山城國
・山城国
山城の国の風俗は男女ともにその言葉自然と清濁分かり善くして、譬ば流水の滞うる事無うしてさきよきか如し。
(山城の人は男女ともに言葉が聞きとりやすく、例えるならば水が滞ることなく流れているかのようである)
世俗にその国風はその水を以て知ると云うこと誠乎。
(世間ではその国の性格はその国の水で知ることが出来るというが、本当の事である)
城州はその水潔うして、万色を染むるに、その色余国にはるばる違える事、従古至て今如斯。
(古今山城の国の水は清らかでどのような色でも染める事が出来、その出来栄えは他の国とは全く異なるものだ)
人の膚の滑なること亦是如斯。
(素肌が滑らかなのもそのためだろう)
女の姿、音聲の尋常なることならう国なし。
(女性の見姿、声色の素晴らしさは他の国には無い)
然れども武士の風俗不好事中々不及仔細也。
(しかし、武士としての立ち振る舞いがよろしくない事は言うまでもない)
その所以て考えるに、王城の地にして常に管弦の楽を翫うことを見馴れ、或いは商売の人等は遠国波嶋までも偽を以て実とする習いなれば、殊に王城の地如斯。
(なぜなのかを考えると、王城の地では音楽を見聞きし奏でることに馴れ、あるいは商人たちが遠くの国・海を越えて島に行っては嘘偽りをさも真実のように語るからで、このあたりは王城の地だからこそといえる)
されば常に実を忘れて虚を談するを以て世を渡るを本とす。
(だからいつも本音ではなく、建前で話しながら世の中を渡り歩くのが当たり前になる)
たまたま実儀の人ありといえども、その邪に推隠され、或はその実を隠して、その風儀勤るの類有と見えたり。
(たまに誠実な人が居ても邪推されたり、その誠実さを隠したりして、そんな風を装っている類のように見える。)
如斯の武士千人に一人なれとも、この人も後は如形の悪き形儀になる也。
(そのような武士ですら千人に一人しか居ないが、そんな人も後には悪い形儀になっていまう)
然れば総て此国の風俗実を用勤る人少なき故に、不知義理也。
(よってこの国の人は誠実さを持つ人が少ないので、義理を知らない)
義理を不知故に、勇臆の義を沙汰すれども、余所の事に心得る故也。
(義理を知らないから、勇気があるか臆病なのかを判断しようとしても、他所事のように取られてしまう)
この気質を不離也。
(この気質は離すことが出来ない)
自然に好き人あるは 口伝
(このことを風流や雅と親しむ人が居る 他は口伝による)
・超意訳
山城の人は言葉は流水のように滑らかで耳当たりが良い。
水を見ればその国が分かるというが、これは本当だね。
山城の水は良いよ、清らかで染物にはもってこいだ。
水が良いからか肌も滑らかで、女性の美しさは他国の比ではない。
ただ、武士としては明らかに駄目の部類。
何といっても王城の地、歌舞音曲に溢れ、商人が行きかい虚実が混じりあっているからそんな風になる。
たまに誠実な人が居ても周囲が周囲だから見えないし、そもそもそんな人は千人に一人も居ない。
もし居ても次第に周囲に染まってしまう。
そんなのだから、基本的に義理を知らないし、勇気があるのか無いのかはぐらかされる。
この気質はどうしようもないが、風流・雅だと好む人も居る。
・私評
今も昔も京都は変わらないということか。
最初に水に例えているのも、京都の捉えどころの無さを示唆しているように見える。
・一言要約
何といっても王城の地




