68. これがホントの蟻地獄
猫と小鳥、奇しくも捕食者と被食者が共存する奇跡の空間が出来上がった。
いや獣人だから自然の摂理は当てはまらないか。
テコでもここから動かねぇと決意を固めたセレーナと便乗したルファウス。
ペット云々は冗談だとしても、思わぬかたちで同居人が増えてよりいっそう賑やかになった。
あとから知ったことだが、セレーナとレルムは冒険者ギルドで度々顔を合わせていたらしい。ちょいちょい遊んでたとのことだが、結果はセレーナの全勝。レルムは「これでいつでも挑めるね!」とリベンジマッチに燃えていた。
家を壊すなよと注意しておいたが、果たして聞こえていたかどうか……
レインは物凄く輝いた笑顔で「ペット?宝探しが得意っていうあのペットだよね?じゃあミスリルのひとつでも取ってきてよ」と無茶振りしてきた。
ここ掘れワンワンは犬だぞ。そんでもってミスリルは鉱山から採掘するものだ。近場に鉱山はないし、そもそもツルハシはうちにない。
レインの暴挙にルファウスは「(監視対象の)フィードから離れられないから無理だな。そもそも私の飼い主はフィードだ。この耳を見て犬と間違えるような間抜けに指図される謂れはない」と冷たい微笑を浮かべて応戦。両者の間に火花が散った。
喧嘩するほど仲がいいっていうし、こっちは放置でいいか。
セルザとノヴァとは特に問題なく顔合わせし、なんやかんやで2人とも我が家に馴染んでいった。
◇ ◇ ◇
引っ越し作業がだいぶ落ち着き、ゆっくり休息をとっていたとき。
「――――――っ!!」
ブルーから伝わる強烈な危険信号にバッ!と勢いよく飛び起きた。
その瞬間、ドラゴン温卓の脚にガツンッ!と頭を打つ。
「大丈夫か?凄い音がしたぞ」
「ふあぁ~……何かにゃ?」
痛みで踞る俺にドラゴン温卓で温まっていたルファウスと中で気持ちよく寝ていたセレーナが反応するが、今はそれどころじゃない。
ぬくぬくしたい衝動を無理やり押さえつけてドラゴン温卓から飛び出す。
「ブルーが危険を察知した。それもかなりヤバイやつ」
「獣魔契約の効果か。ヤバイとは?」
「分からない。とにかく危険だとしか……」
「あ、こっちに向かってきてるにゃ!」
窓枠に飛び乗り外を見てみると凄まじい勢いで跳ねてこっちに向かってくるブルーを発見。その後ろを困惑顔のレルム達が走っている。
これはただ事じゃない。
慌てて寒空の下に出て皆を迎える。
「どうした、お前ら。何があった?」
「わ、わかんない。おっきい穴見つけた途端にいきなりブルーが恐がって逃げてっちゃって……」
「遠くから見ただけだからそんな危険なものとも思えなかったんだけどなぁ」
「ブルーが恐がる、大きな穴……」
危険を訴えながら恐怖心で俺にべったりくっついて離れないブルーを好きにさせつつ思案する。
魔物のブルーが恐がるならブルーより格上の魔物がその穴の中に潜んでいるという証拠。地中に潜む魔物でパッと浮かぶのはアースドラゴンとアントだ。しかしアースドラゴンは地中に潜った痕跡は残さない。となると……
「アントの巣穴だな」
「ああ。しかし妙だな……アントの巣が近くにあるなら魔素の動きで私でも察知できるのだが……」
「俺も同感だ。魔素は分からないが、探知魔法に引っ掛からなかった」
地上だけでなく地中にも探知魔法を広げてみたが反応なし。買った土地全体に探知魔法を使ったからレルム達が遊んでたところも範囲に入ってるはず。これはおかしい。
「おそらく隠蔽魔法が使われている。それもかなり高度なものを」
ルファウスの言うとおり、探知魔法を欺けるほどの強力な隠蔽魔法が施されている可能性が高い。
問題は術者がどこにいるかだが、それは案外すぐに分かった。
しかしこの魔力の動きは……
「魔道具だ。レルム達がいたとこのすぐ近くに魔道具が埋め込まれている。それもひとつじゃないな」
ここまでくれば嫌でも分かる。アントの巣は人為的につくられたものだ。
誰がこんな馬鹿げたことを仕組んだのか……いや、今はそれどころじゃないな。
「犯人の追求は後回しにして、今はアントの巣をどうにかしよう」
