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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第3章 水の街

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第88話 暗い水の中から


 様子の変なテレサが去ってから夜がさらに深まり、部屋を後にして一階へ。

 アトリエには、フィンチがまだ居残っていた。


「どう? 見れた?」

「もう最高よ。見せたいものって湖の光のことだったんだな。あの不思議で綺麗なもの初めて見たよ」

「見れたのならよかった。──で、それで?」


 それで……?


「なんのことだよ?」

「テレサに何か訊かれなかった?」

「あ、ああ、あれのことか。あれってどういう事なの? よくわからんくてさ……テレサもおかしくなってたんだが」

「ニブチンねえ。手助けしてあげたのに。それとも誤魔化してるの?」


 はて、当惑。テレサの質問も、フィンチの言っていることも全然わからない。どうしてニブチンと言われなきゃならないんだ?


 ふう、という呆れるような嘆くようなブレスに、この先に頭を悩ませる仕草。その先を言わなかったフィンチの考えてることが分からず、追究しようとしたが……自分の姿を象ったモノが目を引いた。


 捏ねた粘土で作られた像。粘土は形を変えて五体となっている。スケールの幾分小さな像は生きているとすら感じられる出来栄えだ。


 これでも未完成の範疇。仕上がった後が楽しみ、なのだが……。


「あんれ?」


 顔を近づけて立体像をじっと眺める。

 惹きつけられるのは、フィンチの腕前が良いからではない。理由の不明な違和感があったからだ。


「んんー?」

「どうしたの?」

「なんか、変というか……俺ってこんな顔してたかなーって」

「そうよ。貴方、そんな顔をしてるわよ。しっかり観察したんだからね」


 腕に疑いの余地は無い。あれだけ身体をじっくり見て仕事に取り組んだのだ。

 実際そこにある自分の立体像は特徴をよく捉えているし、髪型や肌の質感も高いクオリティで再現している。フィンチは将来、金の卵を産む鳥になれよう。


 だが、妙な感覚は絶えない。どれだけ見ても結果は変わらないのに。


 見た目というものは鏡とか自分と他人で見てるものが異なってると聞くが……それとも違う気がするんだよなあ。

 このモヤモヤとしていて納得のいかない感じ……この感覚の正体は何だ?


「にらめっこしても勝ち負けは決まらないわよ」

「そうじゃなくてだな……ま、いいか。このクオリティはすげーよ。これはテレサのも楽しみだ。作品はすっげーアダルティなやつで頼むっ! いや人目につくのなら別のやつでっ」


 キモいことを捲し立てたが、フィンチは「うーん」と芳しくない。つまり、


「残念だけど、テレサのはまだなのよ。良い構図が決まらなくて。どうしようかしらねえ」

「そっか……時間遅いし、今夜は寝たらどうだ? 睡眠取ったら閃くかもよ」

「それもそうね。寝ることにするわ」

「おいおい、ここで寝るのかよっ。寝床で寝ろよ」


 工具や作品が置いてあるアトリエの端っこで、なんとフィンチは毛布も被らずに就寝しようとする。

 作業場で睡眠を取るとはズボラな……二階の部屋を容易く貸してくれるわけだ。


「おやすみー」

「あ、寝る前に一つ質問。貴族が住んでるところって何処にあるんだ?」

「此処からだと東の方向。そこに貴族街があるの。そのまま行くと湖の前に出るから、少し迂回していく必要があるわ」

「オッケー。そんじゃ、おやすみ」




 フィンチに気付かれないよう静かに戸を閉じ、アトリエを背にする。家を出た先は、すっかり夜の姿となったミーミルが待ち受けていた。

 冷たい空気が身を覆い、肌を撫でる。澄んだ星空だけが唯一の目撃者だ。


 テレサにもフィンチにも言わなかった遅めの外出。遅い時刻になって家を出たのは、散歩がしたくなったからではなく、夜遊びをしたくなったからでもなく──レトの奪還を行うためだ。


