゃん!どうして死んじゃったの!ずっと、一緒にいようって…」(頭では死を理解しているのだろうが、受け入れたく無い、もう離さないというように抱きしめようとする。しかし、思い虚しくすり抜けてしまう。)
「ごめんね」苦しそうにミーが言う、(猫が喋る。夢だと言う事にようやく気づいたのだろう、しかし、ただの夢では無い、愛猫本人の意思なのだ。)「謝らないでよ!ミー。大好き。」「私も大好きだよ。いつか必ず、君の元へ帰りたいな。だから、前を向いて生きて。でも、時々思い出してくれると、嬉しいな。今まで、ありがとう。」
青白い光に包まれ、ミーの姿が消えてゆく。「行かな…」行かないで、そんな言葉を飲み込み、彼女は一歩前へ踏み出す。「私の方こそ、ありがとう‼︎またいつか、絶対に会おうね。」触れられないがそっと、ミーの頭を撫でた。
「出会えて、よかっ…た…」ミーは、満面の笑みを浮かべて、風となった。「ずっと、忘れないから」少女は一人そう誓った。
その数年後、彼女の家の前には、1匹の子猫が姿を現したという。「おかえり」少女は、泣き笑いしながらそっと子猫を抱き上げた。そして、新たな時を重ねていくこととなる。
その次の晩、僕は自由を求める子供の魂に出会った。
病弱だった男の子は、いつも外を眺めて外の世界を夢見ては、なかなか見舞いに来てくれない家族や友人に、自分が本当に愛されているのか疑っていた。
そんな彼はなんと、自分の死後に幸せそうにしている人間に、復讐しようと考えていたのだった。
「自由を求めるのは良いが、復讐はいけないよ。二度と生まれ変われなくなってしまうかもしれないからね。」
「だって、皆んな来てくれなかったもん!!なんで、俺ばっかり病気に‼︎」
周りにあった物が浮き上がり、飛んでくる。それらを防ぎながら、彼に正しき走馬灯を蘇らせる。
「ご家族が来てくださらなかった、いや、来ることができなかったのは、君の治療費を稼ぐため。お友達は、動ける自分達の姿が、無意識に君を傷つけてしまわないか、彼らなりに気を使ったのでしょうな。それに、見てご覧、君のお葬式は皆が心からの涙を流しているだろう?病気は、誰かに与えられるものではないが、君は病気に耐えた。頑張れる強い子だったんだ。偉かったね。」僕が両手を広げると、男の子はハッとした表情を浮かべ、僕に飛びつき、「皆。忘れてて、恨んでごめん!」つかえが取れたかのように泣きはらし、落ち着いた頃ににへらと笑顔を作って、「兄ちゃん!俺!鳥になりたいんだ‼︎でも、家族や友達ともまた会いたいなぁ。」と葛藤している様子だ。
「僕が担当で運が良かったね。僕は少し特殊な死神で、仲間達からは祈祷神なんて呼ばれる事もあるんだ。
巡り合えるかの保証はないが、鳥になるのなら、己の翼で大空を自由に飛び回り、その羽で会いたい人を探せばよいだろう。記憶は消えるかもしれないが、前世で出会った者の前に行ったり、強く願えば、思い出せる事もある。だから、」僕が差し伸べたてを握り、男の子は、深く頷いた。
僕はスッと死神の鎌を振り下ろし、彼の魂を浄化した。
シャランという音が響き、光の粒となり消えてゆく。
その数週間後
彼の住んでいた家の前に巣を作った、珍しい鳥のニュースが世間を賑わせたという。それからというもの、その鳥の人気が凄まじくたちまち世間に広まり、多くの人から愛されるのであった。