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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第1章 出立

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第31話 アピス族


 リージュに来てから何日か経つ。

 清純な川の流れを前にメランコリックな気分に浸る。悩みの種がいくつかあったからだ。


「全然強くならないなー。仲間も出来ないし……」


 自分のパラメーターを見て溜息を一つ。鍛錬しても討伐してもあまり上昇しない現状に溜息しか出てこない。

 パラメーター値を上げるボーナスポイントも使用できず、ただ溜まるばかりだ。


 来たる旅立ちに備えパーティメンバーを募っているが、これが上手くいかない。

 長期の旅路という事もあって全員断られてる有様だ。却って清々しい。


 しかも最近はフィーリに会っていない。この頃は朝早くから夜遅くまで出掛けてるらしく、彼女の姿を見かけることも少なくなった。

 たまに会ってもろくな会話を交わせず、何があったのかは教えてくれない。


 一体どうしたんだろ? 怪我でもしなけりゃいいけど、ちょっと心配だ……。


「キュキュー」


 おっ、この鳴き声……街の通りからやって来る小さな影はレトだ。

 何の用……と言っても監視の他無いよネー。


「キュッ」


 駆けつけたレトは背中に布袋を背負ってる。俺宛てなのか受け取れと言ってるような様子だ。


 何だ何だ、中に何が入ってるんだ?


「……げっ」


 結びを解いた袋の中に入ってたのは、ライフポーションとコンシール――それも二個――だった。


 これは……フィーリからの餞別か。ライフポーションは有難いが、コンシールはもの凄くいらない。死線を彷徨わせる劇物など食べたくはない……。


「コンシールはお前にやるよ。お前が全部食べるんだ」

「キュッ」


 ライフポーションだけを取り、残り(コンシール)を返すもレトは拒否。コンシールの入った袋をくわえて持ってくる。


「だからいらねーって」

「キューッ」

「っ、この……っ」


 どう除けても頑なまでに渡してくるレト。フィーリに命令されたのか絶対に食べさせる気だな。


 ならば……!


「取ってこーい!!」

「キュアーッ!?」


 コンシール入りの袋を手に、空の彼方へ思いっきり投げる。

 空に吸い込まれた袋はみるみる小さくなり、街の一画へ消えていく。


 なかなか見ることのない一面を見せたレトはそれを追いかけ、コンシールの消えた方へ駆け出した。


 うっはははっ、良い気味だ。わざわざ回収しに行くとは律儀な奴だ。


「…………はあ」


 愉快な気分は束の間。慌てる尻が見えなくなった途端に憂鬱が舞い戻る。


 何してんだろ俺。レトをからかっても問題はどうにもならないのにな。

 パラメーターも上がらない、パーティメンバーも集まらない。これではどうにも先行きが不安だ。


 せめてこの……スキルで戦い方に工夫を凝らしたいが、これがなかなか……色んな人のステータスを見てみたが、これと言って興味を引くスキルは見つからなかった。

 フィーリのような珍しいスキルもだ。というかフィーリの持つスキルが貴重過ぎるだけだ。


 そもそもスキルって他人が持っているものを外すしか入手出来ないのか? 何処かで手に入れる方法は無いのだろうか?


「強いスキル欲しいよなー……」


 都合良い事があるわけ無いと、せせらぎの傍で嘆声を吐露する。だが――



「そこのアナタ、スキルをお求めですカ~?」



 川に流されていくはずだった独り言に、少女の声が答える。間延びした口調の主は、いつの間にか背後に立っていた。


 パンパンに詰まった大きなリュック――体格よりも大きいが、重たそうにしてる様子は無い――を背負い、頭には獣の耳が付き、着ぐるみっぽい服装をしたコミカルな姿をした来訪者は、リージュの街に初めて来た時に見かけた妙な女の子と寸分なく一致していた。


