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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第1章 出立

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第44話 君と紡ぐ想いの光


 腕の形をした光の塊がフィーリの右肩から伸びている。

 肉体部分の上腕部を包み、前腕から指先までの部分を光で形作っていた。

 無数の繊維状の光で織り込まれた腕は、生身のそれと変わらない輪郭を持ち、身体の一部として存在している。


「フィーリ……!?」


 目の錯覚かと疑った。

 モンスターが近くにいる状況ながら、あの腕を現実のものと認識するのは少し時間が掛かった。


 あれは何処でいつ手に入れたのだろうか。

 光腕の正体を確かめたくてステータスを覗いた時、シンジの神眼(ひとみ)にその正体が映った。



〔フィーリ〕

《追加スキル》

『神与形装・光の右腕』

 ・光の魔法で右腕を形成する。

 ・光属性の魔術の詠唱を短縮する。

 ・光属性の魔術の攻撃力がアップする。

  [着脱不可]



「いつの間に……」


 以前確認した時はあのようなスキルなど見当たらなかった。

 けれど……何となく手に入れた経緯を、誰があのスキルを授けたのか分かった気がした。


 星の光に負けず輝く腕は掲げられ、さらなる奇跡を生む。

 右腕の外面に花弁のように展開した物体は、フィーリにとって馴染みの深いシールドソードだった。


 追加で形成したのではない。右腕をその形状に変えたのだ。



 右腕(コレ)を身体の一部として慣らすのに時間が掛かった。

 存在しなかった部位を動かすのは想像以上に苦労する。初めは指を動かす、物を掴むことも思い通りにいかなかった。


 ひたすら動かす練習を繰り返し、感覚をようやく掴んでからはモンスターを相手に戦闘訓練を行った。

 それも、たった一人で。

 心の中の想いを整理したくて、単身で行動する日々が続いた。


 ソールに与えてもらったこの能力は体力の消費が大きく、苦痛がどうしても生じる。ただの人間には過ぎたる力だ。

 死の境が近い状態では尚更だ。彼女が抱える苦しみは凄まじいことだろう。



 それでもフィーリは立ち上がる。

 シンジを守るという意志を、この光腕(うで)に乗せて。



「チッ……怪我人のクセにまだ戦おうってか? いいぜぇ、まずはお前から惨めに殺してやるよ」


 病人のような顔つきに、平常ではない息遣い。

 瞳に宿った強い意志に対し、万全の状態とはかけ離れた様子がはっきりと確認できる。


 だからこそシンジに冷や汗を、ロギニに慢心をもたらす。

 驕り昂った感情が、無慈悲な命令を下した。


「予定変更だ。先に女をぶっ殺せ。場所は分かるだろ?」


 起き上がったネメオスライアーはシンジ――片脚を負傷し、いつでも殺せるような有様だ――への追撃を止める。


 標的を変更した巨体が方向転換。フィーリ達のところへ迫った。

 絶望をシンジに植え付ける。その為だけに。


「やめ、ろ……っ!」


 危うい思惑の通りにはさせない、と鞭を打って身を起こすシンジだが、満足に歩けずネメオスライアーに追い付けるような速さも出ない。


 後を追うも不安定な足取りは転倒を誘う。

 またしても大地の感触を味わうことになった身を何者かが踏みつけた。


 身動きを封じたのは、ロギニだ。


「お前……!」

「さあて、どこまで頑張れるかな~?」


 背中をぐりぐりと踏みつけながら、ネメオスライアーがフィーリ達の元へ向かうのを眺める。

 愉快げな視線の先では、レトが威嚇していた。


「下がって。私がやるから」


 これから始まる虐殺ショーに期待を馳せるも、程なくしてそれは水泡に帰す。

 フィーリの行動によって――。


 光の刃をただの得物と見誤ったのがロギニ、そしてネメオスライアーの油断となった。


 牙の餌食にされるより直前、フィーリが右腕を振り――シールドソードを模した光刃が伸び、喰らい付こうとする顔面に到達した。


「あぁ……!?」


 予測不能の光景に、意表を突かれる。

 軌跡が鞭の如く伸び、第一撃を被ったネメオスライアーを灼き斬ったからだ。


 右腕の光刃はある程度伸縮させる事が可能で、巨大なネメオスライアーと同等かそれ以上にリーチを取る事が出来るようだ。

 

