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56. とんでもねぇのが来た

 何が起こった?


 辛うじて頭に浮かんだのはそんな疑問だった。


 今俺は目の前にいるヒキガエル男を消し飛ばしてやろうと魔力を練っていたはずだ。それが突然消えた。

 魔力全てが瞬時にパッと消えたんじゃない。体外に放出したはずの魔力が霧散したと言った方が正しいか。

 明らかに自然現象ではない。第三者の介入があったのは間違いないだろう。


 ……興味深い。

 魔力を霧散させる魔法なんて前世でも存在しなかった。

 どんな術式で発動するのか、誰がそんな未知の魔法を使ったのか。

 魔法ならば魔力の痕跡が必ずある。しかし周辺を探ってみるも何の痕跡も見当たらない。

 魔力の痕跡がないならば魔道具を使ったのか?しかしそれでも発動時に魔力が必要だ。どうしても痕跡が残る。


 魔法でも魔道具でもない?ならどうやって魔力を霧散した?

 そればかりが気になってしまい、ヒキガエル男への怒りも忘れて考え込む。


「なんだこの騒ぎは……って、またお前か!」


 ギルマスが怪訝そうに顔を出した。

 そしてパッと見ただけで軽く状況を理解したのか騒ぎの中心にいる俺のもとへすっ飛んで来た。


「おいフィード!何があったんだ」


 魔力を用いて魔力を打ち消す……いったいどう術式を作ればいいのかさっぱり分からない。

 魔力を打ち消すのではなく魔力の質を変異させる魔法なら知ってるのだが……


「おい。おーい!フィード!聞いてるか!?」


 駄目だ。どう計算しても術式が成り立たない。

 いや、魔力を打ち消すだけならできなくはないのだが、魔力の痕跡を一切残さず打ち消すのは不可能だ。

 ならばあれは魔法ではなく魔道具?しかしこの世界にそれほど高度な魔道具が存在していたのか?


 疑問が次から次へと沸いてくる。

 こうなったらいっそ魔力を霧散した張本人をとっ捕まえて色々聞き出すしか……


「何考え事に没頭してんだこの馬鹿!」


 ギリギリギリギリ。頭を鷲掴みされる。痛い。


 しゃがんで俺の頭をギリギリするギルマスにちょっと暴走してしまったことを自覚し、反省。


 ギルマスの方に顔を向ければ自ずと見渡せる周囲。

 一連のやりとりをばっちり目撃していた冒険者達は唖然とした顔で俺を見ていたが、やがてそれは畏怖へと変わる。

 最弱と定評のノンバード族、しかもヒヨコが容赦なくヒキガエル男を甚振(いたぶ)ったのを目の当たりにしたからだろう。


「今度は何をやらかした?死人は出してないだろうな?さすがに庇いきれんぞ」


「ひとを犯罪者みたいに言わないで下さいよ。こんなか弱くて人畜無害なヒヨコなのに」


「か弱くて人畜無害なヒヨコはギルドを半壊させたり街中で破壊神とデスバトルを繰り広げたりしない。それよりなんでこいつ伸びてるんだ?」


 ギルマスが指し示した方を見れば、白目を剥いて失神してるヒキガエル男が。膨大な魔力に充てられたか。

 可愛い妹への愚行を思い出すと怒りが再燃しそうになるが、ここはぐっと堪えよう。ギルマスもいるし。


 ギルマスに事のあらましを説明すると大きなため息をひとつ。


「この野郎……うちのもんがすまない。妹は無事か?」


「はい。あそこの冒険者が助けてくれたので」


 セルザを助けてくれた冒険者のもとに行き礼を伝える。俺が目の前まで行くと腰が引けて顔をひきつらせつつも気にするなと言ってくれた。優しい。

 どうやら俺がステータスカード作成したときも含めて俺のいる場所に偶然居合わせることがちらほらあり、俺の実力はしっかり記憶に刻まれていたらしく、それで咄嗟に蹴られたセルザを受け止めたらしい。


