尾張國
・尾張國
尾張国の風俗は進走の気強くして、善を見れば善に進み、悪に馴れるは悪に染み
(尾張の人は先走りがちで、善にも悪にも染まりやすい)
我が親しき者の善きこと少しあれば、大分に能いように云なし、悪きことあれども、異見を加え後来の過ち無きようにとある志なくて、ともに推隠して、人の非を揚げて、それか悪よりは軽きなと、談するのみにて
(家族親戚に良いことが少しでもあれば大袈裟に吹聴するが、悪いことがあれば正す事無く隠して、人を非難して置きながら、そのくらい悪事ではないと言いやる。)
邪智我慢第一強く、人を足下に見なし、人の善を消し、我が悪を隠すの類にて、万事根のとくる事なく、唯大風洪水の出るか如くにて、根にしまる意地少なし。
(悪知恵が働き自己中心的で人を下に見て、人の善意を無にして自分の悪事を隠す類で、何事にも根性が無く、大雨洪水で木の根が出てしまうように、性根に締まりが無い)
雖然形儀勇気のきびしき処あれば、伊賀伊勢志摩三ヶ国合わせたるより上なる処あり。
(とはいっても勇ましさ溢れるところがあるから、伊賀・伊勢・志摩の三国が束になっても敵わない)
古より秀たる者もあり。
(昔から優秀な者も居る)
下劣の心底猶以てかたくえなし、然る故に、善に進む事寡ふして悪に従う事強し、去る因にて謀反一揆の類発する事とも古今多し。
(品性下劣に固まり、善に進む事が少なく、悪に従うことが多い、よって謀反・一揆が昔から起こりやすい)
飾る気少なき故に、実儀の人も多して、悪を見て悪と知りて改る人も有り。
(性格の表面を取り繕うことが少ないから、誠実な人も多く、悪事と知って改める人も居る)
中の風俗の国なり。
(中くらいの国だね)
男の言葉好し
(男の言葉は好い)
これ国を治めるには処々に党多くして、地下人も党を結い、我慢をさる事を不尽して傾く事日を可経乎。
(この国は党(武装集団)が多くて、庶民も党を結成しているから、時間をかけて彼らの慢心を取り除かなければ治まらない)
其の党頭を懐け、正道を以て是を救え、邪儀を不誹して恩を加え、是に談するに礼を厚くして威を励まし、興これの節を考え、是を示すに節を以てして、而后に善を全くして合一すべし、無左して一応の厳光を以て是を握しくとも、また本に可帰。
(党の首領を懐かせて、正しい道を指示し、邪な考えを捨てさせ、恩を伝え、相談するときは礼儀正しく面目を立たせ、忠義が何たるかを身を以て示し、その後、全てが良くなってから掌握すること、そうしないと無理やり掌握してもすぐに元に戻ってしまう)
視其機気、察其末発而后に是をぬくは良将の法也。
(その機会を視て、察知し、行動しこれらをなすのが良い将の方法である。)
この国には別而口伝。
(この国のことは別に口伝として伝える事がある。)
・超意訳
尾張の人は良くも悪くも軽薄で浅慮、行動に重みが無い。
良いことは吹聴するくせに、悪いことは隠そうとするか人に擦り付ける、そしてそれを悪びれもしない。
悪知恵が働き、自己中心的で性根が腐っているからすぐに裏切り・裏切られる。
ただまぁ勇ましさはあるから三重県(伊賀・伊勢・志摩)よりはましかな。
気質の悪さを隠そうとしてないし、改心の見どころはあるよ。
中には優秀な人も居るしね。あと、男言葉がカッコイイ。
この国の人は何かにつけてグループを結成し、互いに我を張っているから、おだてて・脅して・宥めすかしてからじゃ無いと纏まらず、すぐにまた分裂してしまうから気を付けよう。
・私評
三河と比べて尾張の批評の鋭さよ
これで中くらいの国なんだから人国記おそるべし
この尾張に負ける伊賀・伊勢・志摩は如何ほどか
・一言要約
良くも悪くも中くらい