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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第2章 その魂、奮い立つ

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第79話 浄化と別れと


 シンジの拳が殴打する。輝く手がシュヴェルタルの顔面に吸い込まれる。

 決死の攻撃は、未知の不可思議の現象に包まれて放たれた。


 この時のシンジは自身の異変に軽く気付きながらも、その正体には最後まで触れなかった。

 瀕死の重傷を負い、それでもテレサの父を救わんと動いたシンジを助けたのは、彼の意志によって芽生えたスキルだ。


 眩く、暖かさをもった光の正体は、スキル──『浄化』。


 これが如何なる効果をシンジに与え、どのような影響をもたらすのかは不明。

 スキルの発現、そして自分の双眸が光を帯びたことにシンジは終ぞ意識を傾けることはなかった。


 スキルの効果を帯びた拳を受けたシュヴェルタルは肉体を貫いた腕を引き抜いて……後退る。

 制御の効かなくなった機械のように震え、動かなくなった。


 身体を貫かれ創痍のシンジは膝を付き、シュヴェルタルは沈黙する。

 何が彼らの間で起こったのかはまだ誰にも掴めない。テレサ達は陥没した地に佇む彼らを見眺めていることしかできなかった。


 誰よりも先に動いたのは、怪しい影。

 両者の傍に、ロギニが地面からぐにょりと生えた。


「はっ、ははっ……なんだあ。また面倒くさいものを付けたかと焦ったが、ハッタリだったか」


 ネメオスライアーの時と同じく、シンジが新たなスキルに目覚めたことに驚かされた。

 新スキルでシュヴェルタルを倒される……と危ぶんだが、杞憂だった。


 見よ、この光景を。

 シュヴェルタルはまだ生きている。何故動かないのかは知る由もないが、謎の現象の原因であろうスキルはもう視認できず、おそらくは既に消滅したのだろう。


 となれば、もう脅威を感じない。恐れることはない。

 シンジの奮起は失敗だ、とロギニは結論付ける。勝ったとも確信した。


「残念だったなぁ。あともう少しだったかもしれないが、所詮この程度か」

「ぉ、まえ……」

「つーわけで、何もできなかったオリジンは死ね──」


 血色の薄い手に、闇の色を映した杭が握られる。

 スキルの破壊効果を促す杭を突き刺そうと歩み寄る。当然ながらシュヴェルタルにかなり深い傷を負わされたシンジに抵抗はできず、退くこともできなかった。


 勢いを得ようと、ロギニの腕が上がる。

 テレサの「やめて!」という悲鳴じみた声では止められず、既に飛び降りていたカルドが救出の為に迫っていた。


「次はごっそり消してやるからよぉ!」


 尖端が下ろされ、目前のシンジの身に達しようとした──が、


「ごげっっっ!!?」


 何者かによってロギニは殴り飛ばされ、未遂に終わった。


「え……!?」


 投げられた石のように、ロギニが跳ねては転がっていく。

 テレサ達は目を疑う。止めたのはテレサ達でもなくシンジでもなく、シュヴェルタルだったからだ。


「お父さん?」


 今起きている出来事に、テレサ達はまだ信じられずにいた。

 シュヴェルタルはロギニの言葉だけに耳を傾け、自分達を相手取って襲ってきた。それがどうして味方である者を害するというのか。


 殴るだけでは終わらず、シュヴェルタルの足は確たる自我を持って動く。


「な、何をしやがるっ……おげっ!? は、離しやがれっ、かはっ……!」


 反旗を翻したシュヴェルタルがロギニの首を掴み上げて壁にぶつける。

 抵抗し苦しむのをお構いなしに、腕を上げて──また拳を振った。


 一発、二発、三発。鉄槌(こぶし)はまだ止まらない。

 鈍器を打ち付けるような打撃は激しさを増し、空気を揺らした。


 シュヴェルタルに何が起こっているのかは誰に解らず、テレサ達は事の成り行きを見ているだけ。というよりは、怪奇なこの状況で余計な行動に出てはいけないと悟った。


