第36話 来たる壮途
光が世界の全てを見渡している。
まるでソールが覗いているように佇んでいた太陽が、頂から西を目指し始めている頃。大木の前に俺達は居た。
お互いに静黙。俺はダガーを、フィーリはシールドブレードを構え、一言も発さないまま向き合う。傍で静かに見届けているのはレトだけだ。
ただただ動かず、相手の像を離さない。ひたすらに機を待ち続けている。
そんな状態が続き、長くも短くも分からない時間が風と共に流れていく中……蝶がひらひらと舞い、レトの鼻に止まった。
蝶の休憩場にされたレトはこそばゆくなったようで、ついにくしゃみを発した。
「「――――ッ!!」」
気の抜けたくしゃみを合図に、沈黙を解く。
地面に根を張る程に動かざるを徹した足に力を漲らせ、駆る。それはフィーリも同じだった。
やはりフィーリの方が速い。ステータスが高いから当たり前だが、ここまで素早く掛かって来ると恐ろしくもある。
ステータスも練度もあっちが有利。攻撃のタイミングもフィーリが先だ。
先手は取れないが、簡単にやらせてはなるまい。一手は防御に徹し、二手三手で徐々に追い詰めるんだ。今日ぐらいは白星を取ってやる。
「くっ……!」
まずはダガーで防御し、何とか一撃目を防ぐ。手加減してるとはいえ、得物同士の弾く衝撃がびりびりと伝わってきて痛い。
本当に手加減してるのかと呑気な事を考えてたら、じきにシールドブレードが襲い掛かる。
次の手は――!
「喰らえっ!」
左手を出し、この身に宿った能力――『神素環紋・日光』を発動する。
フィーリが持つスキルで効き目は薄いが、フェイントを掛けるには有効な手だ。実際にフィーリはこれに引っ掛かった。
ただのフェイントだったと理解した時にはもう遅い。
反撃させないよう攻撃っ、攻撃っ、攻撃だっ。
「どりゃっ、どりゃあ!」
間隙を与えさせない連撃。連なる斬撃をフィーリはただ盾で防ぎ続ける。ふっふっふ、防戦一方で手が出まい。
この猛攻に加えて、この盾を……思いっきり蹴るっ!
「ぁうっ…………しまった……!」
力強く蹴られ退いたフィーリが不覚にも石を踏んでバランスを崩したのを、俺は見逃さなかった。
「おおおぉぉぉぉ――っ!!」
剣閃をフィーリに目掛けて猛進。切っ先が空気を切り裂いて相手に迫る。
今日こそは白星取ったあ……!
「ッ――」
「は? え……?」
目の前の光景が、予想だにしなかった光景を見せる。
捉えたはずの刃が火花を散らして盾の表面を滑っていく。特に焦る様子のないフィーリが、落ち着いた手際でダガーの方向をズラしてみせたのだ。
刺突を躱したシールドブレードは下段から迫り……俺の身体を捉えた。
「うおっ、わ……!」
疾駆の勢いはブレーキが効かず、見事なまでに盾の上に乗っかる。
盆に載せた皿のように身体を持ち上げられ、脚が足場から離れる。足場を失ったせいで為す術無しだ。
「それっ!」
「わっ、ぐえ……っ!」
ぐんと盾が押し上がると、視界がぐるり。一転して青空に変わる。
ふわっと宙に浮く感覚が襲い――背中から地面にダイブした。
「うあ……痛ってえ………」
受け身を取れず、衝撃が身体を巡る。大地の厚い歓迎を全身で受けた上、何かがすぐ傍で鈍色の光を奔らせる。
それがフィーリの得物と思考が追い付いた時、決着が着いたと悟った。
「あっ……く……」
「よしっ、今回も私の勝ちだね」
突き付けられたシールドブレードの刃先が、模擬戦闘の終わりを告げる。
勝負あり。結果はフィーリの勝ち。俺の負けだ。まあ無論というか、本気で掛かって行っても勝つ見込みは薄かった。
「痛てて……やっぱフィーリは強いな。全然敵わねえ」
