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転生したら王子になっていました~予想外の事態にも、奮闘あるのみ~  作者: 銀雪
第一章 王子の変化と王城を襲う陰謀
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『6、初めてのお茶会①』

 家族で行ったお茶会訓練から一週間が経ち、今日はお茶会本番の日である。

 俺たち姉弟の姿は馬車の中にあった。


「今日はどこでお茶会をするんだっけ?」

「えっと……ウォル地区に住むフォルス公爵家だよ!」

「というか、そのくらい覚えておきなさいよ」


 俺が呟くとアリナお姉さまが答え、アスネお姉さまが呆れた表情で諫めた。

 すみませんね。俺はまだ貴族の名前を覚えきれていないのだよ。


 そんな俺でもさすがに王都のことは一通り覚えた。

 この王都は四つの地区に分かれており、ウォル地区はその中でも、王城から馬車で十分くらいのところに広がる地区を指す。

 王都でも有名な貴族街で、上級貴族家はみんなこの辺りに屋敷を持っているという。


 今回のお茶会の主催者であるフォルス公爵家もそのうちの一家。

 建国当時から代々王族を支え続けているためその信頼は厚く、この王国に住んでいる者で知らない者はいないと言われるほど有名な貴族らしい。

 その性格は大らかで、心の広さは公爵同士でも一目置かれる存在。

 初回の練習相手には最適だということで特別に招待してもらったのだそうだ。


 ちなみに、こちら側の参加者は四人。

 俺、アリナお姉さま、アスネお姉さま、執事長のカルス。

 父上は他にもメイドをたくさん付けようとしたそうだが、アスネお姉さまが断ったらしい。

 メイドに見られていると落ち着かないという理由らしく、俺もかなり共感できる。


「そろそろ出発したいと思います。準備は良いですか?」

「はい、問題ありません。出発しましょう」


 アスネお姉さまの指示で馬車はゆっくりと進み始め、遂に王城の門を超えた。

 俺とアリナお姉さまにとっては、初の門越えである。


「わぁ……! やっと門の外に出られた!」


 アリナお姉さまが全身を使って喜びを表現している。

 両手を上に突き上げているその様は、さながら舞台女優のよう。

 そんな光景を微笑ましく見つめる俺とアスネお姉さま。


 王族の馬車を見かけた人たちが、何事かと騒いでいる姿を窓から見つめる。

 そんな外の騒々しさと対照的に馬車の中は緩やかな時間が流れていた。


 約十五分後、鞭の音が響き渡り、馬車が静止した。


「皆様、フォルス公爵邸に到着いたしました。降りる準備を整えてください」


 カルスの言葉とともに馬車の扉が開く。

 扉の外には、見たことのない男性が恭しく控えている。フォルス家の執事だろうか。


「えっと……あなたはどなたかしら? 身分不明の方の前に降りるわけには……」


 アスネお姉さまが訝しげな声で尋ねると、男性は慌てたように手を胸の前で振った。

 見たところ彼一人しかいないようだし、アスネお姉さまが怪しむのも頷ける。

 普通は執事とかがたくさんいるものじゃないの?