 雷鳴に等しい衝撃がひとつ疾走る。

 壁にヒビを入れた凄まじい一撃は、ロギニの首をへし折った。


「なん、で……」


 首がほぼ真横に折れた状態でもなお生きているロギニ。自身の尖兵が歯向かってきたのが現実の出来事として消化できずに闇の水面に沈んでいった。


 命令者を失い、残されたシュヴェルタルにさらなる異変が起きる。

 シンジと父の身を案じ、陥没した地面にようやく降りたテレサと先に降りていたカルドも異変に気付き、その様子を観察する。


「あ……」


 シュヴェルタルの身体の表面が油絵のように剥げる。変わり果てた顔が醜い外表をぼろぼろ落としていく。

 そして、彼はヒトらしい血色を得て、テレサに向いた。



「──テレサ」



 彫像の如く無機質なはずだった顔が微笑みながら、娘の名を口にする。


「あ……あの、お父……さん、なのですか?」


 シュヴェルタルが、いや父が呼んでいる。

 自分を覚えてくれていたことに、テレサは夢に浸かる錯覚に包まれた。


 父との記憶は乏しい。二人が過ごした時間は普通の親子より短い。母やココルの住民から人となりを聞いただけで顔を覚えていない。


 それでも目の前にいるのは自分の父親だとテレサは改めて確信する。

 父はようやく元に戻ったのだ。


「そうさ。久しぶりだ、テレサ。見違えたよ。綺麗な子になったね」

「あ……あ……」


 死に別れた家族が自我を取り戻して、成長した娘を喜んでいる。テレサも言葉を交わそうとして、けれど色んな感情が急に膨れ上がる。

 嬉しいとか寂しかったといったあらゆる感情のコントロールができなくなって、言いたい言葉がなかなか上手く音にならない。


「本当に……本当に私のお父さんなんですね。ああ、とても……とても、会いたかったです……」

「父さんも同じ気持ちだ。大きくなったなあ。小さかった娘がこんなに背丈を伸ばして、しかも素敵な女の子になっている。父さんは嬉しいよ」

「はい。でも、どうしてお父さんがモンスターになったんですか?」

「きみに……どうしてもテレサに会いたかったんだ」

「え?」


 ルイゼンがモンスターへと変わってしまったきっかけ──シュヴェルタルへと至る材料となった執着心は、家族との邂逅だった。


 不運にも致命傷を負ったルイゼンは、死の間際までシェリーを、そしてテレサを残し命尽きることを無念としていた。

 肉体から魂が離れ、イザナグゥに流れ着いてからも生前の未練として魂に刻み込まれていた。


 とても強く、比類の無きまでに……。


「死んでも父さんはテレサにどうしてもどうしてもと会いたいと願った。それをあの男に利用されたんだよ」

「そう、だったんですか……」

「抵抗できなかった。辛くて苦しくて、意識が朦朧としていた」


 しかも自分の娘を手に掛けようとしている。家族を殺すという恐ろしい行為を危うく果たしてしまいそうになった。


「だが父さんは解放された。彼のおかげで自分を取り戻すことができたんだ」


 血まみれの、自分の手で害した青年を見やり、自分をモンスターという屈辱的な存在から解放してくれたこと、娘を助けこの手で殺さずに終わらせたことに感謝を送った。


「名前はなんと?」

「あの人はシンジさんです。ミナモト・シンジといいます」

「シンジ……それがあの者の……」


 静かにシンジの名を口にするルイゼン。そんな父を見ていたテレサはこれからの事に期待を湧かせていた。


 母はいないが、父は此処にいる。今日から家族と過ごせる日々が来る。

 家事をして、一緒に食事をして、仕事をする……これが嬉しくないはずがないものだ。


 しかし、それは訪れる。テレサにとって残酷な時が。


「……あ、え……?」


 ルイゼンにさらなる異変が起こる。

 身の一部が粒子に変わり、粉状の光が頭上へ蒸気のように昇っていく。


「なんですか、これは……何が起きているんですか?」

「お別れの時が近づいたようだ」

「え⁉ そんな……!」


