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109. 引っ越し作業が楽だわぁ

 さっそく母の元へ向かう。

 騒がれたくないルファウスとレストは魔道具で姿を隠しているため、傍目には俺がひとりで歩いてるように見える。


 道中何度か身内に遭遇して突撃されたりしつつ我が家に到着。


「ただいまー」


「おかえりフィード。そろそろ来る頃だと思ってたわ」


 母が笑顔で出迎えてくれた。


 増設と修繕を幾度も繰り返したと一目で分かる豪邸に入る。ルファウスとレストも姿を表して席につく。突如表れた王族と護衛に一瞬固まる母だったが、すぐに何事もなかったかのように全員にお茶を出してくれた。

 ……素朴な疑問だが、あの羽根でどうやってティーカップを持っているんだろう。羽根が中に入ったりしないのだろうか。


 内心で鳥類獣人の神秘に迫りつつお茶を飲む。ルファウスとレストは床に座布団敷いて座っている。鳥類獣人用の家具で統一してるので彼らには使えないのだ。

 客人用に人間サイズの家具も必要だな、と内心ぼやきながら土地改造計画を打ち明ける。母は驚くでもなく、むしろ「人数考えたらそうなるわよねぇ」と笑った。


「とりあえず、新居ができるまで……いや、家族の中に大工仕事ができそうなやつはいるか?」


 新居ができるまではここにいてもらうと言いかけたが、すぐに言い直す。

 俺ひとりで頑張るんじゃなく、皆で協力しよう。家族が住む新しい家なんだから。


「ええ、魔力制御が上手で建築に向いてる子が何十人かいるわよ」


「その子達にも手伝ってもらおう。家の内部構造や外観は母と女子グループに一任したい。俺だとどうも武骨なものになってしまうからな。レルムをはじめとした男子組には結界に必要な魔石狩りを頼もうと思う。結界を張るのは父に任せるとして、問題は当面泊まる場所をどうするかだな……」


 王都の宿に泊まってもらう?

 いや、全員泊まれるくらいの大きな宿屋なんてないだろう。複数に分けるとしても兵器並みの戦闘力を持つ数百のヒヨコがあちこちの宿屋に出入りするのはあちらさんにとっちゃ悪夢だろうし。

 じゃあ王宮に?

 いやいや駄目だろう。世にも凶悪なヒヨコ爆弾を何百と抱えたら城が吹っ飛ぶぞ。物理的に。

 さんざん世話になったのに、そんな恩を仇で返すような真似はしたくない。

 毎日ここに送り迎えするか?

 いや駄目だ。ルファウスが周辺の魔素が濃くなりつつあると言ってたから、魔物の生態系が狂う前に引っ越さないと。


 うーんと悩む俺に思案顔の母。

 家庭の問題だからかルファウスとレストは口を挟まない。


「たっだいまー!」


 部屋の扉が開け放たれ、底抜けに明るい声がこの悩ましげな空気を醸し出す空間をぶった斬る。

 見事なタイミングで割って入ってくれたのは我が家の大黒柱だった。


「いやぁ今日も元気に働いたなぁ!お、フィードおかえり!殿下もご無沙汰してます……あ、こういう畏まった口調嫌なんだっけ?まぁいいや。揃いも揃ってどうしたんだ?」


 王族相手にも物怖じしない父に少々びっくりする。

 以前の父ならば権力者を前にすると途端に萎縮していたのに……あのヘタレ親父は死んでしまったのか……?

