強制バトル?
本当にいい加減にして欲しい。キラっキラの笑顔で現れたアルベルト様が本当に怖い。あれだ。クリア条件に必須の武器を取り損なったのに回避不能バトルが開始されたような感覚がする・・・久々。
アーケードより家でじっくりやるタイプだったけど、それには理由がある。アーケードは上手い人にとってはいい。でも、私は格ゲーなど戦闘系のゲーム好きではあったけれど決して上手くはない。上手くないゲーマーにとって、アーケードはお財布に優しくない。少なくとも自分より潤沢な資金がありそうなサラリーマンを横目に帰宅することはしばしば。まぁ、据え置きゲームが上手いわけでもないのだけど。
目の前のキラキラ笑顔のアンニュイ貴公子様は、剣すら持っていない。当たり前だ。この国には騎士制度がちゃんとあるし、周辺諸国も概ねそうだ。貴族の嗜みとして、男子は剣技や弓、馬術などは習うがこのようなお茶会に持ち込む者はいない。せいぜい、警備のための護衛が携帯している程度であろう。
私、ことローズもしかり。武術なんてこの方習ったことがない。うーん?まぁ、間宮百合のときに遡れるばなんとなく武道の授業があった気がする。といっても、ゲームのような派手な技なんて習っていない。護身術の基礎の基礎とでもいうべきか・・・?どう考えても、この状況を打破できそうにはなかった。
「アリシアから聞いたと思うけれど、妹もそろそろ兄離れしたいそうなんだ。どうかな、アリシアを助けると思って、夜会のパートナーになってもらえないだろうか。」
はい来た。断れない!
そもそも家格とかいうものが釣り合っていない!この人とバトルするにしたって私に切り札はなにもない。公爵家の長男に夜会のパートナーに誘われて断った時点でまずい。私がライバルなのか否か問題以前に、社交界に変な噂が出回るのは避けたい。
「わ、私でよろしければ・・・?」
「ローズも来るのは嬉しいわ!どんなドレスにしようかしら。」
「お・・ローズ様!ありがとうございます。」
ミザリーは夜会で着るドレスに思いを馳せているようだし、アリシア様はなぜか頬を染めてよろこんでいる。今のところ、私がアルベルト様のパートナーになったことで変な雰囲気はないけれど・・・。だめだわ。家に帰ったら、一旦色々と整理した方がいい気がする・・・。
「さあローズ、夜会の予行演習では無いけれど薔薇園を案内するよ。どうかな?」
「まぁ・・・で、でしたらミザリーも?!」
「失礼!アルベルト様、アリシア様。ローズ!私、少々お話して来たい方がおりますの。でわ!」
うっそでしょ?ここで、ミザリー離脱するってどういうこと!?いえいえ、確かに貴方が優雅にかつ素早く話しかけた男性はミザリーの好みだなぁ・・・って感じの青年だけど!今!?
いえ。ミザリーがアルベルト様に嫉妬してほしくて動いたということ・・・?うーん?ダメ。全くわからないわ。混乱状態ではこの強制バトルに勝ち目は無い。わかってたけど・・・ただ自分のゲージが減っていくのを見るのって辛いのよね。
「それでは、お客様のお相手に戻りますわ!ローズ様は楽しんできてくださいな!」
「ええ・・・お気遣いありがとうございます、アリシア様。」
ああ・・・結局アリシア様の立ち位置も不明だわ。なんで笑顔で去っていくの?アリシア様がモブってことはスペック的にどう考えてもなさそうなんだけど・・・?
「さぁローズ。いきましょうか。」
強制バトルは完全に負け。
そこには、美しい貴公子がそれはそれは愉快そうな笑顔を浮かべながら、完璧な仕草で手を差し出していた。