 フィオーレの屋敷を目指し、かの屋敷で捕らえられているであろうレトを救出して連れて帰る。それが今夜果たすミッションだ。


 正面から堂々と行っても追い返されるだろうし、真昼間に侵入するのは法的に危ない……これから始める事も犯罪行為そのものなのだが、レトをさっさと見つけてササッと帰ろう。


「貴族街は東の方向だったな」


 そこに行けばフィオーレの屋敷があるはずだ。

 待ってろよ、レト。お前のご主人が寂しがってるお前を助けに行くからよぉ。首をニョキニョキ〜と伸ばしていろ。




 石床を踏み鳴らす音が大きく聴こえる。衣擦れも夜は聞き逃さなかった。

 ミーミルは、昼の賑やかさが嘘のように失せて静まっている。時折歩く人は見かけるが、一般市民より鎧と武器を装備した者の割合が多かった。


「見回りか?」


 あの服装……歩いているのは騎士だ。

 リージュでもたまに見かけた。モンスターの侵入を防ぎ、もし侵入していたのなら駆逐し、街の安全を守る。その為に見回っているんだろうが……。


『さっさと宿に戻れ』


 向こうの通りで巡回している騎士が市民に……ではなく、おそらくは討伐者に注意を促している。


 なんだろう。あの巡回は変だ。

 考え過ぎかもしれんが、やけに用心しているような……。


 ともかく、あんなに厳しく用心しているんじゃ歩きづらい。これだと貴族街はもっと警備が多そうだ。

 前科の数をさらに増やす危険を冒しているのだから隠密に行きたい。別の道を通って会わないようにしよう。


「そこで何をしている?」

「うっ」


 後ろから男の声掛け。話しかけてきた人物もまた騎士だった。

 避けようと言った途端に職質を喰らうとは運が悪い。会いたくなかったのに、これはこれは面倒な。


「ど、どうも、こんばんはぁ。見回りですか?」

「そうだがキミは? 何をしている?」

「夜の散歩ですよ。この街、綺麗ですよね。いやぁ住みたくなっちゃうなぁ」


 これから不法侵入をします、とは素直に言えない。だが、大人しく回れ右して帰るのも……適当にあしらって乗り越えるか。


「観光に来た者か? 家に帰りなさい。夜のエニアーレ湖は危険だ」

「あー……用事があるんです。それで、えー、もう行かなくちゃ」

「さっさと家に帰るんだ」


 語気を強めて再度通告するミーミルの騎士。夜は危険なことは多少あろうが、相手のそれは俺の考えているものとは別の危険を警告してる気がした。


 とは言え、相手の言うとおりに聞いてUターンなどお断りだ。


「わ、わかった。わかりましたよ……っ」


 手を挙げて、素直に受け入れた上に下手に出る……と見せかけて!


「●竹フラッシュ!」

「うっ!?」


 目眩ましの光を食らわせ、その間に逃走。貴族街ある方角を目指してダッシュする。後ろから「待て!」と騎士が追走するが、距離は詰まらない。

 こっちは軽装。相手は重量のある鎧を身に着けている。追いかけても鎧の重さが足を引っ張る。ドジを踏まない限り追いつかれはしまい。


「おい、止まれっ!!」


 はっはぁ! 大人しく止まるものか! 捕まえられるものなら捕まえてみろぉ!