 ルイゼンは自分の身に起きている現象を既に理解していた。


 自分はもうすぐ消える。死者なのだから。

 この現象はこの世に存在できるタイムリミットが近づいていることを教えている。汚穢の呪縛から解放された今となっては現世からの消滅を待つのみだ。


 これでいい、とルイゼンは運命を肯定する。

 愛する家族と再会し、言葉を交わせた。

 悔いは無い。思い残すことも無い。ちっとも死が怖くなかった。


「あ、嫌……」


 その反対に、テレサはまだ父の消滅を受け入れられていなかった。

 二度目の死を迎える。そうと分かった時、表情が曇りだす。


「お別れしたく……ないです。行かないで」


 死に別れ、残された者はその魂を離すまいと縋る。まだ少ししか会話していないのに、もう消えるとは酷ではないか。

 血の繋がった者が消える。母を失って以来、本当の家族がいなかった生活を続けていたテレサは父にいつまでも居て欲しいと願う。


「一人にしないでください……」


 娘の悲しむ姿を見て、ルイゼンは儚げに眉を傾けるも、晴れやかな雰囲気を崩さなかった。


「それは難しいな。私は死人だからね。いるべき場所へ戻らないと」

「でも……!」

「テレサ、聞きなさい」


 娘の肩に父の手がそっと置かれる。

 ルイゼンはひたすらに真っ直ぐな瞳で娘を見据えて、語りかけた。


「いつまでも後ろ(、、)を向いていては駄目だよ。歩みを止めた者をずっと見てはいけない。生きている限り前を向いて歩かないと」


 それが生きている者の務め。たとえ共に歩む者がいなくても、命尽きるまで進み続けるべきだとルイゼンは訴える。


「そんなの……私にはできません。できないんです……」

「テレサは強い子だ。父さんはよく知っている。それに君は独りじゃないんだ。保証するよ」


 それにね、とルイゼンは付け加えてテレサに言う。


「母さんのところに行かなくちゃ……」

「あ……」


 自分には愛する者が待っている。テレサの母にして、自分の妻が。

 母の存在を思い出した時、テレサは引き留める言葉を失った。


 娘の頭を撫でてあげるルイゼン。それがテレサにしてやれる父からの愛情だ。


「さよならだ、テレサ。君に光があらんことを──」


 昇る粒子は濃くなり、その身体は完全に光の粉と化して昇華した。

 最後まで彼は微笑んでいた。娘の幸福を願って。


 目の前で消える家族。父のいた空間に手を伸ばすも、光の残滓はすり抜けて消える。

 消えた光を見送って、テレサは事実を突きつけられる。

 もう父は此処にはいない。彼は旅立ってしまった。


 これでお別れと思うと、名残惜しむ。

 まだ話したいことが沢山あった。これまでの事を話してやりたかった。


 しかし、モンスターから解放され、母のところへ行った父をどうして止められるのか。

 居てほしいと願った反面、送りだしてあげたい気持ちだって生まれてしまった。


 涙は止まらない。目元は熱く、温かいものが頬に筋を作る。


「テレサ……」


 弱々しい声が、二つの感情の間で揺れるテレサを現実に引き戻す。

 シンジはその場に蹲り、今にも途絶えそうな息を何とか続けて生に齧りつき、死の手を振り解いていた。


「どう、だ? 約束、守れただろ……?」


 ひゅう、ひゅうという吐息が混じる。良くない状態なのは見ただけでも解る。

 身体に穴が空き、苦渋に苛まれてもシンジは笑っていた。

 父娘のやり取りを覚束ない意識で見守り、ルイゼンが満足に旅立っていったことに完遂を得た。


 約束。両親の墓の前で交わしたものは確かに果たされた。

 己が身をこれほどまでにボロボロにして。


 たとえその身体がソールを超える超常の身であっても、自分の命を顧みず容易く天秤に掛ける姿勢にテレサは危ぶむ。


 これまでもそうだった。そして、これからも何かをするたびにシンジは傷付いていくのだろうか。

 テレサは憐憫に近いものを覚える。そのひたすらにやり遂げようとする姿勢に。


 けれど、そうまでしたことで父は魂を清められたのだ。


「……はい」

 

