第49話 深闇の底にて
其処は暗所――というよりも闇そのものと言える世界。
どこを見廻しても闇、闇、闇。
光の一切存在しない世界――視界を阻害し全ての感覚が断絶されそうな深き穿ちの底にロギニはいた。
ロギニが生む雑音以外は無音。小さな音さえ騒音に変わる。
何もかもが寝静まったそこは草の根ほども無く活気が全く感じられない……が、静かな空間の中に蠢く気配が続いていて、まさしく胃袋の中に居るような雰囲気だ。
やっとのところだった。勝てるはずだった。
それは自然法則と同じと言っても過言ではない当たり前のこと。
ネメオスライアーはモンスターの中でもかなりの強さがあった。
加えて強化を施してさえした。不死身にも至った。不死の猛獣を殺すなぞどこの化け物が殺せようか。
不死を殺す者が存在するならそれは英雄、または同じ化け者だ。
なぶり殺しにしてやろうと思ったら……あの意味不明な光だ。
ネメオスライアーを失い、優勢を覆されたロギニは光の奔流に灰にされる前に脱出、しぶとくも逃げ果たした。
思い出すだけでも忌わしい。逃げ帰った後しばらくは毒づいたものだ。
厚い持て成しを受けた傷は燃えるような痛みを主張する。掠めた火傷はまだ癒えていない。
止まず苛ませ続ける苦しみもまた虫の居所を悪くさせる。どこへ漏出することのない感情がロギニの身を震わせた。
「あの光は……」
轟々と流れる大河のような光流……あれは、いわば不具合だ。
二人が編み出したものではなく、女の光の腕が偶然にもオリジンの力の一片を引き起こしたのだ。
なんとも奇跡的なことか。あんな偶発的なものでやられるとは光栄だ。
チートスキルを消してまで追い詰めたのに……。
「まあせいぜい華々しい勝利に酔いしれてろ……」
一時の平和を勝ち取ったシンジに対し恨めしそうに呟く。
決して、決して負け惜しみなどではなく。
それよりも確かめたい事がロギニの頭を占めていた。
「アイツが降りた理由を調べねーとな……」
シンジ………オリジン……。
現在にして姿を見せた奴が何処へ向かうのか。
簡単には放ってはおけない。シンジは懸念材料だ。
ソランジュに行く為に必要だが、彼の動向は優先すべき行動を揺るがす。
奇妙な執着を向けるロギニはどこまでも絶対的な、思考すら奪ってくる闇と闘い続ける。
もしかしたら――と。
ひととき前まで敗北の苦味を浮かべていた口元がやがて歪む。
焦燥ではなく、薄ら笑いを。
気味悪い色に染まる唇は一つの思惑を含んでいた。
妖しい空気に包まれたロギニを目撃するのは暗闇と――奇妙な肉塊だった。




