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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第1章 出立

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第28話 大樹の下で


「らっしゃい!」


 フィーリ達と別れ、クエスト案内所の近くにある武器屋に寄った。

 店の中は右も左も武器がずらっと並び、金属の匂いが鼻腔をくすぐる。店の奥側には作業場らしい空間があって、鍛冶も兼ねているらしい。


 本物の武器はどれもこれもカッコいい。鈍色の光をちろりと返す姿に溜め息が出ちゃう。


 この中のどれかが俺の得物になるのか。そう思うと胸が高鳴ってくる。

 フィーリがくれたお金と相談しつつ、自分に合った武器を買うか。


「ん……?」


 店内は店員の他に客が一人居た。


「…………」


 相手は同い年ぐらいの男で、いかにもファンタジーや二次元に居そうな細身のイケメンだ。

 外国人ばりの整った外見に長い脚、全体的にすらりとした体型が良く映えている。大抵の女の子は一度見たらときめいてしまいそうだ。


 既に用事を済ませたらしく、男は手に持っていた剣を腰に吊り下げて――彼も武器を買いに来たんだろうか――店を出て行こうとする。出て行く直前にすれ違った。


「……」


 すれ違いざまに一瞥したその男は、無味な表情が加味してるのもあって他人を寄せ付けぬ氷の雰囲気がある。

 混じり気の無い爽快な色の瞳は海のようで、けれど……何故か濁って見える。


 そんな印象的な事もあってか、彼が武器屋を出て行くまでその背中を見送った。


 なんだったんだ、イケボ声優が声やってそうなあのイケメンは……。

 まあいいや。さーてっと、どれにしようかなー。さっき出て行ったイケメンみたいに剣にしようかな~。



 なんて思ってたのも束の間、胸に抱く高揚は長く続かなかった。


「さ、3200カンド……っ」


 武器屋の一角にあるそれはアイアンソードという名の武器。文字通り鉄で造られた剣だ。

 手持ちの資金は3000カンド。値段に対して200カンド足りない……!


「高い……」


 空虚な呟きが、金属香る武張った室内に溶け込んでいく。


 剣にしたかったけど、この店で売ってる剣はこれが最低金額だ。

 だがこの値段じゃ買えない。諦めて他の武器にしよう……。

 でも3000カンドで何が買える? 3000カンド以内で買える武器はあるのか?


「あ、あの……3000カンドで使いやすそうな武器って売ってます?」


 店員に相談し、3000カンド以内で買えそうな武器をいくつか紹介してもらう。

 その結果、選んだ武器は……。






 武器屋を後にして街を出た俺は、視界いっぱいに広がる穏やかな野原を踏みしめ、威容を誇る大樹を目指す。

 街の外といえど常にモンスターが徘徊してる事は無く、周辺にヤツらの姿は見当たらない。これなら安心して歩けそうだ。


 圧倒的にわかりやすい目印を頼りに進んでいく。街が小さく遠のいた頃、樹の根元に見慣れた姿があった。勿論、フィーリとレトだ。


「おーい、フィーリ――」


 近付くにつれフィーリ達の姿が大きくなり――声を奏でる彼女の姿に気付く。

 フィーリはレトの身体を撫で、歌を歌っていた。




「――いとまことなる光 瞬いて

 穢れの坩堝に舞い降りた

 さまよう灯光 陰をはらって道標となる

 されどその極光 視ることあたわず

 心により捉える」



 

 広く、開けた場所にただ一本、リージュを見守るように佇む大樹の下で響く声音は、木の葉を揺らす微風のように優しく、しかし言葉の一つ一つに力強さが込められているように耳朶を撫でる。


 透き通る調べに魅せられ、待ち合わせ場所に着いたばかりの俺はその歌に自然と聞き入った。




「小さき光 消えること願わず

 より眩き輝きを放つ

 定めなき穢れ 慶びなき穢れ

 始源よりもたらされた澱み

 彩光帯びし明星

 これをすすぎ 憐れみたもう……」




 歌はそこで終わり、フィーリが振り向く。歌うことに気が行ってるかと思いきや実は俺の気配に気付いていたらしい。

 寝ていたレトもやれやれと言いたげに起き上がった。


「やあ、待ってたよ」

「お待たせ。今のは……」

「聖歌だよ。ミサで歌う歌の一つなんだ」

「歌……もしかしてソール教の?」

「うん」


 聖歌はあまり知らないし現実世界の生活(いつも)はアニソンばかり聞くけど、今の歌は心地良かった。フィーリが歌っていたおかげもあるか?