 光り輝く笑顔を振り撒く父を見やる。さぁ俺の胸に飛び込んでこい!とばかりに両翼を広げる父。

 期待に応えるべく跳躍し、顔面キックをお見舞いした。


「うわ~ん、息子が俺をサンドバッグにするぅ~」


 よかった。この陽気な泣き虫ヘタレ野郎、いつもの父だ。権力者に萎縮しないというよりも、ちょっと順応力が高すぎるだけなんだな。

 うんうん、やっぱり父はこうでなくちゃ。


「いつものことじゃないの。そんなことよりも、引っ越しについてちょっと問題があってねぇ」


 母の隣に腰を下ろした父に改めて母が説明。

 すると父は不思議そうに首を傾げ、予想だにしていなかったことを言ってのけた。


「え?家ごと引っ越せば良くない?」


 なんでそんな簡単なことも思い付かないんだとばかりに告げられた言葉にフリーズする俺達。

 だが意外にも真っ先に正気に戻ったのは母だった。


「言われてみればそうねぇ。風と結界を応用して地面から切り離して収納魔法に入れちゃえばいいんだわ」


「地下室もあるぞ?食糧庫だから捨てていく訳にもいかんだろ」


「あらそうね。じゃあ土を掘り起こして地下室も一緒に持ってっちゃいましょう」


 トントン拍子に進んでいく話に、俺は身震いした。そんな……そんな……


「その手があったか……!」


 何故そんな簡単なことに思い至らなかったんだ。

 泊まれる宿がなければ、家ごと引っ越せばいいだけじゃないか……!


「元は貴族の豪邸を掘り起こして持っていく、か……」


「なんという字面の暴力……つーか領主の許可必要じゃね?一応元々は前領主の屋敷だった訳だし」


「問題なかろう。ここの領主は賢者を崇拝してるからな。フィード関連では引くほど寛容だぞ」


 最高の打開策を閃いた父に感動している傍らでぼそぼそ呟いている黒ウサギと金髪犬のことなど露知らず、父と何事かを話していた母が唐突に魔力を練り上げた。


「コケコッコー!コケコッコー!メルティアス放送でーす。引っ越しの準備に取り掛かるのでメルティアス家は我が家に集合して下さーい。繰り返します、引っ越しの準備に取り掛かるのでメルティアス家は我が家に集合して下さーい」


 目の前の母から、それとアネスタの街の方から母の声が聞こえてきた。風を操って拡声したんだなと理解したが、ちょっとビビった。いきなりコケコッコーとか言い出すからマジもんの鶏になっちゃったのかと本気で焦ったぞ……


 どうやら増えすぎた子供の影響でメルティアス家流の呼び出し方法が知らぬうちに確立されていたようだ。確かに、一人ひとり探しに行くのは手間がかかるもんな。


 全員外に出てしばらく待つと、ヒヨコが集まり段々騒がしくなってきた。そう時間もかからずに集合する姿はどこか手慣れている。しかし、なんというか……


「圧巻だな……」


 ひしめくヒヨコの群れは紛うことなき俺の身内。片手で数える程度しか全員と接していないが、それでも大切な家族だ。

 守るものが増えていくなぁとしみじみ思う。この幸せを壊されないように頑張らないとな。


 冒険者業で街の外に出ている者以外は集まり、その子達は母が連れ戻しに行ったので、さっそく作業に取り掛かった。


 土魔法が得意な者達が屋敷の周辺を掘って掘って掘りまくり、地下室よりも下まで掘り起こしたあと、結界魔法が得意な父と風魔法が得意な者達が屋敷と地面を切り離すためにバンバン魔法を放つ。

 魔力の使いすぎで魔素が増えてきたからか、そこにルファウスも加わった。緑色の指輪を装着して風魔法を行使する。


 普通だと地下の水道管に流れる水がぶしゃーっとなりそうなもんだが、元栓は締めてあるし、事前に街付近の水道管を塞き止めておいたので問題なし。あとでアネスタ辺境伯に報告しておけば、こちらに長く続く配管も撤去されるだろう。


 この土地は売却する予定。だってもう使わない土地だし。

 購入してからまだそんなに経っていないのに……事情が事情なだけに仕方ないんだが。

 街からやや遠いこの土地を購入するような物好きはそうそういないだろう。

 都会の街なら他領の貴族の別荘になったりもするが、ここは田舎街。旨味のない土地に別荘を持つ貴族なんぞいない。


 屋敷の中の配管はどうしよう?