「アタシも行くにゃ~」
「微力ながら私も手伝おう」
「僕らもー!」
同居人2人が賛同してくれて、レルム達も同様。ブルーだけは危険なので留守番。
皆で警戒しながら現場に向かうが、不自然に魔力が膨らむのを感じて全員に待ったをかける。
そう間を置かずに小規模な爆発が起こり、白煙が辺りを包み込んだ。
「まずいな……アントが怒り狂ってるぞ」
俺達に被害はなかったが、爆発をもろに食らった見張りのアントが何体か穴から出て来てこちらを睨んでいる。そして仲間を呼びにいった個体が見えた。
「こんな近くに魔物の巣があるなんて心が休まらないよ。早いとこ潰しちゃおう、兄さん」
レインの言うとおり、家のすぐ近くにこんな危険物があるのは見過ごせない。とっとと終わらせよう。
「皆、気を引き締めろよ。アントは単体だと大したことないが、集団で襲ってくるからな。油断しないように」
真剣な顔で頷く皆。
やがてアントの巣穴から団体さんがわらわらと出てきた。
1匹たりとも逃がさぬよう全員バラけて手当たり次第に火魔法をぶっ放す。
アントは火魔法に弱い。だからとにかく火魔法で殲滅する。
いつもなら素材素材と口うるさい俺も容赦なく火魔法を浴びせていた。だって数が多過ぎて素材どころじゃないし。
ファイヤーバードの群れが可愛く思えるくらい凄まじい数だからな。
魔法が使えないセレーナは拳で各個撃破。弟妹達の放つ魔法の合間を縫って討ち洩らしたやつを討伐している。
猫独特のしなやかな動きでアントの攻撃と弟妹達の魔法を危なげなく避けながら着実にアントを殲滅していくその姿はなんとも頼もしい。
「ファイヤーアロー、ファイヤーボール、ファイヤーアロー……キリがないな」
ルファウスは俺達と同じく魔法で殲滅。俺達との違いは体内に宿る魔力ではなく空気中の魔素を使っていることと、魔法名を唱えて発動してることくらいか。
しかしどうやって魔法を使ってるんだろう?確かルファウスは魔素を直接魔法に変換できないと言っていたはずだが……
そこまで考えたところでルファウスの右手に赤く光る指輪が見えた。魔法を放つとより強く輝いている。
魔素を利用するタイプの攻撃型魔道具か。そういえば自分で魔素を利用する様々な魔道具を開発してるって言ってたな。
魔法を放つ手は止めずにそんなふうに考えていたら、突然ルファウスがアントの群れに急接近した。
アントの攻撃が当たりそうになるも、ウサギの脚力を駆使して空高くジャンプして回避。そのまま手を突き出して、
「インフェルノ」
地獄の業火で周辺のアントを飲み込んだ。
青白い炎によって無差別に燃やし尽くされるアントの大群。弟妹達、特にレルムが興奮した。
「ウサギの兄ちゃんすごい!にいにもできる!?」
「勿論だとも」
ルファウスにできて俺にはできないなんて思われたくなくてつい口走ってしまう。いやしかし、実際できるよな。
ルファウスの真似をしてみたらあっさり成功した。同じくらいの規模にしたが、かなり魔力を食うなこれ。魔素を使うからルファウスはケロッとしてるが、俺は何発も撃てそうにない。ちょっと悔しい。
兄ちゃんすごい!と褒めちぎってくれるレルム達に微笑みながら次々と殲滅していく俺。
魔法の餌食にならぬよう上手く避けつつ着地し、アント集団から素早く後退したルファウスが「私の最上級火魔法を、そうも簡単に真似されるとさすがにちょっとショックなんだが……」と微妙な顔をしてることには気付かなかった。
その後も順調にアントの数を減らしていく。
倒しても倒しても終わる気配が全くないのでちゃんと殲滅できてるのか少し不安になるが、異常な数の屍がどんどん積み上がっていくので討伐は順調だと思っていいだろう。
根気強く狩り続け、ようやく穴から出て来るアントの数が減ってきた。
それはすなわちこの巣の主が出てくる前触れ。
「お、やっとか」
黒いアント集団の中心、アント達に守られながら巣穴からのそりと顔を覗かせるひときわ巨大な白いアリ。
アント達の親玉、クイーンアントのお出ましだ。