「フィーリは歌が上手いんだな。歌も良かったぞ」

「ありがと。聖歌はどれも良い歌だから今度教会に来てみる?」

「ソール教の? そうだなあ…………お?」


 一段と強く、それでいて穏やかな風が間に入って駆け巡る。清涼をもたらす大気の波は、そびえ立つ大樹を撫でた。

 ざわつく枝葉の塊。合唱してるようにも見える姿は、コンクリートジャングルに住み慣れていた自分を精神的に癒してくれる。


 現実世界じゃなかなかお目にかかれそうにない幻想的な自然の光景に、いつの間にか視線を奪われたようだ。


「これ、クスノキって言うんだよな? 近くに来るとかなり大きいな」

「樹齢千年以上は生きてるって。長生きだよね」


 風に揺れる金糸を押さえながら見上げるフィーリ。

 クスノキを見つめるその表情が……非常に安らいでいる。


「私もレトもこの樹が好きなんだ。クスノキの近くにいると落ち着くの。まるで穏やかな流れの中にいるような気分。ここはモンスターがあまり寄ってこないからたまに来るんだ」


 確かにこれは……この樹の近くに居ると落ち着くな。これからモンスターの討伐に向かう事も忘れてしまいそうだ。


 でもフィーリのあの表情は……落ち着いている以上の信頼を寄せてるような感じがする。とても深い安らぎだった。


「それって武器だよね? へぇー、ダガーかあ」


 フィーリが俺の腰に着いている物に気付く。


 そう、俺が選んだ武器はダガー。剣よりも軽くて扱いやすいが、リーチが短くナイフと大差が無い。馴染みの薄い日本ではダガーナイフとも呼ばれてる。

 ちなみに討伐者登録祝いという事で、店員が気前よく革紐とホルダーをサービスしてくれた。


「これしか買えなかったんだよ……」

「3000カンドじゃ大した武器は買えないね。かと言って良い物を手に入れても今のシンジには勿体ないかも」


 それは宝の持ち腐れって意味か。確かに剣でも何でも使い手がダメだったらナマクラ同然だ。

 だけど逆に言えばダガーでも戦い方を極めれば強いって事だよな。


「シンジは扱いに慣れてるの?」

「ぜーんぜんっ。これっぽっちも」


 ダガーなんて日本じゃ銃刀法違反だから慣れているはずがない。ナイフの延長線と考えればそれなりに出来るけど練度はほぼ無い。


「じゃあ行く前に特訓をしようか。シンジに戦い方を教えてあげる」

「へ? 教えるって……フィーリが?」 

「そうだよ。私じゃ不満?」

「いやいや、有難いよ。有難いんだけどさ……教えるも何も武器が違うんじゃどうにもならないんじゃ?」


 こっちはダガーで、フィーリはシールドソード。そもそも戦闘のスタイルが違う。さらに言えばフィーリの戦闘スタイルはマイナーな方だと思う。

 これじゃフィーリから戦い方を教えてもらっても参考になりにくい。


「それもそうだね……別の子に戦い方を教えた時も言われたなー」

「じゃあどうするんだよ?」

「決まってる。慣れる(、、、、)しかないじゃん」


 慣れる……?


「ほら、武器を構えて」

「お、おう……?」


 言われるがままにダガーを取り出し、初心者感満載の構えで向き合う。


 慣れろって、どうする気だ……?


「それじゃあ…………はあぁっ!!」


 何が始まるのかと思った瞬間、フィーリの左腕がブレて――がぎんっ!! と。

 シールドソードの剣刃がダガーにぶつかり、火花を咲かせた。


「はぇ…………?」


 脳が起こった事をありのままに捉える事が出来ない。

 やっと追い付いて……身体が惨めに戦慄いた。


「アイエエエ!? ナンデ!? フィーリナンデ!?」


 あ……危なっ! フィーリの得物がすぐそこにっ! 狙いが反れていたら大惨事だったぞ!


「こうした方が身に付きやすいと思って。以前もこうやって教えたんだ」


 いくらなんでも荒すぎるっ! いや適当過ぎるだろ!

 これじゃ戦い方身に付かないって! そんな全力全開でかかって来てもこっちは上手くならないから!


「それっ!」

「ぴいぃっ!?」


 無茶過ぎる特訓を、フィーリは決して止めようとしない。俺はただダガーで何度も迫ってくるシールドソードを受け止めるだけだ。


 ダガーとシールドソードの交錯で生まれた振動が、激しさを物語るようにとびりびりと伝わってくる。

 手が……痛い……!