「伊達にモンスターを討伐してないからね。でもシンジも前よりも少しずつ確実に力を付けてる。反応も速くなってきたし、雰囲気も鋭くなってる」
「そ、そうかな……?」
手を差し伸べ起こしてくれたフィーリがそんな事を言ってくる。
討伐者としての力を見極め、認めてくれた事に嬉々たる感情を抱いてしまう。
込み上げる面映さと戦いながらも、自分のステータスを確認してみた。
〔皆本 進児〕
《パラメーター1》
体力:3668/5042(+50)
筋力:1028/9999
耐久:1032/9999
魔力:500/999
魔耐:500/9999
器用:1033/9999
敏捷:1030(+5)/9999
《パラメーター2》
技巧:114/999
移動:112/999
幸運:105/999
精神:107/999
《スキル》
『擬似・神核』
・あらゆる傷を完全に癒し、死亡しても復活する。
[着脱不可]
『擬似・神性』
・神の特性が備わる(文字や言葉が解る、など)。
[着脱不可]
『神眼(ステータス)』
・自身や他人のステータスを閲覧できる。
[着脱不可]
『育成』
・ボーナスポイントを使用し、自身を除くパーティメンバーの《パラメーター1》の能力値を増やす。
・自身や他人の保有スキルの着脱を行える(着脱不可のスキル有り)。
[着脱不可]
『絆の加護』
・パーティメンバーとの親密度を上げる事で、自身の《パラメーター1》の能力値がアップする。
[着脱不可]
『神素環紋・日光』
・日光の魔法を発動できる。
[着脱不可]
『ハイジャンプ』
・通常より高くジャンプできる。
『APハーヴェスター』
・モンスターを倒した時、APが手に入る。
『スタミナⅠ』
・体力が1%アップする。
『クイックⅠ』
・敏捷が0.5%アップする。
彼女の言った通り、微々だが確実に上がっている。
フィーリのように強くはないがパラメーターが上昇し、スキルも増えた事に成長の二文字を実感する。
「この調子ならシンジの言う旅に出ても問題無いかも。基礎は身に付いてきたし、無理でもしなければ大丈夫」
「ほ、ホントか?」
「うん。今までよく頑張ったね。でもまだ何日か鍛えよう。どれだけ強くなっても相手はモンスター。手慣れても経験は安全を保証してくれないからね」
「ああっ」
高鳴るものを抱き、緩やかでありつつも確実に付いた成長を祝うように快い面差しを咲かせるフィーリに応じる。
やっと……やっとか。もうすぐで旅に出れる。ようやくスタートを切れるんだ。
でも旅に出るって事は……フィーリやメアさんとお別れする事になるのかあ。そう思うと少し寂しくなるかもな。なにせ非常に大変そぉーな長旅になるからな。
寂しく思うくらいにはリージュでの生活に慣れ親しんだ。二人には大変世話になった。
……って、なーに湿っぽい事考えてんだ。生き別れとか永遠に会えないんじゃないんだからさ。
旅が終わればゆっくりできる時間もあるはずだ。その時になってまたフィーリ達のところへ遊びに行けばいい。
「そろそろ街に戻らないと」
「また手伝いか。精が出るねえ。見習いたいですわー」
「だったらシンジも一緒に行く?」
「やめときまーす」
「断られちゃったか。シンジはこのまま討伐に行くんだよね? 暗くなる前に帰るんだよ。今日はレトも付いて行かないから、しっかり用心してね」
「おー。そっちも頑張れよー」
念を押し、恒例行事の為に一旦リージュへ戻るフィーリに軽い鼓舞を送る。
踵を返したのを見計らって、共に去ろうとするレトには軽蔑を送ってやった。
「キュィ……ッ」
ガンを飛ばす利口な獣は、「後で覚悟しとけよ」と醸す。おお怖い怖い。




