第51話 生まれ落ちる運命
『来てくれて、ありがとう』
歓迎の喜びと共に落とされる祝福の時──。
この日、彼方より一つの命が産声を上げ生まれ落ちた。
誕生したのは、なんら変わりのない健やかな女の子。
優しい腕に抱かれた小さな赤子は何にも代えがたい贈りもの。
脆く壊れやすく、それでも輝石よりも遥かに素晴らしい宝だ。
自らの腹から生まれ出た命を以て母となった女は証明を知る。こんな幸せを貰っても良いのだ、と。
生きていてよかった、生きた意味があったと痛感する。血肉を分け与えた身でありながらも母なる女は慈愛の眼差しで感謝を伝えた。
『テレサ……』
なんて小さく、愛おしい子供。
閉じたままの双眸はまだ光を──世界を知らない。
この子はどんな子に育つのだろう。どんな人生を送るのだろう。
大きくなった時、どんな青春を送り、どんな人を愛し、どんな風に人生を終えていくのか。
千の道、万の可能性は確かな未来を教えてはくれないが、自由な光景を思い描かせてくれる。
どんな生き方でもいい。どんな道を選んでもいい。
強い子であれ。零下の冬を越え春先を迎える植物のような強さで自分の求める生き方を掴んでほしい。
たとえ己が運命を重ねることになったとしても――。
運命は不安定で誰にもわからない。現在へ至る旅路を歩んだ自分の時のように。
だからこそ強い心を育てよう。そこへ辿り着くしっかりとした心を。
それが親となった自分の役目だ。
『大丈夫だよ。この子は君に似ているから、どんな事があっても越えてみせるよ』
父となった男が語りかける。濃霧を取り除くような確たる口調で。
娘の未来に幸あれとも願うその言葉に根拠は無い。だが女はそれを聞いて深い安心を得た。
自分には夫がいる。この子も一人ではない。
現在も、きっとこの先も。