 夜のミーミルで街中で鬼ごっこが始まる。

 初めてなんで道に迷い、途中で追走者が追加されたりもしたが、その顛末は──




「くっ、何処へ行った……!」

「まだ近くにいるはずだ。よく調べろ」


 途中で俺を見失い、騎士達が付近で捜索を行う。

 隠れてそうな場所を手当たり次第調べるが、見つからないとみるや此処にはもう居ない判断し場所を移していった。


「……よし、撒いたな」


 去っていく騎士の背中を、プークスクスと笑って見送る。

 俺が隠れているのは、エニアーレ湖に接する柵の向こう側。つまり湖がある側に身を潜めている。

 下はエニアーレの水面が広がっているが、死角としては最適。まさかあの騎士もこんな場所に隠れているとは気付かんだろう。 


 さてと。もう居なくなったし、早く戻って貴族街に行こう。


「……ん、ん?」


 柵を上ろうとして、身動きが取れないことに気付く。


 自由に動けないのは足に異常が起きているからだ。

 足が動かせなくて上れない。何かが足を拘束している。しかも構造物に引っかけているんじゃない。


「……え?」


 原因の正体に、驚愕を露わにする。

 拘束しているのは……人だ。


 水面からヒト(、、)が身を出し、手を伸ばしている。白魚のようで、しかも指先の鋭そうな手が俺の足を掴んでいた。


「な、なななんだ!?」


 掴んでいる人物が見上げ、ぎらりと顔が覗く。

 笑顔だった。無垢なまでに。残酷を知らない子供のように。というか、子供そのものだ。


 子供がなんでこんな所に……なんて考えは呑気が過ぎる。それだけ起きている事態は常軌を逸していた。


「わっ!?」


 誰なんだお前──と訊く前に細い腕に引っ張られ、抵抗するまでもなく落ちる。

 水面に叩かれ、その中まで引きずり込まれた。


 ヂャポンと水に呑み込まれた後に来たのは、暗い水の世界だ。

 ただでさえ現時刻は夜なのに、光の届きにくい水面下は見通せない真っ暗闇。その中を、足を引っ張られて凄い速さで移動していく。


 こ、これは……俺を水中に引き込んで抵抗できなくしてから殺そうという算段か?

 くっ……息が、苦しい……タダで殺されるものか!


 襲撃者から離れようと、『幼体化』のスキルを発動。

 身体がみるみる小さくなり、襲撃者の手からするんと抜けて解放された。


 相手が遠のき、姿が水中の奥へと消える。

 自由にはなれたが、そこは暗い水の中。解放されたたけで危機的なのは変わらない。ヤツはまた襲ってくるはずだ。


 よくは見えないが、闇の向こう側でヤツはいる。周囲を凄い速さで泳いでいる気がする。

 水中では地上の時と違って上手く戦えない。迎撃は満足にできんだろうな。


(来た──!!)


 暗い水中で黒い影がさらに急接近する。さっきの襲撃者だ。

 逃した俺をなぶり殺すつもりか。そうはさせんっ。


(これでも喰らえっ! )


 左手を突き出し、閃光を浴びせる。相手は眩い光を受けて目が眩み、或いは反撃を避けようとしたのか、すれ違っていった。


 よしよし、離れていったな。

 これで時間稼ぎを……う、うぐっ……もう息が限界だ。これ以上は……早く水上に逃げないと。


 水を掻き、上を目指す。追いつかれまいと全力で泳ぐ。溺れるより先に顔が空気を得た。


「ぶは……っ!」


 湖面から顔を出し、肺いっぱいに空気を供給。呼吸の苦しかった体内に酸素が巡る。溺死を躱した後、自分のいる場所を把握した。


「嘘だろ。街があんなに……っ」


 さっきまで歩いていたミーミルの街が小さく見える。陸地からだいぶ離されていた。

 こんな遠い所にまで連れていかれたのか……早く岸まで泳いで逃げないと!