 新天地に水路を引くのは色んな要因があって無理なので魔道具でなんとかしないといけないのだが、配管が邪魔だ。

 うん、撤去するしかないな。配管を通していた場所は穴を塞いだりすればいいか。

 どの道この屋敷は新たな家が出来次第取り壊す予定だし、大雑把でいっか。


 20分もすれば作業は終わり、屋敷は俺の収納魔法の中に。収納魔法を習得している子も何十人かいるが、容量オーバーで入らないと嘆いていた。

 収納魔法の容量は魔力量によって左右されるから仕方ない。


 母が戻ってきたら改めて点呼を取るように言い、アネスタの街へと移動する。


 ルファウスとレストが魔道具で隠れるのを気配で感じながらレアポーク領方面の門へ行くと、そこには以前と変わらず職務に励む友人がいた。


「久しぶりだな、ウィル」


「……!お久しぶりです、フィード。お元気そうで安心しました」


「そっちもな。時間が合えば今度飯でも食べに行こう」


「ええ、是非」


 友人が会いに来たのがよほど嬉しかったのか、耳と尻尾が全力で喜びを表している。可愛らしい友人にほっこりした。これで表情に変化があれば尚良かったのに。


 俺が引っ越しのために来ていることは先程の母の魔法で察していたらしく、少し寂しそうな顔。転移魔法でいつでも来れると言っても、唯一の友人が遠く離れた場所にいるのは変わらないから複雑なのだとか。そう言われたら黙るしかない。


 レアポーク領からは滅多に人の出入りがないので、情報収集も兼ねて色々と話し込んだ。

 グレイルさんが周辺の街に寄り道しながら王都へ向かったことや冒険者・商業ギルドマスターが毎年春に行われる定例会議と数年に一度ある魔道具の点検のためにこちらも王都へ向かったことなど、沢山話した。

 レアポーク領方面から人が来たのでお開きとなり、家族の元へ戻ると、両親をはじめとするメルティアス一家が勢揃いしていた。


「よし、全員揃ったな。じゃあ行くぞー」


 一声掛けてから新たな拠点に転移。

 ブルー達に任せた草むしりがかなり捗ったらしく、見渡す限り雑草が見えない。殺風景だが前よりずっと広々とした土地にはしゃぐ子供達を宥めてから土魔法部隊に地面を掘ってもらい、屋敷をポンッと出す。


「魔法って便利ねぇ。引っ越し作業が楽でいいわ」


 のほほんと感心する母に内心同意する。魔法ありきの力業だが、便利には違いない。


 掘った影響で柔らかくなった地面を固め、万が一に備えて父に常時発動型の結界を張ってもらい、休憩しているブルー達を労っていると、周辺の魔物狩りを頼んでおいたレルムとセレーナが意気揚々と戻ってきた。


「フィード~!すっごいのにゃ!こーんなおっきい羊とか猪とか、あとトカゲもいたのにゃ!こんなに楽しいならもっと早く来たかったにゃ~」


「セレーナお姉ちゃんひどいんだよ!僕が見つけた獲物ぜーんぶかっ拐ったんだ!」


 羊っていうとホワイトシープか?でもホワイトシープは魔物にしてはそこまで大きくなかったはずだけどな。

 平原に猪とは珍しい。ワイルドボアか?森から出て来たのだろうか。

 セレーナの言うトカゲは竜種だろう。はぐれワイバーンでもいたのかな?


 プリプリ怒るレルムを宥めすかして見に行ったが、驚いた。


「……ダークネスシープに、ソードボア。それにアースドラゴンか……」


 Bランク以上の猛者ばかりだ。パッと見穏やかな平原にこんな魔物がごろごろいることにびっくりした。

 なるほど。おいそれと職人を連れて来れないわけだ。


「わー!あれ全部猫のお姉ちゃんが倒したの!?」


「見たことないやつばっかりだー!」


「すっげー!俺も戦ってみたい!」


 興味津々についてきた弟妹がきゃいきゃいと騒ぐ。魔物を収納に入れてから魔法でパァンッと弾けるような音を出して意図的に注目を集めた。


「お前達、騒ぐのはそこまでだ。新しい家を自分達で作るために皆で協力し合うぞ。喧嘩したら個室は潰すからそのつもりでな」


 冗談交じりに脅してみれば皆真剣に頷いた。大部屋にぎゅうぎゅう詰めはもう懲り懲りらしい。


「なぁに、魔法を使えば簡単だ。それじゃあはじめるぞー!」


「「「おーーー!!」」」


 こうしてメルティアス家の新たな拠点作りが始まった。




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