長門國
・長門国
長門国の風俗毎物萬事差掛りたる事無之なり。
(長門国の風俗は万事何事においても安易ではない)
されば人の音聲も下音にして、上拍子なることなくして、人吾を頼むといえども、軽く請けること少なく、思慮をして後に是を答
(それゆえ人の声色も低く、思ったことをそのまま話すことも無く、人に頼まれても安請け合いすることなく、よく考えた後で答える。)
或亦人に事を談するにも十の物七つ八つにして、差切たる事なき風俗にして、別而武士の風儀善にも非ず悪にも非ず。
(あるいは人と話す時も、十の物を七つ八つに切り分けたりしない風俗で、特に武士の風儀としては善くも無ければ悪くも無い)
我は人を頼み、人は我を頼みにし、互いにもたれ合て、毎物遠慮過て大事に構るは人の過ちある時、人是を誹るを以て如斯の意地より出る形儀なり。
(自分は人を頼み人は自分を頼みにして互いに助け合う文化で、何事においても遠慮し過ぎて大ごとになってしまうのは人に過ちがある時であるとして、これを誹るのはそのような文化だからである)
さる程に諸芸を学ぶにも一花勤る様なれども、気に引放たる意地無之故、怠惰の気頻而発して、中途にして差捨る人百人に六七十人如斯なり。
(学問・武芸を学ぶ時も精力的に勤めているようだが、気質を引き放つ意地が無いから、怠け心が頻発し中途半端で辞めてしまう者が百人に六十~七十人は居る)
是皆勤る意地少なく、独を慎み、気弱きの故なり。
(これ等は全て努力を続ける気力が少なく、単独を慎み、気が弱いからである)
因玆武士の風俗善と難云。
(よって武士の風俗として善いとは言い難い)
若し此意地を発明して是を勤行する人あらば、国風の垢自ら去りて、名を呼ぶ程の人とも可成なり。
(もしもこの意地を新たに見つけ出し、続けて努力できる人が居れば、この国の気質の良くない部分を捨て去って、名声を呼び寄せる人となることも出来るだろう)
無左士は随分利根なりとも、用て節に当るべきと言わん哉。
(そのような事のない武士は、生来の賢さでも使って、物事に当たるべきと言おうかな)
・超意訳
長門の人はいつも真剣である、声色も低く本音をそのまま口にしない。
安請け合いはせず、人と話す時も端折ったりしないが、武士としては可も不可も無い。
お互いが助け合う文化だから、黙っていてもし大ごとになったら、要らぬ誹謗中傷を受けることになる。
何かを学ぶ時も見た目一所懸命だが、抜きん出ようとはせず、周りに合わせればよいとして怠けて中途半端で終わる人が多い。
武士としては善いとは言い難いね。
もしも抜きん出て、努力を続けられるような人が出てきたらきっと名人になれるよ。
それが出来ない輩は、元々の賢しさでも使ってな。
・私評
善くも悪くも無いとか言っておいて結局貶すという、相変わらずの人国記である。
・一言要約
善いとは言い難い