 フィーリの意思に従って閃く光を目にするシンジ。

 神秘的な光景に感嘆と憧憬を込めて「すごい」としか言葉が思い付かない。


『グアルァアアアアァァァァ!!!』


 侮り、正面から被った獅子の怪物。

 熱を放つ傷に苦しみを溢しつつ、それでもフィーリに喰らい付こうとする。


 だがフィーリは怪物の接近を許しはしなかった。


「はあぁっ!!」


 もう一度、光刃を振るう。


 小さい者を恐怖させ蹂躪する巨体は機敏には動けない。避ける事は不可能だ。

 右腕から放たれた鮮やかな光は天の裁きが具現化したようであり、フィーリの強き想いを乗せて邪な巨獣を熾烈に断罪する。


「ヤバい……っ!」


 範囲を拡げた光刃がロギニの目前に接近し、間一髪で避ける。

 焦げる音は間違いなく現実のもの。あわや薙ぎ焦がされるところだったと思うと恐々とした冷たさを覚え、彼を引き下がらせるには十分過ぎた。


 憎らしく引き際の良い彼の足から解放されたシンジが次に見た光景は、苦しみの声を溢すモンスターの姿だった。

 角や牙は折れ、体液は煙となり、鎧のように堅牢な肉体は黒い血みどろの肉片を露出し、痛々しいものに変貌していた。


 身動(みじろ)ぎはしつつも、フィーリに迫る様子は無い、が――


「くぅ、うぅ……っ」


 あと一歩のところまで来てフィーリの反撃も止む。

 決して浅くない傷が猛攻を阻み、跪かせた。


「フィーリ!」


 片脚を引き摺り、その場に膝を突くフィーリの元に歩み寄っていく。


「しっかりしてくれ! こんな所で気を失っちゃダメだ!」


 今にも失神してしまいそうなフィーリを腕に抱える。

 苦しそうな息は以前よりも危機的な状態にあることを思い知らせる。想像せずとも自力でこの場まで辿り着き、その上であの力を使ったのだろう。


「ダメだね、私。ここまでしてもシンジを助けられないや……」

「そんなことないって。右腕(ソレ)、凄かったよ」


 惜しくも限界を悟ったのか、フィーリが自嘲する。


 けれど彼女の行動のおかげで助かった者がいる。それは確かな事だ。

 そう励ますシンジの言葉に、優しく抱えられた恩人は花のように穏やかな表情を浮かべてくれた。


 光刃の消えた腕はシンジも触れるようで、不思議な感触の上ほんのりと温かい。

 あのネメオスライアーを灼く程の熱を持っているようには思えなかった。


 よく戦ってくれた、と腕に抱えた人物を称える。

 左腕を失って、こんなに傷付いた状態になっても、あれだけの力を使って守ってくれたのだ。討伐者としてやれる事を尽くしたフィーリには感謝しかない。


 ズシン、と大地を穿つ振動に顔を上げると、ネメオスライアーが灼け爛れてグロテスクに変わり果てた面を向けている。なんともおぞましい表情だ。

 満身創痍になっても襲い掛かろうとするしぶとさ。強化を受けているとは言え底力が深い。


「もう終わりか? 意外に呆気ねえなあ」


 閃光が止んだのを見て、ロギニが姿を現す。

 フィーリの屈している姿に好機だと言いたそうな目を覗かせていた。


 腹立たしいその顔を歪ませてやりたいが、拳に込められた力はそこまで残っていなかった。

 誰もが満足には戦えぬ身。万策尽きたとはこういう事かと強く感ずる。


 だからシンジは己を見上げる小さな獣に言った。


「お前は逃げろ、レト。逃げて生き延びるんだ」


 せめてレトは生きてリージュに戻ってほしいと、そんな想いを込めて告げる。

 だが小さな顔は横に振られる。そんな事は願い下げだと訴えていた。

 傍を離れようとしない様子にシンジは呆れつつも、ふっと笑みを溢した。


『ヴル……ッ』


 痛ましい巨体が苦痛にフラつきつつ、三体の生物を捻り潰そうと進む。やかましい足音が時を刻む針となる。

 緩やかに来る脅威。じりじりと詰められ、張り詰めた空気が襲った。


「シンジ……」


 光の手が伸び、彼の左掌に――神素環紋と重なる。



 その時、奇妙な音が波紋を起こした。



「なんだぁ……?」


 音は心臓の鼓動に似ている。しかし何故かシンジ達には不気味さを感じられずにいた。


「今のは……なに?」

「この音は何処から……」

「…………シンジ?」


 フィーリは目撃する。彼の双眸が虹の彩りを断続的に灯していたのを。