 聞けば、ヒキガエル男の蛮行を止めようともしてくれてたとのこと。うんうん。ノンバード族を助けてくれるひとが現れ始めたのはいいことだ。


「うぇぇぇんフィード兄ぃぃ!!痛いよぉーっ」


「よしよし、今治してやるからな」


 ずっと黙っていたセルザだが、今になってようやく蹴られた痛みが襲ってきたらしい。

 俺より一回り大きいセルザの頭を少し背伸びしてよしよしと撫でながら出血した箇所を治癒の魔法で治す。流した血は戻せないのでそのまま。こびりつくからあとで水洗いしないと。


「もう痛くないだろ?ほら、この人に言うことは?」


「ぐすっ……ありがとう」


 ちゃんとお礼を言えるうちの子天使。

 ヒキガエル男への怒りは頭から飛んでいった。


「……お前、治癒魔法まで使えたのか」


 どうなってんだこの規格外生命体は!?とでも言いたげな顔で俺を見るギルマス。周囲もさっきとは違う意味で硬直しているがスルーしてレルム達と共にギルドをあとにする。


 ヒキガエル男の処遇はギルドに任せた。

 冒険者同士の喧嘩ならギルドは介入しない。しかし俺もレルム達もステータスカードを作っただけで冒険者登録はしておらず、今回の場合は冒険者が一般人に怪我をさせたということになる。当然処罰対象だ。


 冒険者が一般人に手を上げた場合、冒険者活動を禁止される。

 怪我だけで済めば数ヶ月から数年活動できなくなるだけだが、もし命を奪った場合は冒険者資格を失う。


 俺がステータスカード作りに行ったときにも冒険者に絡まれたが、あのときは自分が怪我するどころか逆に返り討ちにしてやったから処罰も何もなかったが、今回は確実にアウトだ。

 怪我はそこまで酷くなかったのでそれほど長期間冒険者活動ができなくなる訳じゃなさそうだが、お灸を据えるには十分だろう。


 ギルドを出てからしばらく辺りを探ってみたが俺の魔力を霧散した犯人らしき人物は残念ながら見つからなかった。

 仮に見つけてもレルム達を置いていく訳にいかないから追えないけど。


 念のためグレイルさん家に着くまでずっと神経を研ぎ澄ませていたが、結局何の手がかりもなく帰還。


「お帰りなさい、フィードさん。ご兄弟を早めに休ませてあげなさいとグレイル様が……」


「分かりました」


 玄関先で待ち構えていたアンリーシュから告げられたグレイルさんの伝言に頷く。


 今日だけで色々あったせいで頭から抜け落ちていたが、この子達は初の長旅でお疲れモードなのだ。元気に見えても疲労は蓄積されているはず。やるべきことは済ませたのだから、あとはゆっくり疲れを取らせよう。


 予想通り風呂と夕飯を済ませたら速攻夢の中だった。

 大分疲れていたようでいつもは目をギラギラさせる食事の時間にも欠伸をしながら目を擦っていたほどだ。


 可愛い天使達の寝顔を見届けてから自分の部屋に戻る。


「随分と若いな」


「!?」


 突如聞こえてきた聞き慣れない声に警戒心を露にする。


 灯りをつけていない部屋を月明かりが照らす。

 そこにいたのは長い黒髪を後ろで結び、どこか冷徹とも思える表情でこちらを射抜く黒ウサギの少年だった。

 結構な美人で、冷たい美貌と月明かりが妙にマッチしてる。


 全く気配がなかったぞ、今。いつの間にこの部屋に侵入したんだ?


「前世で若くして死んだのか、それとも記憶を引き継いだ回数が少ないのか……まぁいい。君が噂の賢者だろう?」


「……だったら何だ」


 警戒心はそのままにぶっきらぼうに答える。


 俺が賢者であることを知っている人物。しかしこいつに会った記憶はない。

 見たところ動きは洗練されていて貴族を彷彿とさせる。しかし俺の知り合いに黒ウサギの獣人はいない。


 貴族らしい黒ウサギ少年は俺の素っ気ない返答に気分を害するでもなく、淡々とした口調でなんてことないように衝撃の事実を口にした。


「私はエルヴィン王国第5王子のルファウス・フォン・エルヴィンという。君の監視を命じられた」


 王族かよ!


 とんでもない大物が来たぞ……



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