 陸を目指し、藻掻くようにして泳ぐ。だが──ばしゃり。

 水が跳ね、新たな波が生まれる。それは自分の周辺で発生しているものじゃなく、別の場所で発生したものだ。


 波の生まれた方には、頭部が水面から現して双眸を向けていた。


「やばっ……!」


 水を高速移動し始める襲撃者。人並みの泳ぎでは差を埋められず、あっという間にして迫ってくる。

 ある程度の距離まで縮むと円を描いて泳ぎ、死角へ移動する。迎撃に備えて方向転換すると、相手もまた死角へと移動し始めた。


「ちょこまかと動きやがって!」


 死角、また死角、またまた死角。罠に追い詰められた気分だ。

 機敏に動き回る襲撃者。そうやって俺の体力の消耗も図っているらしい。


 時間が過ぎていくうちに追いつけなくなり、相手は機とみて遂に動きだす。

 至近距離にまで接近し──口を大きく開けた。


「くあっ!? ぁがあぁぁぁぁ……っ!!」


 左腕を鋭い痛みが貫く。腕を噛みつかれたのだ。

 注射針が刺さったような、芯を突く痛み。それが何本も連なって食い込み、肉を穿っていく。


「ぐう……うぅ……!」


 深い痛みに耐えるも、腕に噛みつく顎の力は強く、抵抗しても離れない。この間にも筋肉はどんどん裂け、骨まで歯が達していくんじゃないかと思えた。


 しかも襲撃者は噛みついた状態で、また水中へと引きずり込もうとしていた。


 うぅ……痛、いぃ……。

 また俺は……殺されるのか? この湖の真ん中で……。


「くそっ! 離せ! 離しやがれぇっ!」

『っ……!?』


 痛みに耐え、抗う。そして、それは突然に起きた。

 噛み千切らんばかりの顎の力が弱り、襲撃者は慌てて離れていった。


 な、なんだ急に……助かったのか?


 身を水の中へ潜めた以降、襲ってくる気配は少したりとも感じない。不気味なまでに静けさが訪れた。

 襲撃が止んだことを不思議に思いながらも、じくりと訴える深い痛みが悠長な思考に鞭を打つ。ひとまずは陸上に行かなければ。


「うっ、いてえ……」


 血の止まらぬ創痍の身で街を目指し、なんとか足が付くところまで泳ぐ。

 陸上に着いた頃には体力が尽きかけ。噛まれた部分を抑えながら大地を踏み締める。


 ふらふらとした不安定さで歩いている際中に、ふと声が聞こえた。


「誰か……いるのか?」


 その人物はすぐに見つかった。

 視線の先にただ一人。嗚咽を漏らし、苦しみに吐気すら伴ったような息遣いを繰り返す。


 何があったのかまで訊ける余裕は乏しいが、人がいるのなら警告しなきゃ。

 ここは危険だ。早く湖から離れて安全な場所に逃げて、巡回している騎士に保護してもらおう。


「大丈夫か。怪我は……え?」


 近付いて初めて判明する。そこに蹲っていたのは、そこにいたのは……



 コレハイッタイナンダ――?



 ヒトではあるけど、ニンゲンじゃない何か。

 まず目についたのは尻尾。先端はヒレがあり、そこから上に視線を移していくと、鋭い爪の見え隠れする素足がある。

 胴体はぬらりとした肌が見え、人間のものではないと分かる。実物は見たことないがカッパを彷彿とさせた。


 総評で言えば……魚人。魚と人間の中間の見た目の子がそこにいる。


 未知なるものと遭遇。意外と驚かなかったのは、アピス族という前例で慣れているから。人間とは異なる種族にはもう出会っているのだが、目の前の子供はアピス族より禍々しい姿だった。


 ヒトでもなく、アピス族のようなヒトに近い種族でもなさそうで、まるで……


「アイツ、似てた……」


 異形の姿の子供は呟き、怯えている。何かに恐怖してるようだった。


「お前は……」

「はっ!」


 気付くや子供は慌てて逃げ、すぐさま湖に飛び込んだ。


「ま、待て……!」


 制止の声が当然届くまでもなく、揺れる水面は波を失う。水棲の特徴は見せかけじゃなかった。

 水中に逃げられては怪我の身でなくとも追いかけられるものではなく、子供が飛び込んだ水面を見つめるだけしかできなかった。


 あの顔、さっき襲ってきたヤツと似ている……。

 ということは、あの子が俺を襲ってきたのか?


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