「お前は、この前の……」

「ドウモ初めましテ~。ワタシは『アピス商会』の商人デース」


 やっぱり変な喋り方をするな。喋り方に対して無表情だし、胡散臭え……。

 しかもアピス商会? 初めて聞いたな。


「アピス商会って何だよ?」

「我がアピス商会は『アピス族』の旅商デース。アイテムの売買をやっておりマース。最高責任者はミサハ様デース」

「アピス族?」


 へー、そんな種族が存在しているのか。

 獣耳と尻尾以外はほぼ人間と変わりないように見える。コスプレで付けてるように見えるが、もしかしてこの獣耳……。


「オォーゥ。いきなり自慢の耳を触ってくるトハ……くすぐったいデース……ッ」

「あっ、すまんっ!」


 本物かどうか確かめたく、うっかりと耳を触ってしまった。

 少女がぷるぷる震え、顔を赤らめたところで慌てて手を離す。現実世界(あっち)だったら事案発生だったな。危ない危ない。

 

 あの耳、作り物じゃない。動物の耳と変わりない触り心地だったぞ。

 人間の耳も付いてるが、どっちが本当の耳なんだ?


 アピス族……異世界には人間以外の種族が居てもおかしくはないが、こうして会うと未知の常識(かんかく)に触れた気がして新鮮だ。


「それで、アピス商会ってのは色んな場所で物を売ってるんだな?」

「旅人や討伐者、人里の外で活動する人達の為、私達アピス商会は世界中を旅して今日もアイテムを売り続けていマース」


 それは痒い所に手が届くな。アイテムが必要な時にアピス商会が居たら街に戻る面倒も無くて済む。

 でも、こんな小さい女の子が商人を……?


「旅商って……道中でモンスターに襲われたりしないのか?」

「大丈夫デース。私達アピス商会はモンスターとの遭遇を避けるコツを覚えていますノデ」

「コツ? どんな?」

「ソレは教えられまセーン。禁則事項デス」

「なんじゃそりゃ」


 教えてくれないのかよ。そんな事言ってからかってんじゃないだろうな?


「私達アピス商会はアイテムの売買が(おも)デスガ、金融もやっておりマース。契約してお金を預けて頂けれバ、各地に居る仲間とお金の貸し受けができマース」


 ほほーう、金の貸し受けもやってるのか。これは便利かも。いわば移動するATMだもんな。


「アナタ、スキルをご存知ですネ?」

「お前もスキルを知ってるのか?」

「エエ、知ってマストモ。我がアピス商会はスキルの書(、、、、、)を販売してマスカラ」


 はっ? スキルの……書ぉっ!?


「お前の商会はそんな物を売ってるのかっ? それはスキルを習得出来るのか?」

「ハイ。スキルの書はスキルを身に付ける事が出来マース。デモやり方が特殊ナノデ普段は全く売れまセーン」


 スキルの書……初めて聞いた。リージュの道具屋には何処も売ってなかった物を扱ってるとは、アピス商会はデキるな。

 いや、デキるというかスキルを売るとか普通じゃないぞ。スキルは有形じゃないからな。


「お前らアピス商会はどうしてスキルの事を知っている? どうやってスキルの書を手に入れたんだ?」

「ソレは教えられまセーン。ミサハ様曰く『企業秘密だゾ☆』だそうデース」


 企業秘密かよ。モンスターに襲われないコツを教えてくれないし、アピス商会はよくわからんな。

 実はヤバい商会だったりして。ていうかミサハ様ってどんな奴だよ。


「まあいい。じゃあスキルの書を売ってくれ。いくらで売ってるんだ?」

「一冊一万五千カンドからデース」

「高ぁっ!?」


 このダガーよりも遥かに高いぞ! 働かなくても何日か食っていける額だ。

 ぼったくりも良いところ……いや、これは相応の額かも。スキルが身に着くのならそれくらい払う価値はある。


 スキルにもよるがやっぱり高い。そこまで金を持ってないぞ。


「や、やっぱり止めておくよ。また今度な」

「……とイウのは通常の売買になりますガ、現金の他にスキルの書を購入できる方法がアリマース」

「もう一つだって?」


 お金の他に入手方法が? 物々交換か?


「ソレは……『アピスポイント』デース」

「アピスポイント?」


 なんだそりゃ? ボーナスポイントの親戚か?