「フィ、フィーリ! もう止め――」

「まだまだ行くよっ!」

「わあぁぁぁぁまた来たぁぁぁぁ!」

「大丈夫大丈夫。シンジが怪我しないように当てるから」

「やめてえぇぇぇぇ! もう終わっ、うわああああぁぁぁぁっ!!」


 剣刃がひゅんひゅんと危なげに飛び交い、ただ翻弄されるだけの一方的な訓練が小一時間続いた……。




「よしっ、じゃあ次は模擬戦をやろっか」 


 やっと解放された矢先、フィーリがとんでもない事を提案してきた。


「ぜはぁ、はぁ……ぇほっ! げほっげほっ! ぅえ……む、無理ぃ……っ! 模擬戦なんかやってられんよ……っ!」


 さっきの特訓で俺はもうヘトヘト。地面に転がる屍と化してしまう。

 このままずっと休憩してたい。模擬戦をやる必要あるのか?


「ほら、すぐ立って。そこでずっと寝てると日が暮れちゃうよ」

「い、嫌だっ。もうやりたくないっ! 模擬戦なんかしなくていいからっ!」

「一度やってみないとシンジがどれだけ身に付いたか分かんないじゃん」


 などと、ぐいぐい身体を引っ張ってくる。それでも拒否の姿勢は崩さない。


「わからなくていい! どのみちボッコボコにされるんだろ? イヤだよぉー! せめて勝ったら何か出来るでもなきゃ戦いたくねえよぉー!」

「勝ったら何かする、ね。それならやってくれるんだ。じゃあ……」


 なんだなんだ? 条件でも出してくれるのか? 

 悪いが今は簡単に――


「私に勝てたら、何でもしていいよ(、、、、、、、、、)



 ――――――ん?



「今……何でもしていいと言ったよね?」

「言ったね」

「ほう? ほっほう?」


 自分が何を言ったのかフィーリは一縷とも気にしていない。

 聞き間違いじゃない。言質だって取れた。


 来た来た来た。来たよ、このフラグ……!

 何でもしていい、という事は……つまり! 胸を揉んでいいって事だよなあっ!


 やったぜ! ラッキースケベできるチャンスがやってきたよ!


「ふむ……」


 フィーリの胸は見たところEカップ程ありそうだ。

 胸を凝視(セクハラ)したものの、フィーリは「?」を浮かべてこっちのゲスい真意に気付いていない。


「お、起きたねえ。さっきのダラけぶりが嘘みたいにやる気に満ちてるじゃん」


 へへっへ、特訓で疲れた身体にエネルギーが満ちてきたぜ!

 男は合法的にスケベができると頑張れる頼もしい(さいていな)生き物だからなあ!


 模擬戦でフィーリに勝って……あの胸を揉みしだくっ!!


「何でもしてもいいのか? 本当に?」

「本当だよ」

「後悔しても知らないぞ。今なら取り消してもいいんだぞ?」

「二言はないよ」


 負けるはずがないとでも思ってるのか撤回する気はなさそうだ。そうでもなきゃ何でもしていいなんて言わないだろうけどな。


「レトも噛んでこない?」

「噛まない噛まない。そうだよね?」

「キュキュー……」


 足元で不服そうに鳴くレト。こっちの考えてる事を見抜いてるだろうが、ご主人様に止められりゃ不満だよな?


 え? さっき特訓したばかりのアマチュア討伐者が実力者に勝てるわけないだろって?

 なーに、大丈夫さ。対策はもう出来ている。


「じゃあ模擬戦を始めよう」

「よっしゃあ!」


 互いに間合いを取り、得物を構える。

 どれだけ上達しているかフィーリは確かめてみたいんだろうけど、こっちは訓練の結果を見せるとかはどうでもよくなっている。


 頭の中にあるのは、模擬戦に勝ってご褒美(、、、)を手にするだけ。それだけだ。


「じゃあ始めるねー。はい、スタート」


 シールドソードが、キンッ! と金属音を散らし、フィーリが肉迫する。

 速い。このままでは訓練みたく受けの一方だ。


 あっさりと負けてしまう…………って事にはならんよ!


 これでも受けてみろ――!


「●竹フラッシュ!」

「!!」


 迫って来るフィーリを前に、左手をかざす。左手からは閃光が生まれ、それを中心に辺りが白く眩いた。


 今のはソールから貰った魔法を繰り出したのだ。


 これが魔法か。ソールの言った通り攻撃はできないみたいだが、相手の目を眩ますことはできそうだ。いきなり役に立ったな。


 ふっふっふ……フィーリは眩しくて動きを止めているだろう。どれだけ強くても、前が見えなければどうも出来まい。

 俺も眩しくて前が見えないのが難点だが、それに気を付ければ何てことはない。これはなかなか戦略の幅が広がるのではないか?


