13.やって来て、三週間
こちらの世界へ召喚されてから三週間が経過したある日、私はジルカスと共に、家から少し離れたところにある丘へ向かった。
その丘は昔から紅葉が丘と呼ばれているらしい。
ジルカスは昔数回行ったことがある程度だと言っていた。
「す、凄いっ……!」
紅に染まる無数の葉をつけた木々が視界に入る、緩やかながらかなり長い坂道を登り終えると、開けた場所に出た。そこからは、遥か下にある村が見える。風がやや強く、髪がかなり乱れそうになるが、そんなことはどうでも良くなるくらい壮大な光景だ。
「今日はここで野草を探すぞ!」
「……せっかくの絶景が台無しです」
「んな!? 酷くないか!?」
「本当のことしか言っていません。もう少し、この絶景を楽しんでいたかったです」
私はいつも、つい、冷ややかな言葉を発してしまったりする。でも、そんな発言ができるのも、近くにいる相手がジルカスだからだ。彼は一見馬鹿のようだが、なんだかんだで包容力がある。だから、こちらも言いたいことをはっきり言えるのだ。
それにしても、美しいところだ。
ここへ来るまで、私は、長時間赤に囲まれていた。その派手な色みに目が慣れているからか、見下ろす村の色は若干地味にも思える。しかし、淡い水彩画のような色の村は、温かみがあって嫌いではない。
「すみません。堪能できたので、そろそろ用事を始めましょうか」
「ははは! そうだな!」
こんな綺麗な風景を眺められる場所に来ても、私たちが行うのは野草の採取。
のんびりピクニックでもできれば良かったのだが。
◆
カゴを一旦地面に置いて、野草を探し始めることしばらく。私は見たことのない草を発見した。柳色の葉はハートの形、茎は指で簡単に潰せそうな柔らかさ、そして愛らしい黄色の花が咲いている。少しずつ学んでいっているとはいえ、私はまだ、こちらの植物についてそれほど詳しくない。だから、この世界の植物に詳しいジルカスに質問してみようと思い、一本摘んだその草を彼のところへ持っていってみた。
「ジルカスさん、これは何という植物ですか?」
「お! それは珍しいぞ!」
「……え、そうなんですか?」
ひっそりと咲いている黄色の小さな花は、無垢な少女のようで可憐だ。しかし、この植物がレアものなのかどうかは私には判別できなかった。けれど、ジルカスが珍しいと言うのなら、本当に珍しいものなのだろう。
「それは『カレンバナ』という名の植物だな! ははは! 黄色い花が可愛いと人気だ!」
「確かに可愛いです」
「なかなか生えていないが、それは結構需要がある! 摘んでおくといい!」
「分かりました」
その後ジルカスから聞いた話によれば、カレンバナという名の由来は「可憐な花が咲く」というものらしい。個人的に、とても納得できた。
そして、カレンバナには、部位ごとに違った効果があるそうだ。
ハート型の葉は、食べ物を巻いて防腐剤代わりに。柔らかい茎は、細かく刻んで薬味に。そして、黄色い花は料理に添える飾りに。
それぞれ独自の使い方をされているとか。
私は密かに「様々な植物が色々なところで使われているのだな」と思ったりした。