「ハイ。アピスポイントとはモンスターを倒すと手に入るポイントデース。貯まればスキルの書と交換できマース」


 スキルの書と交換できるポイントねえ。モンスターを倒す必要があるのか……。

 でもポイントって言うくらいだし、一万五千カンド払うよりは安く手に入るかもしれない。


「ヨリ多くのモンスターか強いモンスターを倒セバ大量のアピスポイントを得るコトができマース」

「モンスターを何体か討伐してるけど、アピスポイントなんてもの手に入らなかったぞ?」

「ご心配ナク。この書に記された『A(アピス)P(ポイント)ハーヴェスター』のスキルがあればアピスポイントが貯まりマース。ドウゾ受け取ってクダサーイ」


 アピス族の少女はそう説明し、怪しい装丁をした薄い本をスッと手渡す。

 これがスキルの書か? 厚そうなイメージがあったが意外と薄い。


「お近づきのシルシにスキルの書をイクツかサービスしマース」


 リュックサックからも書を取り出し、次々と乗せていく。

 見る間に手の上がスキルの書だらけになった。


「おぉっとっと。こんなに貰っていいのか? 金取らないよな?」

「コレはお客様への特大サービスデース。ガ、スキルは慎重に扱ってクダサイ。保有者が命を落とせばスキルは消失しますノデ」

「は? えっ。死んだら……消失!?」

「オヤ? ご存知ありませんデシタ? 一部を除イタ大抵のスキルは保有者が死ぬト消えてしまいマース。この『APハーヴェスター』は処理(、、)を施していマスノデ消えマセーン。安心してクダサーイ」


 スキルにそんな特徴が……保有者が死んだらスキルも一緒にお陀仏か。

 俺のスキルは死んでも消失した事が無い。死んでも消失しない例外の内に含まれているんだ。


 これまでに死んだ回数は二回。隣り合わせどころか経験すらしてるのだから、スキルの扱いには気を付けなきゃ……。


「どうやったらスキルを装着できるんだ?」


 スキルの書を貰ったのはいいが、スキルの装着方法がわからない。この本からスキルを入手するイメージも湧いてこない。


「書に記された文字を指で触れてクダサイ。最後の文字まで行くト文字が光りナガラ浮かび上がりマース。どこでも良いノデ対象者の身体に押し当てルとスキルが付きマース」

「押し当てる……イマイチ想像が付かんな……」

「実際にやってみると簡単デース。時間の空いてる時に試してみてクダサーイ。タダシ……」

「ただし?」

「我がアピス商会が販売するスキルは、個体によって装着できる数に限度がありマース。限度に達するとソレ以上はスキルが装着できマセーン。よく考えて装着してくださいネ~」


 なるほど。スキルは人によって付けられる数に限界があるんだな。全ての人間がスキルをたくさん付けられるとは限らないのか……。


「色々ありがとうな。せっかくだから金も預けるよ。ほら、100カンドだ」

「我がアピス金融へのご利用デスネ? 100カンドお預かり致しマース。デハ……」


 アピス族の少女は預かった金を収め、懐から一枚のカードを取り出す。

 その表面に小さな指を滑らすと、カードが少しだけ光った。


「ドウゾ」


 光が消え、手渡されたカードには、『アピス金融』のロゴと貸し与えた金額が表示してあった。これは証明証か何か?


「コレは契約証デース。お金の貸し受けをシタイ時はコレをアピス商会の商人に提示してクダサーイ。契約証は丈夫な素材ナノデ、燃えるコトもふやけるコトも破れるコトもありまセーン。失くさないヨウ肌身離さず持っていてクダサーイ」

「今のどうやったんだ? 魔術の類か?」

「企業秘密デース。詳しくは教えられまセーン」


 また企業秘密か。謎が多い商会だな……。

 だが金が必要になったらアピス商会を利用するか。スキルとアイテムの購入も含めてな。


「それデハ、私はこれで失礼シマース。アイテムやスキルの購入をご希望デシタラ、我がアピス商会をご利用くださいネ~」

「するする~。スキルが必要になったら買いに行くから」


 最後まで表情の起伏が乏しかったアピス族の女の子はやはり無味な表情で挨拶を送り、リュックサックを背負ってその場を離れた。

 体格に不釣合いなバックパックを背負う小さな後ろ姿は雑踏へ消えていく。辺りはせせらぎ音だけが残った。


 よしっ、じゃあ早速スキルを試してみるかな。どれどれ~っと。


「『ハイジャンプ』……」


 数あるスキルの書から、如何にもわかりやすいタイトルが目に付く。

 本を開き、説明文を読んでみるとタイトル通りジャンプ力が高くなると記載してる。装着するとマ●オみたく飛べるんだろうか?