 さてさて……さっさとこの戦闘を終わらせて、最高の時間を味わってやろうじゃないの!


「はあぁ――――っ!!」

「へ……?」


 閃光が消え視界が戻った時、目の前は望んでいたはずの光景は無く何かが眼前に迫っていた。


 その正体は――盾だった。


「ぶごっはああああぁぁぁぁっ!!」


 突撃する盾がまともに衝突し、車に轢かれたような衝撃を受けて吹き飛ばされる。目の前がぐるんぐるんと掻き廻されぐちゃぐちゃになった。

 ぶわっと重力を離れた身体はもう一度強く打ち、ゴロゴロと移動する。地面をボールのように転がってるらしい。


「ぅぐぁ……痛あぁぁぁぁっ!!」


 転がる身体がやっと止まった時、訪れたのは身体中を蝕む激痛だった。


 あだだ……っ! 左腕がくっそ痛いぃぃぃぃ! ゆ、指がっ、突き指してるぅ!

 盾が思いっきり当たったせいで凄まじい痛みがあぁぁぁぁ……!


「はー、びっくりしたー。今の何? 魔術? シンジって魔術使えたの?」


 少し離れた先で、フィーリが意表外な反応を見せている。

 魔法を魔術攻撃と勘違いしてるようだ。魔法は普通の人間にない力だから当然の反応だが……。


 それよりも……なんで魔法が効かなかったんだ……!?

 瞬時に盾で閃光を見ないよう防いだのか? 防ぐにしては反応が速い。防いだというより何かしらの力が働いたとしか思えないぞ……。


 そ、そうだ。『神眼』でフィーリのステータスを見れば……。



〔フィーリ〕

《プロフィール》

 クラス:ガーディアン

 年齢 :24歳

 身長 :159cm

 体重 :43kg


《パラメーター1》

 体力:47148/47148

 筋力:3996/9999

 耐久:3682/9999

 魔力:3855/9999

 魔耐:3743/9999

 器用:4568/9999

 敏捷:4251/9999


《パラメーター2》

 技巧:516/999

 移動:539/999

 幸運:423/999

 精神:783/999


《スキル》

『詠唱短縮Ⅱ』

 ・魔術習得者専用。詠唱時間を大きく短縮する。同系統スキルの重複不可。


『ハイ・レジスト(光)』

 ・光属性の魔術、魔法、付加を持った攻撃によるダメージを大きく減らし、耐性を持つ。

 [着脱不可]



 あれぇ……フィーリってとても強いと思ったけど、パラメーター高くなあい? もしかして俺のステータスの方が低すぎ?

 スキルも強そうだし、この『ハイ・レジスト(光)』って異様に強くないか? 魔術だけじゃなく魔法まで耐性持ってんぞ!


「とうっ!」

「うひいっ!?」


 剣刃がすぐ近くの地面にズンと突き刺さる。フィーリが攻撃を再開したからだ。

 舌打ちするように光を返す剣刃。手加減しつつ容赦の無い刺突に、身体中がサーッと冷え渡っていくのを感じた。


「すぐに態勢を整えるっ! モンスターは相手が痛がっても苦しんでも容赦しないからね!」


 その理屈はわかる。この状況は敵にとって好機だからな。

 わかるけどさあ……模擬戦でここまでやるぅ!?


「く……っ!」


 状況は圧倒的に不利だ。

 ここは…………逃走するっ!


「あっ、逃げるな! 逃げたら模擬戦の意味無いじゃんっ!」

「逃げます逃げます逃げまぁーすっ!!」


 フィーリを背にして疾走っ! 


 戦闘は時に逃走という手段も必要だっ! ゲームも敵わない相手には逃げる方が利口だしな!

 模擬戦なのに逃走とかもうめちゃくちゃだけど、俺は逃げるっ!


「レト! 追いかけて!」

「キュッ!」

「ほぶうぅっ!?」


 腹部に小さい影がぶつかり、鈍い痛みが襲ってくる。

 レトが逃走を上回る速さで回り込み、体当たりしてきたのだ。


 おかげで転倒。体当たりが的確でお腹が痛いぃ……!


「おおぉ……ふぐぅ……! 死ぬ……死んじゃう……っ」


 レトめぇ……余計なことをぉ……!


「シンジッ!」

「おわあぁぁぁぁ!? 来るな! 来るなあぁぁぁぁっ!!」


 悶絶してる間にフィーリが得物を構えて距離を詰めて来る。

 降伏を宣言しても彼女は受け付けてくれず、模擬戦はその後も続いた。


 ラッキーイベント解放という野望は無惨に散り、俺は……特訓より酷い有様を晒してしまうこととなった……。


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