12.ダエヌの足湯
まず用意するのは、直径一メートルほどの丸い木の桶。そこに温かいお湯を注ぐ。それから、ダエヌの食べられない皮部分を投入するのだが、そのまま入れるのではない。投入する前の準備があるのだ。剥いた時に出た皮を、まずは細かく刻む。それから、目の粗い布製の巾着袋へ入れる。そして、しっかりと口を閉じてから、巾着袋ごと桶の中へ。それから皮の成分が滲み出してくるまで数十秒ほど待てば、ダエヌ足湯の準備は完了。後は足を浸けるだけ。
「ははは! どうだ!?」
「結構気持ちいいです」
つま先の毛細血管すら広がりそうな熱に、全身が緩む。また、湯気と共に立ち昇ってくる爽やかな香りも、心を落ち着かせてくれる。
「だろう!? そうだろう!?」
「足湯を紹介して下さって、ありがとうございます」
「ははは! 心ゆくまで感謝するといい!」
ジルカスの返答はいちいち違和感のあるものだ。
でも今は、そんな小さなことは気にならない。
体を温めると心まで穏やかになる、という話を聞いたことがあるが、それもまんざら間違いではないのかもしれない。
胸の奥にはいくつものしこりがある。元いた世界への未練もまったくないわけではない。けれども、ジルカスと共にこちらの世界の暮らしを体験していくうちに、ここでの生活も悪くはないと思えるようになってきた。これは、徐々に馴染んできている、ということなのだろうか。
決して贅沢な暮らしではない。
むしろ、質素なくらい。
電子機器はないし、便利なものは少ないし、いろんな意味で非効率的な生活スタイル。でもそれは、人間の本質を思い出させてくれる。元いた世界に比べて不便さがあることは否めないが、こちらの世界の暮らしが批判するべき悪いものであるとは、私は思わない。
◆
ジルカスとの暮らしの中で、私は、彼に反発することがよくあった。
生まれ育った環境が違う二人だから、そもそも持っている常識が異なる。それゆえ、すれ違ってしまうことも多い。小さなことで喧嘩になることも多々あった。
けれど、なんだかんだで、私たちは共に暮らしていく。
私は行き場がないし、ジルカスは私を妻にしたいようだし、ある意味利害の一致。だから二人が離れることはなかった。
◆
「ははは! 今日でもう二週間か!」
なんだかんだで、こちらの世界に来てから二週間が過ぎた。
最初は戸惑いしかなかったが、これだけ時間が経つと、さすがにもうこちらの世界にも慣れてきている。
「早いものですね」
本当に、時が経つのは早いものだ。
「ははは! 貴様は相変わらず冷淡だな!」
ジルカスはいつも通り大きな声を出している。
だが、生意気な私に対して怒りを抱いているということはないようだ。
「冷淡、だなんて、失礼ですよ」
「それは悪い! すまん!」
「……いえ。私にも問題がありました」