「えっと、書に書いてある字に触れるんだったな」


 彼女の説明を思い出し、書に記された字――こっちは説明文と違い、変わった文字で解読できない――の羅列を触れてみる。最後の一字まで達すると……文字が光り、書面から離れだした。


 あいつの言った通りだ。次はこれを対象者の身体に押し当てれば終わりか。


 光る文字の羅列を身体に押し当てる。触れた文字達はちょっとだけ強く光り、水に溶けるようにウニョウニョ変形して身体の中へ消えた。


「……特に変わった感じはしないな」


 身体が少し熱くなったとか妙な感じがするとか何かしらの異変は感じない。これでスキルの装着が終わったのか疑わしくもある。


 本当にスキルが身に着いたのか確かめようと、ステータスを開こうとした……その時、書の紙片から鉄灰色の炎が現れ、あっという間に書を包み始めた。


「うおおっ!?」


 熱つつつっ! 熱っちいっ!


 慌てて手を離し、手元から離れたスキルの書は地面の上で燃えていく。

 鉄灰色の炎が起こす燃焼は通常のものとは違い、スキルの書をいともたやすく灰へと変えた。


 か、勝手に発火した……。

 これって、スキルを装着したから用済みとなって燃えたのか? 

 ステータスの方は? スキルに変化は起きてるのか?



《スキル》

『ハイジャンプ』

 ・通常より高くジャンプできる。



 おおっ! 本当にスキルが付いた! スキルが身に付く書は本当だったんだ! スキルの書すげー!

 じゃあどれだけジャンプ力が上がったか試してみよう!


「とうっ!」


 おっ、普通に跳んだだけでも一メートル以上は行ったぞ。これがハイジャンプのスキルの力か。

 なら次はもっと高く跳んでみたらどうだ?


「おぉっ! おおぉっ!」


 走って跳躍すると、一気に地面から離れていく。十メートル以上は跳んだだろうか。川が地面に居た時よりも小さく見える。


 これは跳べる跳べる~。スポーツ選手よりも高く跳べるぞ~っ。


「それ~っ」


 アピス族の少女から貰ったスキルの性能に心が躍り、何度も大ジャンプを繰り返す――――が、地面に着地した時、片足がグキリッと嫌な音を発した。

 足首にとてつもない激痛が走る。


「アシクビヲクジキマシター!」


 ふぬおおぉっ、痛いぃ……! 調子に乗り過ぎたぁーっ!


「キュキューッ!」


 着地失敗で捻ってしまった足に悶絶してると、鳴き声が耳朶に飛んだ。


 嫌な予感。会ってはならないものが近付いている気がする。

 振り向けば、一個のコンシールを口に咥えてダッシュしてくるレトの姿が大きくなりつつあった。


「しまった……!」


 ま、まずいっ! あれは……コンシールを食わせようとしているっ!

 俺にはわかる! 第六感がそう告げているっ!


 早く逃げ――!


「キュッ!!」

「ふぶおぉっ!」


 逃走を試みるも、挫いた足が()枷となって阻害する。

 結局逃げ切れるはずもなく、レトにコンシールを投入されてしまった。


「あがががががががが……っ!!」


 ひどく食物から逸脱した死の味が、口中で激しく暴れ回る。

 胃の中でとろけていくコンシールは、目前の川を三途の川に変えてくれた。




《アイテム》


『APハーヴェスターの書』:スキル『APハーヴェスター』を付与する書。


『スタミナⅠ』:スキル『スタミナⅠ』を付与する書


『クイックⅠ』:スキル『クイックⅠ』を付与する書。


『インビジブルβの書』:スキル『インビジブルβ』を付与する書。


『リカバリーγの書』:スキル『リカバリーγ』を付与する書。


『ハイジャンプの書』:スキル『ハイジャンプ』を付与する書。


『マーベラスヒット』:スキル『マーベラスヒット』を付与する書。



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