安房國
・安房國
安房国の風俗は人の気尖なること、譬ば刃の如く和すること寡うして、常の行作も片くえなり。
(安房の人は意気高く、例えば刃物のようで人に合わせることは少なく、日常の振舞いにも強情なところがある)
唯人は男女ともに死する事を手柄とのみ覚えて、仮初の付合にも互いに歯を抜きて一向の思案にて、大形万事思案工夫分別する事不成也。
(男女ともに死ぬ事を手柄であると思い込んでいて、一時的な付き合いであっても真っ向から対立し、大事でも何でも合わせようと工夫する事は無い)
その内にも気質の稟る事能く生付たる人もままあり。
(自らの内にある本性のままに生き続ける人も結構居る)
此国人は言葉祐く卑劣なれども、根源に正き所を生得たる上に道理を分別したる故に、一旦は尖に見ゆるといえども、武士は武の上に備える程の器となり、農工商ともに皆これに準じて可知。
(この国の人は言葉が卑しく、一見は激情家に見える。しかし、元々の性根が正しい上に道理を弁えており、この点は武士にとっては武力以上に重要な素養あり、これは他の職業であっても同じく重要である)
然ども如斯の人は多く無之して、只気質に繋がれ、漸く理非の小弁ふる人のみあり。
(しかし、そこまでの人は多くは無く、ただ気質の赴くままとなり、物事の善し悪しを弁える程度である)
さあるに付てかり染めに執行事も我か生得の気に任せて執行ふ故に、手強くして、堕落なること希なり。
(とりあえず何か行う時も生まれ持った気質に任せて行うから、手堅く、下手を打つ事は稀である)
学者と云う人も今不見はその風流に随って、自然と勤るものなり。
(この国に学者という人が居ないのは、居なくてもこの国であれば、自然と誰かが勤める事が出来るからである)
・超意訳
安房国の人は誰もが死ぬことこそ名誉だとして意気高く強情で、他人と歩調を合わせるなど考えもしない、まるで刃物の様な人達だ。
言葉こそ卑しいが性根が正しく出来ているので、武士でも何でも、上に付ける器を持っている。
上に付けなくても、元が物の道理を弁えているので、何をさせても手堅く纏める。
誰もが当たり前のように事を成す器用さがあるから専門家が居ない。
・私評
人に合わせるのが苦手なのに人の上に立つ器となり得るのか?
何だかよくわからんぞ、職人肌な所があるということなのか
・一言要約
器用だけど頑固な職人肌