第35話 影の覗眸
「……こんな所に居たか」
遠く、シンジ達を陰から観察する視線が一つ。
音も無く現れた者は誰にも存在を感付かれる事なく、二人と一匹――特にシンジを、汚濁の双眸に映していた。
「なんだありゃ。バカ丸出ししゃねえか。ふざけやがって……」
金髪の女と会話を交わしてるのか豊かな反応を晒すシンジの姿に、血の気が無い白黒の顔が歪む。まるで己の恥部でも見るように忌まわしく眺めた。
不快。不快。極めて不愉快。
この苛立ちは……ああ、そうか。これが愚かな真似を行う身内を目の当りにした時の羞恥と、その後にやって来る行き場の無い怒りというものかと彼は理解した。
……シンジを身内と呼ぶかは甚だ疑問だが。
フンッ、とクソ溜のような情を捨てるように鼻を鳴らし、彼は企てる。
「次は仕掛けてみるか。とびきり強いのを連れて来てな……」
瞳と同じく、人とは思えないどす黒い唇が気味の悪い笑みを作り上げた。
人外じみた白黒の肌の青年は、リージュへ帰り行くシンジ達の背に妖しい眼差しを送る。降り出した雨の中で不吉な先行きを告げて……。
シンジはまだ知らない。その身に降りかかる危機を。
そして――深い喪失と、旅路を呪う長き因縁の始まりが遠からず訪れようとしていることを。