 気のせいではない。またしても点滅したのを確実に見た。

 世界の端まで轟きそうな鼓動音の原因がシンジであるとフィーリは察する。


 謎の現象はまた新たな現象を誘発し、シンジ達を、さらにはロギニ達に驚愕を与える。

 神素環紋が光を放ち、フィーリの右腕もより輝きを増したのだ。


「あれは……新しいスキルか!?」


 謎の音とシンジ達に起った放光に困惑を隠しきれないロギニは、新たなスキルが芽生えたのだと己のスキル()で確かめた。


 そしてロギニの推測は事実に否定される。

 シンジとフィーリ、どちらのステータスに新しく追加されたスキルは無かった。


「スキルじゃない、だとぉ……!?」


 ロギニの眸には映らない。あの光が何なのか分からない。

 信じられない事だ。不思議な力があるならばその効果はスキルの項目に現れるはずだからだ。


(一体何だって言うんだ……!)


 理解不能、理解不能、理解不能。奇跡のカラクリを解けない。

 あれだけ他人を嘲笑っていた口端は悦が消え、濁水のような双眸は光を目にしても黒みを増していく。


「この光は……」


 謎の発光の正体を掴めないでいたのはシンジ達も同じだった。

 光を前に、シンジは考える。もしかしたら――と。


「フィーリ、手を握ってくれ」

「え? どうして……」

「やれる、かもしれない。俺に掴まるんだ」

「……わかった!」


 言葉にせずともシンジの思惑はよく伝わった。

 虹を映す瞳が可能性を見出させてくれた。


「いくぞ……!」


 支え合い、ネメオスライアーの前に立ちはだかるシンジとフィーリ。

 堅く握り締めた手は眩い光を生み、頭上に掲げた光刃に収束し膨張する。


 まるでシンジ達の希望のように――。


「どうなって……」


 しぶとく立ち上がり、輪郭を拡げる光点を纏って。

 あれだけ傷付いて、絶望的なまでに追いやったはずなのにまだ立ち向かうシンジ達の姿に、ロギニ顔がくしゃくしゃに歪む。


 腹立するほどに彼らの表情は陰りが感じられなかった。


「どうなって! どうなって! どうなってやがるんだあっ!!」


 抑えきれず、ロギニが子供のように地面を何度も踏みつける。

 どうやってもあれを覆すことは不可能だ。



 絶対的な敗北を確信した瞬間――膨れ上がった光は限界(、、)に達する。



「「はああああぁぁぁぁ――――っ!!!」



 極光へ至りし刃は振り下ろされた。


 ネメオスライアーに向かう輝塊が堰を失った水のように押し寄せる。

 弱小な生物を恐怖させる巨体は回避する余裕――あまりに範囲が広く、避けられる場所が見つからない――を与えられず、正面から直撃を受けた。


 シンジとフィーリが紡ぐ光の奔流は枝葉も揺らさぬ優しさを持ち、しかし邪なる者だけを苛烈に灼く。


「うおおおおぉぉぉぉ……っ!!」


 煌めく流れはロギニにも及び、横顔を掠める。直撃は免れたようだ。


 情けなく何処かへ消えた愚者に比べ、ネメオスライアーは耐える。逃げ場の無い光熱の帯を一身に受けても強硬に耐え続けていた。


 それでもシンジ達は諦めない。眩き心を胸に光刃を振り放つ。


 極光と堕ちた獣の攻防はなおも拮抗する。

 両者とも屈することなく力のある限りぶつけ合う。


 何もかもがクリアの世界へ変わろうとした時、それは起きた。 


 獅子の顔面が弾けていく。シンジ達の想いが打ち勝ち、実を結んだ。

 剛健な骨肉が溶け、巨体が崩れ始める。

 銀河の光輝に匹敵する流れは、ネメオスライアーを微塵も残さず灼き消した。



 地上より星の海へ伸びた光帯は粒子となり霧散する。



 この日、パニティア大陸の至る場所で光の柱を目撃した者が続出した。




《リザルト》


 ・ネメオスライアーを倒した。

 ・強化されたモンスターを倒した。

 ・討伐難易度の高いモンスターを倒した。

 ・初めて他人のステータスでスキルの着脱を行った。

 ・新しいスキルを獲得した。

 ・詳細不明の力でモンスターを倒した。

 ・フィーリとレトを生存させ、戦闘に勝利した。


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