「あ、怪しいものではございませんよ!? ――コホン。失礼いたしました。私はフォルス家に仕える執事のキトと申します」

「ああ、執事さんだったのね。こちらこそ失礼いたしました」


 そう言うと、キトのエスコートを受けて優雅に馬車から降りるアスネお姉さま。

 ドレスの裾を持ち上げるその姿は貴族令嬢そのものである。

 最も、貴族ではなく王族なのだが。


 続いてアリナお姉さまが降り、最後に俺が降りる。

 全員が降りたのを確認すると、別の執事らしき男性が馬車を操作しだした。


「馬車は執事仲間のビットに任せてください。私がテラスにご案内いたします」

「よろしくお願いいたします」


 俺が軽く会釈すると、キトは柔らかく微笑んだ。


「王子ともあろうお方が簡単に頭を下げてはいけませんよ」

「あ、すみません。まだこういう場に慣れてなくて……」


 今度は会釈せずに苦笑いで誤魔化す。思わず日本人の性が出ちゃったよ。

 この世界では王子は傍若無人に振舞わなきゃいけないのか。

 確かに外面だけでもそうしないと、王子としての威厳も何もあったもんじゃないな。


「カルス様はピットと共に執事待機部屋がありますのでそちらにどうぞ」

「はい。お心遣い感謝いたします」


 一礼しているが、その眼光が鋭く光ったのを俺は見逃さなかった。

 従者と俺たちを離すのには意味があるのではないかと疑っているのだ。

 俺は初めてだから怪しいのかどうかは分からないが、確かに離す必要はないだろう。


 訝しげに思いながらも、キトの案内でしばらく屋敷の中を進む。

 公爵家の屋敷だけあって、かなり豪華だ。

 やがて、一つのドアの前で止まったキトは、目の前の重そうな扉をノックした。


「ラオン様、グラッザド家の方々をお連れいたしました」

「うむ、通せ」


 部屋の奥から威厳のある声がした。

 恐らくこの声を発した人物がフォルス公爵家の当主、ラオン公爵その人だろう。


「分かりました。それではどうぞ」


 キトが重厚な扉を開けると、真夏とは思えない涼しい風が廊下を吹きぬける。

 目の前に広がるテラスには、既に三人の人物が座っていた。

 キトはその三人の後ろに回る。


「失礼いたします。本日はお招きいただき感謝しますわ」


 アスネお姉さまがスカートの端をつまんで優雅に挨拶すると、ラオン公爵は苦笑いした。


「ハハ、堅苦しい挨拶はいりませんよ。ここに座ってくださいな」

「ありがとうございます。失礼します」


 ラオン公爵に促され、俺たちは用意された席に着く。

 全員が着席したのを見届けると、メイドさんに目配せするラオン公爵。

 メイドさんは一礼して退出していった。


「さて、知っているとは思いますが一応。私がフォルス家当主のラオン=フォルスです。こちらは妻のマリサ=フォルス。そして息子のイグル=フォルスだ」

「マリサ=フォルスです。皆さん、可愛いですね~」


 のほほんとした口調で話すマリサさん。

 口調とは裏腹に眼光は鋭く、いかにも貴族社会を生き残ってきた女性という感じがする。

 貴族の社会も案外黒いからね。

 このくらいの立ち振る舞いが出来ないと、腹黒い夫人たちにやられてしまう。


「イグル=フォルスです。年は七歳になります。よろしくお願いします」


 こっちは無表情かつ声に抑揚が無い。やや不気味な印象を与える。

 俺と目が合うと、一瞬だけ無表情の仮面を取って微笑んだ。

 つられて笑顔を作ったが、あれはいったい何なのだろう。

 シャイな子なのかな?


「あの、すみません。トイレに行ってきても……」

「でしたらご案内しますわ。あなたもどうですか?」

「――バレてたのですね。恥ずかしいですわ……」


 どうやらみんなトイレに行きたかったようだ。

 恥ずかしさが爆発したのか、アスネお姉さまの顔が一気に真っ赤に染まる。

 こうして、三人がトイレに向かった直後、奥から悲鳴が聞こえてきた。

 声の主は恐らく先ほどのメイドさんだろう。


「あー!! ちょっと! 何をしているんですか!」

「すみませんね……。少し様子を見てきます」

「私も、一旦失礼させていただきます」


 そう言い残すと、ラオン公爵とキトが一旦退出した。

 使用人たちに任せておけばいいと思うのだが、見られてマズイものでもあるのだろうか。

 テラスには俺とイグルくんが取り残された。はっきり言ってメチャクチャ気まずい。

 とにかく話題が無いのだが、どうやって話しかけたらいいんだろう。


「――名前はなんて言うのですか? なぜか王女様と一緒にいましたが」

「リレン=グラッザドです。五歳だね。よろしく、イグルくん」


 この微妙な空気をどうしようかと首を捻っていると、イグルくんの方から話しかけてきた。

 優しい声色で答えると、イグルくんはキョトンとした表情を浮かべ、盛大に笑い出す。

 おいおい、雰囲気が変わりすぎていて、逆に怖いぞ。


「あはははっ、王子だったのですか。面白いですね。雰囲気が王族とは思えないや」

「そう? どの辺が?」

「人懐っこそうなところが王子っぽくないんですよ。王子ってもっと偉そうな感じがします」

「なるほどね。やっぱりそこか……」


 この世界でも王族の共通認識は『偉そう』なのだろう。

 俺は元平民だし、お姉さまたちも穏やかな人たちだから、異質に見えるのかも。

 偉そうなイメージとは正反対の性格をしているからね。

 

 そんなことを考えていると、イグルくんがいきなりポケットを探り始める。

 何だ? ナイフでも出してくるんじゃなかろうな。


「そうだ。これを渡しておきます。ここでは読まずに王城に帰ってから読んでくださいね」

「は、はぁ……」


 四つ折りくらいになった一枚の紙をテーブルの下で渡してくるイグルくん。

 笑顔から一転、真剣な表情になった彼の圧力に頷くしかない。

 この紙……すごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

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