『50、スニア捜索隊』
部屋は俺たちの部屋の4分の1くらいしかない。
床は土のままになっており、今も数人の奴隷たちが青い顔をして寝ている。
当然、寝具も無いので、髪は土がついて茶色に薄汚れていた。
奴隷の人種は大半が獣人で人間はむしろ少数派。
リッシュが言っていた通り、部位を欠損している人や重傷を負っている人もいた。
しかし、何も治療をされた形跡は無い。
「フローリー、この人たちを治療できる?私は魔獣を殺ろうと思っているんだけど」
「使ったことはないけどやってみるわ。範囲回復<エリアヒール>」
緑に金が混じった色の粒子が辺りを飛び交い、減っていくのと同時に回復されている。
恐ろしい効果のある回復だ。
「マイセスが魔獣退治してくれるなら僕がやっちゃうね。解呪<キュア>」
治療を終えると、怒りのエネルギーを沸騰させている元奴隷たちが俺に詰め寄ってきた。
ドアの前に立っている俺を超えてスニアを殴ろうとしているのかもしれない。
何とかはぐらかしながら全員を外へと誘導していく。
この間にボーランとマイセスは、魔物を生み出している魔物石とやらを破壊している。
フローリーは古びたドアの前で休憩中だ。
あれだけ魔力を消費したのだから当然だが、魔物に襲われやしないかと気が気じゃない。
フローリーまでいなくなったら俺は発狂するぞ?
元奴隷たちを、外で待っていたアリィに引き渡してからフローリーに合流。
ボーランたちの帰りを待つ。
「ちょっと!リレンとフローリー、来て!」
突然、マイセスの興奮した叫び声が聞こえて来た。
行ってみるとムカデ型の魔物の後ろに石板が置かれている。
「あの石板、怪しくない?魔物に守らせているんだし何かあるんじゃないか?」
「そうだね。この大きなムカデが邪魔だけど」
石板への道を堂々と塞いでいるムカデをジト目で睨みつけた。
「別に大丈夫だよ。こいつはもう死んでるから」
魔物を軽々しく持ち上げるボーランに思わず瞠目してしまう。
意外と力持ちなんだなぁ・・・。
石板に近づくと謎の言葉で彫られた文字が見えた。
「どう?何か書いてあった?」
「何と書いてあるのかは全く読めないけど、呪文のようなものじゃないかな?」
恐らくこの文字は暗号だと思う。
呪文を解読出来なければその時点で終了だし、出来たとしても暗号を解く時間がかかる。
また足止め用の仕掛けが施されているということだ。
隠し通路や仕掛けを作った人物はなかなか用心深い性格らしい。
「贅沢こそ至高!部下や愚民はそのためにのみ存在するのだ!異論は認めない!」
「マイセス姉さん?気でも狂ったの?」
石板に手をかざしながらゲスイ発言をするマイセス。
フローリーがドン引きしているのを察すると、焦ったように首を横に振った。
「これは私のセリフじゃないわ。この石板に書いてあったことを実践しただけよ」
「何て書いてあったの?聞くに、ゲスイ言葉がそのまま書かれていたんじゃなさそうだし」
「“この国の第12代国王が言った有名な言葉を言え”って書いてあったわ」
第12代国王、リレイ=グラッザドは他に類を見ないほどの愚王として有名である。
贅沢の限りを尽くす一方で、国民には重い税を課して生活を困窮させた。
天候不順で作物が育たなかった時には、あろうことか食材を国庫の金で買い占めたのだ。
この暴挙によって1万人近くの人間が栄養失調で命を落としたらしい。
怒り狂った民衆が王城に押し掛けた際に王が言ったセリフが愚の骨頂として語り継がれている。
俺と一字しか違わないこの愚王は日々足枷となった。
”12代目のようにならないでくださいね”と何度懇願されたことか。
心配しなくとも愚王になんてなるつもりはありませんから!
