『80、エピローグ~魚とピンクの貝殻と~』
これで第2章は終わりです!
山小屋に入ると、1人で退屈そうに絵を書いている少年がいた。
その姿を認めた途端、メイザが素っ頓狂な声を上げる。
「あっ、すっかり忘れてた。カーネをヅモツ郡のジュライのもとに返してあげなきゃ」
「メイザが誘拐したっていう少年?」
ボーランが顔を顰めながら尋ねると、メイザは小さく頷いた。
カーネは6~9歳くらいで、フェブアーと酷似した真っ赤な髪に緑のメッシュを持っている。
随分と色鮮やかな髪である。
ここが異世界じゃ無かったら、完全に浮いているだろうな。
「ねえ、お腹空いたんだけど。今日のご飯、まだ届けてもらってないし」
「そうだったわね。この人たちが家に来てたから、つい忘れちゃったわ。すぐ作るわね」
台所に引っ込んでいくメイザに向かってカーネが焦ったように手を伸ばす。
声にならない悲鳴がその口から漏れた。
「ちょっと待ってよ・・・。作ってもらっても僕は食べられないじゃん!」
「どうして?わざと嫌いなものばかり入れてくるとか?」
腑に落ちないフローリーが問いかけると、カーネは首を横に振った。
そして俺たちを近くに呼び寄せる。
「実はメイザさんの料理、すっごくマズいんだよ。あんなの料理じゃないし」
「そういうこと。だったら手伝った方がいいのかしら。――っ!?何この酷い匂い!」
マイセスが目を見開きながら台所を凝視する。
俺も気になって台所に入ってみると、グラタンを作っているメイザがいた。
ただし、マカロニは生煮えで玉ねぎは逆に焦げてるしでもはや惨劇と言ってもいいベルだ。
後から入ってきたボーランたちも、あまりの酷さに固まっている。
「えっと・・・僕が作りますからメイザさんは休んでいてください。王子命令です」
「そうですよ。私たちが心を込めて作ります」
フローリーが顔を引き攣らせながら、無駄に豪華なリビングを指さす。
ここはメイザの別荘的なところなのではないだろうか。
考えてみれば、いくら人が少ない山奥とはいえ共用の山小屋に人質をおくのは危険だ。
したがって、メイザの関連施設だということが安易に想像できる。
「そうなの?それならお言葉に甘えて休ませてもらおうかしら。助かるわー」
メイザが退出してから、大急ぎで作り直して夕食にした。
俺たちの料理は大変好評で、カーネも気に入ったのか物凄いスピードで食べていく。
そして翌日。俺たちは予定通り海に行くことになる。
メイザは衛兵に自首したらしく、憑き物が落ちたような笑みを浮かべながら連行された。
「これで僕の旅の目的は達成したし。今日は楽しみますか」
「長かった旅も終わるのね。最初の宿場町から今に至るまで、本当にいろいろあったわね」
フローリーが昔を懐かしむように呟く。
最初の宿場町ではマイセスたちと心理戦を繰り広げて、結局負けたんだっけ。
結果的にマイセスは役にたったから異論は無いが、やっぱり口で負けるというのはね・・・。
その後はひたすら7つの郡で不正事件を解決しながら色々な人と会った。
ドク郡で会ったベネットやナスタチ郡で会ったお爺様など、顔見知りもたくさん出来たな。
本当に大変だったけど、本当に面白い旅だったよ。
「皆さま、右の方に海が見えてきましたよ。今日は天気がいいですから綺麗です」
「本当!?――うわぁ・・・すっごく綺麗!」
窓から外の風景を見たフローリーがうっとりとしたような声を上げる。
その声に弾かれるようにしてボーランとマイセスも窓から外を見つめ、絶句した。
「本当だ。海ってこんなに綺麗だったっけ?」
「僕たちが住む王都からは海なんて見えないし、何だか新鮮だね」
エメラルドグリーンの海を見ながら、ボーランが年相応の無邪気な笑顔を浮かべた。
前世のそれと比較すると、こちらの海の方がはるかに綺麗で思わず見とれてしまいそう。
「あれ?あそこに妙な船がいますね。私が成敗しますか?」
「フェブアー、どうしたの?敵らしき人間がいるなら僕が魔法で攻撃することも出来るよ」
少なくとも砂浜までは行ってみたいのだ。
ここで敵がいたから踵を返してサヨウナラだけは勘弁してほしい。
フェブアーが示した方に視線を向けると、エルフの親子らしき影が砂浜に立っている。
他の人もいるのに、どうしてあんなところにいるのだろう。
「あれはエルフだね。特に危害を加えてくるということもないから、放っておいていいよ」
「分かりました。リレン様がそう言うのであれば」
カルスが一礼してから馬車のスピードを上げ、20分ほどで砂浜にたどり着く。
今は4月だから泳ぐには若干早いが、砂浜を散歩するくらいなら全然構わないだろう。
俺はエルフに近付いてみる。
「こんにちは。2人はどうしてここにいるの?」
「私はこの国の第1王子、リレン=グラッザド様を探しているのですが・・・」
エルフの親の言葉に首を傾げる。
その探し人というのは無論俺の事だが、どうしてエルフが俺のことを探しているんだ?