 涙を拭い、テレサは笑顔を咲かせる。


「もう、それはとても──感謝しきれないほどです」


 全ては終わった。約束は果たされた。

 思いがけない形ではあったが、父親は確かに救われた。シンジの手によって。


 ならば自分は喜ぶべきだ。笑顔で応えるべきだ。


 震える創痍の身に、テレサは寄り添って治癒を施す。瀕死を負った重傷者には雀の涙ほどの効果だが、彼女にはまだ伝えねばならない事があった。


「でも怒ってもいるんです。急にあんな事を言って……恥ずかしかったんですよ?」

「え……あぁ、あれは咄嗟にな……」

「後で怒ります。話を聞いてとっても怒ります」

「それは……たいへ、んだな。杖で……なぐ、るのは……勘弁な……」

「殴ったりしませんっ」


 こんな時になっても、おどけてみせるシンジ。実際におどけているのかは読み取れない。というより今はおどける時ではなかろうとテレサは叱りつける。


「だからしっかり休んでください。今は元気になることを考えてください」

「お、おう。じゃ……遠慮なく……」

「ちゃんと起きてくださいね。私、シンジさんが起きてくれるのを待ってますからっ。これでお別れなんて嫌ですからねっ」

「心配……するなって」


 ふっと笑ってみせて、シンジの身体は脱力した。


 生気を感じない姿。聞かされた話によれ彼はこれから死に、一定の時間を要して生き返る……はず。

 それが今回にも通じるのか怪しく思うテレサだが、死んでほしくない以上シンジの話を鵜呑みにするしかなかった。


「シンジさん……」

「あっ、忘れてた」


 シンジが顔を突然上げる。彼はまだ死んではいなかった。


「俺の武器探してくんね? 落ちた時失くしちゃってさあ。大事なものだから頼むよ」

「もう……ちゃんと探しますから安心して眠ってくださいっ」

「頼んだ……ぜ……」


 頼み事を伝えると、今度こそ首がカクリと下へ向く。

 一時の死(ねむり)につき倒れようとするシンジを、テレサは優しく抱きとめた。


 少し冷たい気がする。人のものとはかけ離れた体温だ。

 これがさっきまで動いてたのだから驚きだ。


 痛いはずなのに、とても苦しいはずなのに、シンジは満ち足りた表情になっている。

 やり遂げた、と言わんばかりに。


「ありがとう、シンジさん」


 何よりも深く込めた感謝を耳元で呟く。

 もう聞こえないだろうが、それでも良かった。


 剣士の青年が黙って見守っている前で、極めて傷だらけのシンジの身を自分に寄せ抱擁する。

 冷たい身に自分の熱を分け与えるように、彼への感情を体中の温もりで伝える。


「好きです。貴方のことが、とても……」


 ぽつりと、シンジへの想いが溢れた。

 自然に言葉にした自分に驚き、すぐにそれを受け入れる。


 そうだ。自分はこの人が愛おしい。はっきりと自覚している。間違いようのないものだ。

 最初は淡く、今に抱いている気持ちはより強く形あるものとなっている。


 シンジとは故あって一緒に居てくれた。

 事が解決すれば彼はいなくなる。新たな地を目指してココルを離れるだろう。


 共に、一緒に居たい。そんな感情を強く覚える。


 少しでもシンジのことを知りたくて。時には笑って、泣いて、怒って。

 隣を歩いて、同じ風を感じて、同じものを見ていたい。


 彼の力と支えになりたいのだ。自分は。

 この人と――。


 テレサは意を決する。この腕に抱いた者の為に。




《リザルト》


・シュヴェルタルを浄化した。

・シュヴェルタルを討たずに戦闘を終了した。

・テレサを生還させて戦闘を終わらせた。

・カルドを戦わせずに戦闘を終わらせた。

・ロギニを退けた。



皆本(みなもと) 進児(しんじ)

《スキル》

『浄化』

 ・穢れた魂を浄化する。


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