心の中で思いっきり叫ぶと同時に石板が地面に沈み、壁に水色の筋が迸っていく。
目の前の岩がパックリと割れると、土魔法で作られたであろうツルツルの壁が露出した。
「この先にフェブアーたちがいるのかな?」
ボーランと俺を先頭にフローリー、マイセス、介抱を終えたカルスが続く。
予想に反して、目の前に現れたのは棚一杯の金銀財宝だった。
「何これ・・・。あの腹黒執事が貯めたへそくりか何か?」
「ここに裏帳簿が。――酷いわね。奴隷の売買で懐を潤し続けていたんだわ」
黒い革製のカバーが掛けられた裏帳簿。
ページを捲っていたマイセスが手を止め、顔を歪めた。
カルスが受け取って俺たちにも見えるようにかざしてくれたので覗いてみる。
そこには名前、年齢、値段などが細かく書かれていた。
一番右の枠には赤い羽根ペンで良、悪などとサインされており、まるで物扱いだ。
恐らくだが体調や態度などを加味した評価だろう。
非人道的な行為で集められた黒い金がここに詰まっているというわけか。
確かにリレイのセリフがピッタリだわ。
「とりあえずテミッドとアリィを呼んでこよう。対応はそれからだね」
俺は静かに呟くと黄金色に光る部屋を出た。
数分後、ボーランに連れられて部屋に入ったテミッドとアリィは言葉を失ったようだ。
裏帳簿などを見てから、しばらく立ち竦んでいる。
「これは・・・信じられないな。すぐに捜索隊を結成させよう」
硬直からいち早く回復したアリィが肩を震わせながら部屋を出て行った。
「私はこの帳簿を領主様に報告いたします」
テミッドも顔を青ざめさせながら部屋を出て行く。
後に残された俺たちの間に微妙な雰囲気が漂ったが、マイセスが手を叩いて霧散させる。
「とりあえず私たちはこの隠し通路を進みましょう。その先にいるかもしれないわ」
全員が無言ながらも頷き、攻略が再開された。
しかし、しばらくは何もないまま時間だけが過ぎていく。
いい加減同じ景色に飽きてきた頃、入り口以外の3方を壁に囲まれた空間に入る。
目の前には梯子が掛けられており、天井に木の蓋がはめられていた。
ここが出口の1つということなのだろう。
「まずはボーランかな。上から誰かが降ってこないとも限らないからね」
「分かった。リレン、戦いの準備だけはしておいてよ」
そう言うとボーランは梯子を登り、器用に木の蓋を外していった。
蓋が完全に取り去られ、日の光が差し込むと同時に1人の少女が落ちて来る。
「痛いっ!もう誰よ・・・。あれ、リレン王子たち!」
「ベネット!どうしてここにいるの?フェブアーは一緒じゃないの?」
穴から上を仰ぎ見ると1軒のボロ小屋に続いているみたいだ。
領主たちがこんな小屋に隠れているはずが無いと思わせる作戦なのだろうか。
「フェブアーさんは右に向かいました。どちらかだけでも生き残れるようにと」
「まさかスニアに見つかったの!?」
答えこそしなかったが、伏せられた目が肯定を意味していた。
「騎士団の者だ。この小屋には誰もいないのか?」
戸を叩く音とともに聞こえる声にベネットはビクリと肩を震わせる。
もうスニア捜索隊が機能しているのか。
本当にこの郡の人間は仕事が早くて助かるわ。
「僕たちは右に行こう。スニアに勝てるかは分からないけど・・・フェブアーを失いたくない」
「私もお母さんを見捨てるなんて御免だわ。絶対助けて見せる」
フローリーが決意のこもった瞳で宣言すると、残りのメンバーも体の向きを変えた。
終始、無言の同意。もはや俺たちの間に無駄な言葉は不要だ。
このメンバーで腹黒執事、スニアの悪事を全て暴く。
それがここに来た王子の役割であり、国民のためになる。
焦りと怒りと一抹の不安を抱えながら薄暗い通路をひたすら進む。
10分も経たないうちに到着した右の終点は、蓋が開けられた状態で放置されていた。
さっきと同じようにボーランが穴から顔を出し、固まる。
「ちょっとボーラン!何があったの!?フェブアーは無事だよね!?」
「――フェブアーさんとアリィさんがスニアを捕縛している」
何だそりゃ!どういう状況?
意味は分からないが捕縛されたなら一安心だ。
さあ、ハンルもろとも会議にかけて今までの悪事を洗いざらい吐かせましょう!
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