「改めて第1王子のリレンです。どうして僕のことを探しているのですか?」
「あなたがそうでしたか。実はエルフの里の恒例行事を行おうと思ったのです」
エルフの恒例行事とは何だろう。
親の話によるとエルフは成人前の数年間、人に従事して外の世界を学ぶのだとか。
大人だとエルフに対して偏見を抱いている人もいるので、大抵は子供に従事させる。
その中で王族であり、なおかつエルフに認められている俺はエルフ界の王族の従事先としてピッタリだから、是非とも姫をそばに置いて欲しいとのことだ。
「ということは、そこにいる少女がエルフ界の姫ということですか?」
「そうよ。私は第39代エルフ王の娘、ツバーナよ。ご主人様、よろしく頼みますわ」
そう言って優雅にお辞儀してみせるツバーナに俺は呆気に取られる。
まさかエルフの王女からご主人様だなんて呼ばれるとは思わなかった。
種族間の問題にならなければいいが・・・。
「リレン、あそこにいたおじさんが釣りの船に乗せてくれるって言っているわ」
「本当?だったら行ってみたいな。獲れたての魚を刺身で食べると凄く美味しいらしいし」
漁船だなんてワクワクしてくるね。
こちらの世界にマグロやタイがいるかどうかは分からないが、美味しい魚が取れそうだ。
フローリーの方を気にしながらツバーナに顔を向ける。
親らしき人もいるし、しばらくここで待っていた方がいいのではないかと思ったのだ。
「ねえ、ツバーナはここで待ってる?それとも一緒に乗る?」
「私はご主人様の意向に従うのみですわ。さあ、どうぞ私にご命令ください」
両手を広げて指示を待つツバーナに眩暈がしそうになる。
このままだと城にまで付いてきそうだが、ご主人様などと呼ばせていると奴隷みたいだ。
要らぬ誤解を招くのも良くない。
船に乗せている間に、この世界のことを教えてあげるのがいいだろう。
「じゃあ乗って。魚を待っている間に人間の世界のことを1から教えてあげるから」
説明が大変そうだと若干ブルーになりながら船に乗り込む。
そこには既にボーラン、マイセス、カルス、フェブアーの4人が待っていた。
「あれ?リレンの後ろにいるのはエルフ?どうしてこの船に乗っているのかしら?」
「私のご主人様がリレン様だからよ。あなたたちはエルフの国の伝統を知らないの?」
バカにしたように笑うツバーナにイラッとしたのか、ボーランが釣りの準備に取り掛かる。
ツバーナとは話しませんというオーラが凄い。
「そうだ。ご主人様に渡そうと思ってたものがあるんです。はい、どうぞ」
「あ・・・ありがとう」
彼女が取り出したのはピンク色の貝殻だ。
俺が受け取った後にツバーナが見せた笑顔は、今までのどの笑顔よりも可愛いと思った。
前書きにもありましたが、これで第2章は終了です。
7つの郡を回るのに50話もかかってしまいました。
2ヶ月近くも第2章のお話だったんですよねぇ・・・。
次回から新章が始まります!
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